「日曜小説」 マンホールの中で 3 第二章 7

「日曜小説」 マンホールの中で 3

第二章 7

 あれから一カ月、次郎吉は善之助の前に姿を見せなかった。もちろん宝石を探しているのであろう。しかし、やはり毎週来ていた人が来ないというのは困ったものである。

「仕方ない、こっちも動くか」

 善之助は、以前自分が世話をした小林さんを誘った。小林さんとは以前老人会に「家に幽霊が出る」として、相談に来た不動産屋の女性である。もちろん「老人会所属の女性」であるから、年齢はかなりの妙齢である。

 確かあの事件の時は、息子の嫁がホストに入れあげ、そして金に詰まってしまったことから、小林さんの補聴器をわざと混線させ、その補聴器に幽霊の声として様々な声を入れて小林さんをコントロールしていたのである。この事件は、次郎吉が見事に解決し、小林さんを解放するばかりか、その嫁を離婚させて家から追い出したのである。

 その後、小林さんの息子は都会の大企業の娘と再婚し、その娘の企業の援助で、小林さんの不動産屋はかなり発展している。もちろんその後幽霊は出てきていないはずなのだ。

 善之助はその小林さんに付き合ってもらって、駅前の商店街にある「ジュエリー・エス」に行ってきたのである。もちろんジュエリー・エスとは、次郎吉が若いころに仲間と入って、その三角形の東山財宝のカギとなる宝石を盗みに入り、仲間を失った因縁の宝石店である。しかし、目の見えない善之助と、上品な老人である小林さんの二人で宝石屋に立ち入ったところで、そのような宝石を盗みに入っているというようなことは全く考えていない。

 善之助は、目が見えないことから、携帯電話のカメラ機能をONにしたまま、その店の中に入った。店の者はいろいろというが、やはり目が見えない爺さんが相手ではなかなかできない。現在でもペット禁止といっても、盲導犬は例外になっている。当然にスマホのカメラをONにしていても、それは「目が見えないことの問題」ということになれば、宝石店もおおめにみなければならない。特に、郷田連合のような暴力団がバックについている宝石店ということになれば、当然に、警察や官憲に目を付けられたくないということになる。そうなれば、当然に、なるべく事件にならないようにそのような話をすることになるのである。

 もちろん、その辺のスマホの捜査は小林さん任せである。

 店内をくまなく撮影し、また、かなりうろうろ歩いた。そして、「三角形というかピラミッド型の宝石はありますか」と聞いたのである。

 店の方は全く知らないかのようなきょとんとした顔になっていた。小林さんは、一応幽霊騒ぎの恩があるためにかなり頑張ってくれたのである。なんと、あの事件を逆手にとっての店員との会話はなかなか面白かった。

「いや、実はあたしは、この耳の中の補聴器に、幽霊の声が聞こえるのよ。その声でね三角形の宝石を探せといわれているんだけど、あなた方のお店にはそのような宝石はないのですかね」

「いや、三角形の宝石といわれましても、その宝石の材質もわかりませんし、また色合いなどもよくわかりません」

「そんなことを言っているのではないのよ」

「いや、そうではなく、その宝石がダイヤモンドなのか、サファイアなのか、エメラルド、またはルビーなのか。それによっても異なります。また大きさも、指輪に飾るサイズの三角形なのか、それとも、ネックレスなのか、あるいは占いなどでお使いになられるような大きなものなのかによっても全く異なるので、その辺がお分かりになれば、こちらもお探しできるのですが」

「そうなの、でもねえ、幽霊の声はそこまで行ってくれないのよ」

 小林さんはなかなか面白い。自分で頼んでおきながら、横で笑ってしまう。逆に小林さんにしてみれば幽霊疑惑どころか、嫁のホスト狂いまですべて解決してくれた恩人である。何とかしようと思っているのである。

「じゃあ、いいわ。また次に声が聞こえたら来るから」

 小林さんはそういうと善之助を連れて帰ってきた。

「あの店員何か知っているみたいだったわね」

「いや、私には表情は見えないからわからないが」

「対応していた女性ではなくてね、奥にいた男。あれは何か知っている顔してたわよ」

 小林さんも何か面白そうに話していた。ある意味で探偵気取りなのであろうか。単純に恩返しというのではなくあってきたようである。

 善之助は、結局何もわからず、なんとなく小林さんに押し切られた感じで、そのまま出てきたような感じだ。しかし、確かに宝石の種類も大きさも何も聞いていない。

 そのほかは「マル」と「ヨン」であるこれが四角形なのか四つ形の違うのがあるのかは全くわからない。そんな状態なのである。

「私も仲間に入れてよ。家に一人でいてもまた幽霊が出てくるかもしれないし」

 小林さんはなぜかそのようなことを言っている。しかし、善之助にしてみれば、まさか次郎吉に小林さんを合わせるわけにもいかない。ましてや郷田連合などの話をするわけにもいかないし、また、危険に巻き込むわけにもいかないのである。善之助は、次郎吉を除いたメンバーで謎解きのメンバーをするようにしたのである。

 そのようになってやっと次郎吉が忍び込んできた。

「爺さん、なかなかやるじゃないか」

 携帯電話の動画から、音声も何もすべて出てくる。カメラの位置もすべて記録がある。

「次郎吉に褒められるとは思わなかった」

「いや、この小林のばあさんもなかなかやるねえ」

 次郎吉は動画を見ながら、笑っている。もちろん、その姿は善之助にはわからない。

「まさか、ここに来て爺さんからこんな情報が入るとは思わなかったよ」

「私も役に立つだろう」

「ああ、ほんとうだ」

 そういいながら、次郎吉はずっと「ジュエリー・エス」の内部の画像を見ている。

「この男のいる奥に金庫があるな」

「昔と変わらないか」

「いや、全く違う。完全に違うところだよ」

「大規模な改装をした感じか」

「ああ。金庫の位置も何も全く違うな」

 カメラなどもすべて見ている。なかなか面白い。

「いやいや、爺さん。お手柄だよ。すごい。これだけ資料があればなかなか面白いところだ。これならば△の宝石は何とかなりそうだ」

「盗むのか」

「ああ、昔の敵討ちって感じかな」

 次郎吉はそういった。

「きをつけろよ、相手はやくざだからな」

「確かにそうだが、問題はこの金庫の中にあるかどうかなんだ」

「確かに」

「大きさは、拳くらい。置物なんだよ。材質はたぶん水晶だと思うけど少し紫色だった。でもなにかがちがうんだよ」

「なるほど」

 腕を組んで考えるふりをしていてもなかなかわかるようなものではない。

「しかし、まさか小林のばあさんに恩返しされるとは思わなかったね」

「本当だね」

 自腹久次郎吉は動画を見ていた。何度も同じところを繰り返したりしながら、どうも目の前に店の見取り図を作っているようだ。さすがにこの辺はプロの泥棒である。

「ところで、あのヨンという宝石のことだが」

 一通り書き終わったところで、次郎吉は口を開いた。

宇田川源流

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