「宇田川源流」【現代陰謀説】 アメリカ亜の選挙制度には脆弱性があり中国が介入しているというトランプ大統領的な主張
毎週金曜日は「現代陰謀説」をお届けしている。現代に横たわる陰謀を見ながら、その内容をどのようにして、ニュースなどから端緒を見つけることができるかということを考える内容になっているのである。実際に、陰謀は様々な所で行われており、その内容をいかに感がてえゆくのかということをしっかりと見ていなければならない。全く表面に出ない陰謀などもあるが、実際は、ニュースなどに何か端緒が出ていたり、あるいはニュースに何かか隠されているようなことも少なくないのである。それを、読み解くために何をすべきかということを考える連載である。
さて、今回は「端緒が出た」ということを見る内容である。この物事の考え方を見る事は、日本人は非常に苦手であるということになる。日本人は歴史の中で島国という閉鎖された中でなおかつ村社会を中心に物事を見てくることになっていたので、あまり、相手の立場に立ってというか、相手の感覚で物事を見るということに慣れていない。そのことから、「その言葉が何を意味しているか」ということを自分の感覚や日本人の常識という不確定なもので見てしまうことになるのである。そのことから「端緒」を引き出すことが非常に不得意な民族性を持っているのである。
しかし、そもそも「相手の国の国民性」「思想の根源(イデオロギー)」「宗教観(死生観)」など基本的なことを考え、そのうえで、相手の発言が、それらから出ているものであるかどうかを見れば、単純に物事を見ることが可能になる。その端緒というものは非常卯に簡単に見えることになるはずなのである。
そして、その言葉が、今の言葉で言う「炎上」つまり、他者から批判される状況になると、その言い訳をするようになる。言い訳といういうよりはどちらかと言えば、政党かということが言えるのではないか。そしてその正当化が、「政府そのものの意見」である場合又はその政府の元の意見である場合は、当然に、そこに「本音」つまり、国の政治の根幹が見て取れるのである。つまり「一回出たとき」はその個人の思想かも知れないが、その後炎上か何かをして非難され、その「言い訳」が出てきたときには、当然に、その言い訳の中に、またそれを擁護する政府に、その本音を見ることができるのではないか。
<参考記事>
トランプ氏、米選挙システムに「衝撃的な脆弱性」あると主張 中間選挙を控え
7/17(金) 15:34配信 BBC News
https://news.yahoo.co.jp/articles/1c3d4a7227b7589d8e0f7a870428f19848daad74
大統領選巡るトランプ氏演説に中国外務省が反発 「でっちあげ」
7/17(金) 17:57配信 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/76245dc86a6f3b83a8055acd4e161e5c3435cb83
<以上参考記事>
この陰謀では、トランプ氏は単なる一政治家ではなく、「ディープステート」や中国共産党などの巨大な国際ネットワークと戦う人物として描かれます。そして、中国外務省が強く反発したこと自体を「図星を突かれた証拠」と解釈します。陰謀論では、否定は潔白の証明ではなく、「必死に隠そうとしている」という根拠に読み替えられるためです。さらに、この物語では現代の戦争は戦車やミサイルではなく、「民主主義そのものを内部から崩壊させる戦争」であるという前提が置かれます。
中国共産党は軍事力だけではアメリカに勝てない。しかし、アメリカ人同士を対立させ、共和党と民主党を憎しみ合わせ、人種や宗教やジェンダー問題で社会を分断し、「選挙そのものを誰も信用しなくなれば」、世界最大の民主主義国家は自滅するという考え方です。そこでSNSが利用され、AIが利用され、フェイクニュースが利用され、さらにはサイバー攻撃によって選挙システムの弱点を探り続けているという筋書きになります。
この陰謀節では、中国は必ずしも実際に票を書き換える必要はありません。「書き換えられるかもしれない。」「実際に侵入しているかもしれない。」「本当の結果は隠されている。」そう国民に思わせるだけで十分だという理屈になります。
そして、ここでよく引用されるのが、しばしばスターリンの言葉として紹介される「投票する者が決めるのではない。票を数える者が決めるのだ(It's not the people who vote that count. It's the people who count the votes.)」という一節です。ただし、この言葉については重要な点があります。この文言はスターリンの発言として非常に広く流布していますが、歴史学的には本人が実際に語ったことを示す一次資料は確認されていません。そのため、「スターリンの有名な言葉」として引用されることは多いものの、真正性には疑問があると考えられています。それでも陰謀論では、この言葉は「スターリン主義の本質」を表現した格言として扱われます。
そして陰謀はさらに発展します。ソ連は軍事力で西側を倒そうとしたが失敗した。そこで中国共産党はその失敗を研究し、「軍事ではなく認知を支配する」ことに戦略を変えたというのです。この考え方では、中国共産党はソ連崩壊を最大の教材として研究してきたとされます。この点については、実際にも中国共産党がソ連崩壊を重要な研究対象としてきたこと自体は、中国指導部の発言や党学校での研究などから知られています。しかし、そこから「民主主義国家の選挙を操作することが国家戦略になっている」という部分は、確認された事実ではなく、陰謀論が付け加える要素になります。陰謀論ではさらに、「三戦(世論戦・心理戦・法律戦)」や「超限戦」の概念が結び付けられます。ここでの主張は、「中国は選挙結果そのものではなく、選挙制度への信頼を壊すことを狙っている」というものです。そして、アメリカ国内で「選挙は不正だった」「いや、不正ではない」という論争が何年も続いている状況そのものを、「中国の作戦はすでに成功している証拠だ」と解釈します。
さらに陰謀は一歩進みます。
「電子投票機メーカー。」「クラウドサーバー。」「SNS企業。」「AI。」「半導体。」「通信衛星。」「海底ケーブル。」これらはすべて別々の企業ではなく、一つの巨大な情報ネットワークとして結び付けられ、「世界の情報インフラはすでに中国の影響下にある」という壮大な構図が描かれます。そこでは、「票を書き換える必要などない。情報の流れを制御すれば、人々は自ら望む候補に投票するよう誘導される」という発想になります。
このような陰謀は、非常に整合的で説得力があるように見えることがあります。しかし、その説得力は、多くの出来事を一つの意図的な計画に結び付ける語り方から生まれている面があります。現実には、中国を含む複数の国家が情報工作やサイバー活動を行っていることは各国政府や研究機関によって広く指摘されています。一方で、「選挙結果が秘密裏に操作された」「巨大な一元的陰謀が存在する」といった主張については、それを裏付ける十分で検証可能な証拠があるわけではありません。そのため、現実の分析としては、外国勢力による認知戦やサイバー活動の脅威は真剣に評価すべき一方で、それらを一つの包括的な陰謀として断定するのではなく、確認された事実と推測、そして物語的な解釈を区別して考えることが重要だと言えるでしょう。
「もしトランプ氏が主張するようなディープステートや、中国を中心とする巨大な秘密工作ネットワークが実在すると仮定したら、日本はどう見えるか」という設定で描くのであれば、次のような世界観になるでしょう。以下は事実ではなく、そのような陰謀論がどのような論理で展開されるかを説明するものです。この世界では、日本は最も攻略しやすい民主主義国家の一つという位置付けになります。理由は、軍事的に弱いからではありません。むしろ、日本社会には相互の信頼が厚く、海外からの影響工作を前提とした制度設計が十分ではないという点が「弱点」とされます。
この陰謀では、敵は日本を侵略するために自衛隊と戦う必要はありません。国民自身が気付かないうちに、日本人が日本の国益とは異なる方向へ動くよう誘導できれば、それで十分だと考えます。そのため、最初の標的は政治そのものではなく、情報になります。
テレビ、新聞、SNS、動画配信、大学、研究機関、シンクタンク、経済団体、さらには文化やエンターテインメントまで、あらゆる分野に少しずつ影響力を浸透させ、社会全体の価値観を長い時間をかけて変えていくという筋書きです。この世界観では、「スパイ」とは映画に出てくるような秘密工作員ではありません。
「評論家」「大学教授」「企業経営者」「地方議員」「国会議員」「官僚」「インフルエンサー」「あるいは外国資本と深く結び付いた実業家」彼ら全員が、それぞれ異なる理由で外国勢力の利益に沿った行動を取る可能性があると描かれます。中には自覚的な協力者もいれば、自分では善意で行動しているだけなのに結果として利用されている人もいる、という設定になります。
この陰謀では、日本に包括的なスパイ防止法がないことは、「見えない戦争」に対して無防備であることの象徴として語られます。敵は秘密文書を盗むだけではありません。政治資金。学術交流。留学。企業買収。技術提携。SNS広告。世論調査。AIによる情報分析。これらすべてが「静かな浸透」の手段として位置付けられます。
さらに陰謀論は一歩進みます。国会議員の中にも、外国勢力の影響を受けている者がいるかもしれない、という疑念です。現実には、各国で外国からのロビー活動や影響工作への懸念は存在し、透明性や利益相反の管理が課題となっています。しかし、このフィクションでは、それが秘密結社のような形で描かれます。議員本人も、自分が利用されていることに気付いていない。秘書が入り込んでいる。政策ブレーンが入り込んでいる。シンクタンクが資金提供を受けている。選挙コンサルタントが外国企業と結び付いている。こうして政策そのものが少しずつ誘導され、日本は自らの意思で決定しているように見えながら、実際には見えない手によって方向付けられているという筋書きになります。
ここでスターリンの格言として広く知られる「票を数える者が結果を決める」という言葉も引用され、「現代では、票を数える者ではなく、何に投票するかを決める者こそが支配者だ」という形に発展します。つまり、投票日に何が起きるかではなく、その数か月、数年前から有権者の意識を形成することこそが決定的だというのです。そして、この物語ではAIの登場によって状況はさらに深刻になります。
AIは一人一人の思想や興味を分析し、その人が最も反応しやすい情報だけを届けます。保守には保守向けの情報。リベラルにはリベラル向けの情報。若者には若者向け。高齢者には高齢者向け。誰もが「自分で判断している」と思いながら、実は最適化された情報空間の中で意思決定をしているという設定です。
その結果、日本社会は一つの国でありながら、異なる現実を信じる複数の社会へと分裂していきます。ある人は「中国の影響が日本を侵食している」と信じ、別の人は「そんな話は陰謀論だ」と考え、さらに別の人は「アメリカこそ日本を支配している」と主張します。この世界では、外国勢力はどの立場が勝つかを重視していません。重要なのは、日本人同士が互いを信用しなくなることです。国会は対立し、官僚は動けず、メディアは信用を失い、裁判所も疑われ、選挙結果も受け入れられなくなる。
そうなれば、日本は外国から直接征服されなくても、自ら意思決定ができない国家へと変質していく、という結末になります。もっとも、現実の安全保障研究では、外国勢力による情報工作、サイバー活動、経済的影響力の行使、ロビー活動などは各国が対策を講じるべき課題とされています。しかし、それらが日本全体を一つの秘密組織が裏から支配しているとか、特定の勢力が国会全体を秘密裏に操っているといった主張を裏付ける確かな証拠は確認されていません。
そのため、現実の議論としては、外国による影響工作への備えを強化する必要性と、根拠のない断定を避けることは両立します。一方で、フィクションや政治サスペンスとして描く場合には、「目に見えない影響力が民主主義を内側から揺さぶる」というテーマは、十分に物語性を持った設定になり得るでしょう。