「宇田川源流」【日本報道検証】 『一つの中国』を認めながら中国を批判する西側諸国の自己矛盾
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。
さて今回は、昨年末12月29日から、中国が台湾周辺を取り囲むようにして軍事演習を行ったことに関し、アメリカ、ヨーロッパが批判の声明を出していることに関して、その内容を見てみたいと思います。
2025年の年末、中国人民解放軍は台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を実施しました。この演習は、空軍、海軍、ロケット軍など複数の部隊が参加し、台湾海峡周辺や南シナ海、東シナ海において同時多発的に行われました。演習では、実弾射撃、艦船の機動展開、戦闘機による領空接近、ミサイル発射演習などが含まれており、台湾本島への圧力を強める形となりました。また、演習期間中には、中国側の艦船や航空機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に頻繁に進入し、台湾政府は警戒態勢を強化しました。
中国政府は、今回の軍事演習について「台湾独立勢力への警告」とし、「中国の領土保全と主権を守るための正当な行動」であると強調しています。中国政府は一貫して、台湾を「中国の不可分の一部」と位置づけており、台湾での独立志向や、外国勢力による台湾への軍事・外交的支援に強く反発しています。今回の演習は、台湾の総統選挙や国際社会における台湾支持の動きに対し、中国が自らの立場を明確に示すための意思表示とされています。
背景には、中国共産党政権が国内の統治基盤を強化するため、国家統一の重要性を強調している点があります。また、アメリカや日本など西側諸国が台湾への支援を強めていることに対し、軍事的な圧力を通じて牽制する意図も見られます。中国政府は、台湾問題を「中国の内政問題」とし、国際社会の介入を断固拒否する姿勢を鮮明にしています。これにより、台湾海峡の緊張が一層高まることとなりました。
<参考記事>
米下院、台湾包囲演習非難 中国の「意図的な激化」
12/31(水) 共同通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6d9b86518223b33d50549bdd8c785a76b1b77768
中国演習 英仏独が批判声明
2025年12月31日 07時47分時事通信
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12145-4823090/
<以上参考記事>
中国は2025年末に台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、実弾射撃や海空をまたぐ統合作戦能力の検証、重要港の封鎖訓練などを行いました。中国はこれを「台湾独立勢力および外部干渉勢力への厳重な警告」と位置づけています。
これに対して、英・仏・独・米などの西側諸国は次のような声明を出しました。各国の批判のポイントは以下の通りになります。
英国:演習は「台湾海峡の緊張を高め、エスカレーションのリスクを増大させる」と懸念を表明し、武力や威圧ではなく平和的な解決を求めるべきだと主張。
フランス:一方的な現状変更に反対し、緊張を高める軍事的威嚇に懸念を示したと報じられています。
ドイツ:台湾海峡の安定が国際安全保障にとって重要だとして、自制を求める声明。
アメリカ:公式声明は先行して出ていますが、2025年の米国政府声明でも中国の軍事挑発について深刻な懸念を示し、地域の平和と安定維持の重要性を強調しています。
これらの国々が批判した主なポイントは次の通りです:
1・軍事演習が地域の緊張を高め、偶発的な衝突のリスクを増す。
中国の動きは周辺国の安全保障環境を不安定化させるという懸念。
2・武力や威圧ではなく、対話や平和的手段での問題解決を支持する。
西側諸国は紛争の武力による解決ではなく、平和的な合意形成が必要だと表明しています。
3・現状変更(一方的な力による状況の変化)に反対する。
国際秩序や地域の安定を保つために、力の行使による現状変更を避けるべきだとの立場です。
一見すると矛盾しているように見える「一つの中国」政策の認識と批判の発言ですが、ここには国際外交での微妙な区別があります。
・ 「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違い
中国の主張(One-China Principle)
北京政府は「中国はひとつであり、台湾は中国の領土の不可分の一部」とする立場です。これが中国の公式な政治原則です。
西側諸国の「一つの中国政策」
米国や多くの欧州諸国は、1970?80年代の国交正常化宣言に基づき以下のように立場を説明しています:
・ 中国政府を中国を代表する唯一の政府として認める。
・ しかし、台湾の主権や最終的帰属については明確な立場を取らない(「認識」するだけで支持・承認しない)。
・ 台湾の政治的将来は平和的に解決されるべきと考える。
つまり 米英仏独などが認めているのは、中国の「政府としての唯一性」 であって、中国の「台湾は中国の領土である」主張の全面的な承認ではありません。これは国際法的にも重要で、これらの国々は「台湾の主権については立場を留保する」形で政策を運用しています。
中国の言う「一つの中国原則」は、台湾が将来的に必ず中華人民共和国の一部になるという前提ですが、西側諸国の政策は、それとは異なる曖昧さのある表現です。
こうした立場は外交上のバランス政策であり、実際には次のような理由から行っているということになり、一見矛盾しているように見えながらそうではないということになります。
・国家主権や現状維持の支持
批判する国々は民主主義や国際秩序の観点から、「武力で現状を変える行為」に反対しているのです。つまり、
中国の軍事演習自体は地域の安定を損ねる行為だ
台湾海峡での一方的な軍事的圧力は国際社会の懸念事項だ
という立場であり、中国の理論的「一つの中国原則」をそのまま支持しているわけではありません。
・ 国際法と外交的曖昧さの維持
多くの西側諸国は、国際法に基づいた紛争予防・平和維持を重視しており、現状変更につながる武力行使への反対を明確にすることで、地域の緊張を高める行為に対する抑止メッセージを送っています。
これは「一つの中国政策」を名目的に認めつつも、実際の行動としては独自の基準(平和的解決、現状維持、軍事的威圧への反対)を持つという外交上の立場から来ています。
ではこれからどのようになるのでしょうか。
米国や欧州は、形式的な「認識」を維持しつつも、現状変更のリスクが高い行動には引き続き批判をする。これは外交上の矛盾ではなく、政策として意図的な曖昧さを保つものです。
中国は「一つの中国原則」を堅持しつつ、軍事圧力や外交圧力で国際的な支持を広げようとする。これに対して米欧は「原則の尊重」を求めながら、強制力の行使には反対するという立場を取る可能性があります。台湾海峡の安定を重視する立場から、軍事的緊張を高めないように米欧が協調する一方で、台湾への防衛支援や外交支援は続けられる。
このように、各国の「一つの中国」への対応は、外交的に曖昧性を保ちながら、現状を変えようとする行為には批判をするという二重の戦略を取っています。これが「矛盾しているように見える」理由であり、実際には国際法・外交戦略に基づいた緻密な平衡政策だと理解できます。
昨年の国会での高市発言に関して、アメリカやヨーロッパが高市首相の発言を明確に指示しないのは、「曖昧さの求められる外交」を「はっきりさせようとした」ということが問題であるとされています。逆に「はっきりさせるのであれば、台湾独立を宣言し戦争の準備をするか、あるいは、台湾併合を支持して、中国政府の言うままにする」というに二者択一しかなくなってしまうのです。高市発言に関して「台湾独立を言うでもなく、また、戦争の準備をするでもなく、戦争になれば他国を頼るのに、曖昧外交をはっきりさせた」ということが、明確な支持を出せない理由でもあるのです。
そのはっきりしない欧米の態度に対して今回の演習を行った、ということ、つまり「中国もはっきりさせて曖昧さをなくそうと行動している」ということではないかということになるのです。