「宇田川源流」【お盆特別:日本人と戦争】(7) スパイとスパイ防止法

「宇田川源流」【お盆特別:日本人と戦争】(7) スパイとスパイ防止法


 今年のお盆休みは、戦後80年ということで、日本人と戦争についてゆっくりと考えてみたいと思います。このお盆特別連載は、日曜日も土曜日もなくそのまま継続しようと思っていますので、よろしくお願いいたします。なお、「戦争」という特集をこの時期にしますが、大東亜戦争に関する内容は参考にしながらもその内容を書こうとは思っていないので、あくまでも現代人として戦争をどのように見るかということを考えましょう。

さて、個人的なことですが、今回の連載に関しては「生成型AI」を使ってみたいと思います。私としては初めての試みですが、「生成型AIによる下書きを、私が改定する」というやり方で実験的に使ってみたいと思っております。なお、生成型AIは本格的に使っているわけではないので無料で勝手に入ってきた(と言っては失礼ですが)Copilotを使ってみようと思っております。何か普段との違いがあると思った方は、そのような事情と拝察いただければありがたいです。

さて、7回目は「スパイとスパイ防止法」と題して、日本の情報に関して見てみましょう。

★ 改めてスパイの定義

「スパイ」は映画の中だけの話ではない。現代日本で進行しているのは、軍事機密の窃取だけではなく、サイバー侵入、重要インフラ妨害、学術・産業を経由した先端技術の吸い上げ、さらには世論操作まで含む広義の情報活動だ。しかも多くは平時の顔をした“グレーゾーン”で進む。私たちが本当に守りたいのは、領土や機械だけではない。表現の自由、学問の自由、オープンな社会という「生き方」だ。だからこそ、防諜を口実にそれらを損なうなら本末転倒になる。問いは厳しい。日本は何を、どこまで、どうやって守るのか。

 スパイは「ヒト・モノ・データ」を狙う物として存在する。その対象は¥「ヒト(人的浸透)」「官庁・防衛関連・規制当局・自治体への接近」「研究者や高度人材の勧誘(招聘・資金・共同研究を介する)」「業務委託・下請け・派遣を介したサプライチェーンの“薄い環”を突く」「モノ(技術・装置)」「デュアルユース技術(半導体、量子、AI、宇宙、海洋、先端材料)」「試作機・測定器・製造装置の迂回輸出、背後の最終需要者隠し」「データ(サイバー・情報)」「政府・防衛・重要インフラ(電力・交通・通信・医療・金融)への侵入」「秘密指定外の“機微情報”の大量窃取(メール、図面、契約、研究データ)」「世論操作(偽情報、広告網、ボット、インフルエンサーの買収)」「作戦領域の“ボーダーレス化”」「海外拠点・学会・共同研究・スタートアップ投資・下請け網・クラウドの結節点で起きる」「“合法と違法の狭間”に滞留し、摘発や抑止が難しい」ということを対象にしている。これは実は、日本人においてはすべての人が、大勝またはその対象物を扱っているということになるのである。自分は偉くないから狙われるはずがない、などというような認識そのものがすでにスパイに狙われる「スキ」を作っているということになるのではないか。

 では日本の法制度はどうなっているのであろうか。表現すれば「点在する“部分法”と空白」というように表記される。まずは「断片的な守り」が存在する。

・特定秘密保護法(2013年):防衛・外交等の特定秘密の保全と漏洩罰則

・自衛隊法・国家公務員法:守秘義務と漏洩罰則

・不正競争防止法:営業秘密の不正取得・使用・開示の処罰。

・外為法・輸出管理:特定技術・貨物の規制、経済安全保障の下支え

・個人情報保護・サイバー関連法制、重要インフラガイドライン、官民CSIRT 等

 などがあげられる。一方で「構造的な弱点」として指摘されているのは下記のような内容になる。

・ 包括的な「スパイ罪」(外国勢力の指示・利益のための情報収集等を体系的に処罰)

・ 国の情報機関や其の協力者の活動“それ自体”に対する網

・ 域外適用や外国人エージェント登録の明確な枠組み

・ 統合的なインテリジェンス・コミュニティ設計(対外情報、防諜、分析の分業・連携)

 そして「運用面の課題」としては下記のようにまとめられる。

・ 令状主義・人権配慮に根ざす慎重さは長所だが、グレー領域で後手に回りやすい

・ 企業・大学側の「機微情報」認識・区分・取扱いにムラがある

・ 人的セキュリティ(人事審査・身辺管理)の制度化が途上

 では歴史的な評価や日本の政治文化としてはどのようなことになるのであろうか。

 まず情報に対して何羅漢の制限を食わるとなると、戦前の抑圧の記憶(治安維持法等)への反省は、日本の民主主義の“原罪の自覚”でもあるとされてしまう。そのうえ、その戦前の反省から作られたとされる戦後憲法の下で、表現・学問・報道の自由は社会の核として育ってきた事があり、スパイなど情報面の教育は全く考えられていない。この文化が「秘密主義への警戒」として健全に働く一方で、現代の複合的脅威に対する制度整備を躊躇させてきた側面もある。このようなことから、日本は「スパイ天国」として世界のスパイが入ってきており、また先進国は日本に情報を公開することを拒むようになってきてしまっているのである。

★ 今話題のスパイ防止法

 近年、日本における安全保障意識の高まりと国際情勢の変動を受けて、「スパイ防止法」の整備が重要な政策課題として再浮上している。特に技術流出、世論操作、人的浸透、さらには外交的緊張の高まりを背景に、国家機密の保護と外国勢力による干渉への対抗策が急務とされるようになった。しかし、この種の法制度には、自由権の制限や市民社会への影響といった複雑な課題も伴う。

まずはそのスパ御防止法を必要とする肯定論から考えてみる。国家と市民を守るための制度的必然というのがその趣旨になる。

 スパイ防止法の制定が支持される最大の理由は、国家安全保障上の空白を埋めるという点にある。現状の日本では、外国勢力による諜報活動を包括的に処罰する法制度が未整備であり、現行の外患誘致罪や特定秘密保護法では摘発・立件が困難となる。情報戦が現代の戦争の主軸となるなか、こうした脆弱性を放置すれば、戦略的敗北や主権侵害にもつながりかねない。

 加えて、国際的な同盟関係の信頼構築にも関係する。特にファイブアイズ(米英加豪ニュージーランド)などの情報共有枠組みにおいて、日本の法整備が不十分であると、同盟国から機密情報の共有が制限される可能性がある。スパイ防止法は、日本が「情報の信頼できる管理者」であることを示す象徴でもある。

 また、経済安全保障の文脈でも法整備は急務です。半導体、量子技術、AIなど先端分野では、技術流出が国家競争力の低下に直結することになる。産業スパイによる損害を未然に防ぎ、知的資本を保護するためにも、明確な刑罰と摘発手続きが必要不可欠である。

 加えて、スパイ防止法は国民自身の安全にも寄与する。諜報活動のターゲットは政府だけではなく、大学研究者、企業技術者、市民団体など多岐に渡る。その脅威から国民を守るためには、法制度という「盾」の整備が不可欠ということになる。。

 一方で慎重論にも配慮する必要がある。自由を守るための制度設計上の配慮である。

 一方で、スパイ防止法には極めて繊細な制度設計が求められる。まず懸念されるのが、スパイ行為の定義の曖昧さということになろう。情報収集や意見発表がどこまで「国家機密漏洩」や「外国勢力への協力」と解釈されるかが不透明であると、報道・学術・市民活動まで処罰の対象となりかねない。1985年に廃案となった国家秘密法案も、定義の不明確さが大きな批判を招いた。

 また、報道の自由や表現の自由への影響も無視できない。内部告発や調査報道が「スパイ行為」と見なされた場合、権力監視機能は著しく損なわれる。これは民主主義社会における健全な情報循環を妨げ、市民の知る権利を制限することにつながる。

 さらに、監視社会化のリスクも存在する。スパイ防止法が広範な捜査権限を許容する場合、公安・警察による通信傍受やSNS監視が常態化し、プライバシーの侵害が懸念されます。国家が市民を監視する構造は、戦前の治安維持法の記憶を想起させ、国民に深い不信感を抱かせる可能性がある。

 こうした懸念を払拭するためには、制度設計における透明性と独立性の確保が不可欠ということになる。機密指定は第三者機関による審査を義務づけ、報道や公益通報に対しては適用除外条項を明記することで、市民の権利と安全保障の両立を目指すべきである。

具体的にはこのような項目になる。

・ 犯罪構成の核(明確・限定的に)

・ 外国勢力の指示・統制・資金による情報収集・提供・妨害(目的犯)

・ 対象情報は「国家の安全に重大な害を及ぼし得る機密・機微情報」に限定

・ 未遂・共謀・準備の処罰は、具体的危険の顕在化に絞る

・ 明確な除外・適用除外( chilling effect 防止)

・ 正当な報道・取材、学術研究、労働組合活動、公益通報を適法領域として明記

・ 公益目的の内部告発は独立機関を通じた適法ルートを用意

・ 調査・捜査と統制

・ 令状主義の厳格運用、対象の限定、期間の上限、ログ保全

・ 通信傍受・捜索差押えは独立機関の事後・定期監査を義務付け

・ 捜査の「比例原則」と「必要最小限」原則を法文に埋め込む

・ 透明性とアカウンタビリティ

・ 年次報告(件数・類型・成果・違法運用の是正)を国会に提出

・ 独立監視機関(仮称:防諜監視委員会)を設置、行政からの独立を担保

・ 罰則と運用

・ 重罰化は「外国勢力性+重大害+故意」が三位一体で成立する場合に限定

・ 初犯・軽微・過失は教育的是正・行政措置で対応する層を設ける

・ 域外適用と外交カード

・ 日本の利益を狙った国外犯に限定的域外適用

・ 不当拘束への対抗(身柄交換含む)を見据えた法外交の整備

 スパイ防止法の議論は、単なる安全保障政策ではなく、自由と権利をどこまで国家が制限できるかという哲学的な問いでもある。国家を守るために国民の自由を制限するのか。それとも、国民の自由を守ることで国家の価値と威厳を高めるのか。

 最も強い国家とは、秘密を抱える国家ではなく、自由を保ちつつも透明で公正な仕組みを持つ国家です。スパイ防止法の制定はその理想に向けて、慎重に、そして誠実に議論されるべき制度的挑戦だと言える。

 同時に法律に頼るものではない。国全体として取り組まなければならない問題であるということも言える。

・機微情報のレイヤリング(分類と運用)

・機密(法的秘)、機微(法外だが保全要)、公開の三層

・ラベリング・アクセス権限・持出しルール・廃棄までのライフサイクル管理

・人的セキュリティ(トラストの設計)

・役割に応じた適性評価(安全保障人事審査)の導入

・スクリーニングの透明性・不服申立手続の整備

・産学官のコンプライアンス

・共同研究・外国資金・人材受入れのデューデリジェンス

・大学・中小企業向けの標準契約・チェックリスト・相談窓口

・サイバー基盤の底上げ

・クラウド利用時のデータ所在・法域リスクの可視化

・中小へのセキュリティ共助(SOCの共同化、保険、税制)

・教育・啓発

・現場で迷わない「グレーゾーン事例集」の配布

・研究者・記者・企業法務向けの継続研修

 “自由を守るために、自由を手放すな。”??これはスローガンではなく、設計原理だ。反スパイ法は、国家の恐怖を社会に強いる装置ではない。私たちの生活、研究、仕事、議論、批判、夢を、外からの侵食と内側の無関心から同時に守るための「透明で、限定的で、検証可能な」枠組みであるべきだ。

 立法の技術は十分にある。必要なのは、何を守るかをはっきりさせる勇気だ。安全保障か自由かではなく、自由のための安全保障へ。あなたが日々積み上げている知、言葉、仕事、そのすべてにふさわしい社会を、私たちの手で設計していくべきであろう。

宇田川源流

「毎日同じニュースばかり…」「正しい情報はどうやって探すのか」「情報の分析方法を知りたい」と思ったことはありませんか? 本ブログでは法科卒で元国会新聞社副編集長、作家・ジャーナリストの宇田川敬介が国内外の要人、政治家から著名人まで、ありとあらゆる人脈からの世界情勢、すなわち「確実な情報」から分析し、「情報の正しい読み方」を解説します。 正しい判断をするために、正しい情報を見極めたい方は必読です!

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