「宇田川源流」 香港に「国家安全法」の導入によって「香港は終わった」という声

「宇田川源流」 香港に「国家安全法」の導入によって「香港は終わった」という声

 まず大前提として、民主主義がベストであるというような感覚はない。実際に、民主主義は衆愚になる可能性は非常に少なくなく、また個人個人が考えることを失ってしまった場合、そこは国が「民主の主権によって」滅んでしまうというような感じになる。これは「考える力がない」というだけではなく、例えば政治の仕組みや憲法の仕組み、国際法の内容などが全く見えていない場合に、簡単に扇動者によって動かされてしまい、愚にもつかないような稚拙な意見やデマゴーグに流される人々が増えてしまう。

選挙という制度も同じで、国民一人一人がしっかりと考えていればよいし、候補者や政策を考えてその内容を吟味するような姿勢があればよい。しかし、毎日の生活がありまた家族があり、政治のことばかり考えていられるわけではない。そのためにどうしてもマスコミや言論人の言葉というものが非常に大きな内容になってくる。そしてそれが例え政府批判であっても、当然にそれらの内容を政府が自由に行うことを認める必要があるのだ。そのようにして国民が当然に政治を見、また政治を学び、また言論人やマスコミが国民(有権者)の自由意思を阻害しない程度にしっかりとした事実を伝えることによって、民主主義というのは完遂するものである。

なお、注意しなければならないのは、マスコミの役目はあくまでも「事実を伝えること」であって単純に政府に対して批判をしてればよいというものではない是々非々の報道をしっかりと行う必要があり、そのためには専門的な知識とそれに基づく、しっかりとした取材に裏打ちされた報道が必要である。ファンタジーや妄想による報道は、逆に有権者の自由意思を阻害するものであり、民主主義そのものを破壊するものである。ましてや「捏造報道」や「事実に基づかないコメンテーターの発言」などは、完全に自由意思を阻害するものであって「民主主義の敵」であるということができる。

そしてもう一つの「民主主義の敵」は、間違いなく、「国家による独裁と言論の弾圧」である。そしてその状態を香港がいま受けているといえる。

中国、香港に「国家安全法」導入か 「香港の終わり」と民主派反発

 中国は21日、扇動や破壊行為を禁止することを目的とした、新しい国家安全法を導入する方針を示した。民主化を求める活動家らからは、実際に導入されれば香港の高度な自治が脅かされ、「香港の終わり」を迎えることになるのではとの懸念が上がっている。

 中国では22日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期されていた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が開幕する。ここで、国家安全法について協議するという。

 アメリカは同法の導入は香港の自治における中国の義務を非常に不安定にし、弱体化させる可能性があるとしている。

 同法の支持者は、昨年香港で勃発した政治的抗議行動における暴力に対抗するために必要だと主張している。反対派は、香港の基本的自由を排除するために使われるのではと不安視している。

 イギリスは1997年に香港を中国に返還した。以来、香港は「一国二制度」政策と「高度な自治」を守ってきた。

 しかし民主化活動家らは、香港の自治が中国によって弱体化しつつあると感じている。

 昨年香港では、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案をめぐり、数百万人もの人が7カ月にわたって街中で抗議し、次第に暴力的になっていった。この法案は立法会(議会)での審議が中断された後、最終的に正式に撤回された。

 「一国二制度」を支える、香港の憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」では、香港政府は国家安全保障法の制定を義務づけられている。しかし2003年の国家安全条例案には約50万人が反対し、廃案となった。

 だからこそ、国家安全法を強行成立しようとする試みにこうした激しい怒りが巻き起こっている。ある議員は21日、「これは香港で、中国への返還後で最も物議を醸している問題」だと述べた。

 中国政府が有権者によって選ばれた香港の議員を飛び越えて法改正できることが、これほどまでに扇動的な状況を生んでいる原因だと、BBCのロビン・ブラント中国特派員は指摘する。

 民主化活動家たちは、「香港特別行政区基本法」で定められている言論の自由を訴える抗議行動を封じ込めるために、国家安全法が利用されるのではないかと危惧している。中国でも、共産党に反対する人を黙らせるために使われている法律があるからだという。

  反対派の反応

 香港・民主党の胡志偉主席(党首)を含む、香港の多数の民主化推進派は、今回の中国の発表は「一国二制度」の死も同然だと述べた。

 公民党の郭榮鏗議員は、「実際に導入されれば『一国二制度』は正式に抹消されるだろう。香港の終わりだ」と述べた。

 同じく公民党の陳淑莊議員は、「香港史上、最も悲しい日」だと付け加えた。

 学生の民主化活動家で民主派政党「香港衆志」の黄之鋒氏は、中国政府による企ては「香港人の批判的な声を力と恐怖で黙らせる」ためのものだとツイートした。

 イギリス統治時代に香港の最後の総督を務めたクリス・パッテン氏は、中国の試みは「香港の自治に対する包括的な攻撃」だと述べた。

 英外務省報道官は、中国が「香港の権利と自由、そして高度な自治を尊重すること」を期待していると述べた。

 こうした中、米国防総省は「香港の人々の意思を反映しない国家安全法を導入しようとする試みは、状況を非常に不安定なものにし、強い非難を受けることになるだろう」と述べた。

 ドナルド・トランプ米大統領は、中国が最後までやり通すのであれば、アメリカは強固な対応を取るだろうと述べたが、詳細は明かさなかった。

 アメリカは現在、貿易や投資における香港の優遇特権を延長するかどうかを検討している。今月末までに決定しなければならない。

  中国の立場

 全人代の複数関係筋によると、中国政府はもはや、香港が独自の国家安全法を制定するのを待つことも、暴力的な反政府運動と中国政府がみなす抗議行動が拡大するのを見続けることもできないという。

 ある情報筋は香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに対し、「我々はこれ以上、国旗を冒涜(ぼうとく)したり、香港特別行政区の区章を傷つけたりするような行為を許せない」と述べた。

 全人代の張業遂報道官は全人代開幕に先立ち、国家安全法の導入について言及した

中国政府はまた、9月の香港立法会選挙を恐れているのかもしれない。昨年11月の香港区議会選の時のように民主派が大きく議席を伸ばせば、中国の法案が妨害される可能性があるからだ。

 全人代の張業遂報道官は21日、国家安全法の導入について言及した際、一国二制度を「改善」するものだと説明した。

「国家安全保障は、この国の安定を支える基盤だ。国家安全保障を守ることが、香港の同胞を含むすべての中国人の基本的利益になる」

 全人代では国家安全法の導入が協議された後、来週に採決が行われる見通し。その後、来月の全人代常務委員会での手続きを踏む必要がある。

 中国国営の英字紙チャイナ・デイリーは社説で、国家安全法は「国家安全保障に挑戦する者は必然的に自分たちの行動の責任を負うことになる」ことを意味しているとした。

 香港最大の親中派政党「民主建港協進連盟(DAB)」は、「近年香港で急速に悪化する政治状況に対応するため」の法案を「完全に支持する」と述べた。

 親中派議員のクリストファー・チュン氏はロイター通信に対し、「この法案の制定は必要であり、早いに越したことはない」と述べた。

  香港の自治性

 香港はかつて、150年以上にわたってイギリスの植民地だった。

 イギリスと中国は1984年に、「一国二制度」の下に香港が1997年に中国に返還されることで合意した。香港は中国の一部になるものの、返還から50年は「外交と国防問題以外では高い自治性を維持する」ことになった。

 「一国二制度」を支える「香港特別行政区基本法」の期限は2047年に切れる。

 香港市民には、表現の自由など、中国本土ではみられないような権利が保障されている。

 しかし、中国政府には香港の政治体制への変更を拒否する権限がある。香港の行政長官は中国政府によって任命される。

(英語記事 China security law 'could be end of Hong Kong')

BBC 2020年05月22日

https://www.bbc.com/japanese/52750504

 あえてこの件に関して長い記事を選んだ。イギリスは、もともと自らの国こそが民主主義の発祥の地であると考えており、なおかつ、その民主主義こそ、少なくとも現実的な範囲内で、もっとも素晴らしい政治形態の一つであると考えている国である。もちろん王政なども否定しているものではない。実際に、イギリスは「君臨すれど統治せず」という王室がありその王室を中心にした、「コモンウエルス」という緩やかな国家連合体を実現しているのである。

中世に「イギリス」が「大英帝国」と訳されていたのはまさにそのような話が基本的にあったということに他ならない。

さて、そのようなイギリスが99年間統治し1997年に共産主義の国中華人民共和国に変換したのが香港である。その香港に関して、当時のイギリス首相、鉄の女といわれたマーガレット・サッチャーは、当時の鄧小平国家主席との間において、都市伝説的には脅迫されて香港を手放さざるを得なかったということになっている。実際のところは、香港そのものの経営にかなりの予算を投じていたということ、また、香港といえども中国人であり、イギリスは根本的に黒人と黄色人種に対する「有色人種差別」が存在するために、コストがかかりあまり実入りが少ない香港という土地を、そこまで真面目に統治する必要がないと感じていたに違いない。もちろん鄧小平の脅迫もあながち嘘ではないと思う。しかし、その脅迫に屈しない状況を作り出してまで手に残しておきたい土地ではなかったというのが本音ではないか。

その時の妥協案が「50年間は一国二制度として存在させる」ということになる。つまり、イギリス統治下の香港と同様の政治制度を50年間は継続するということになり、そのことを信じて香港との取引は当然に、中華人民共和国本体とは全く異なる扱いになっていたのである。

昨年の米中貿易戦争時も、香港は別枠で動いており、関税などに関しても優遇措置が取られていた、もっとも、香港そのものの許容貨物船数が異なるために、他の中国の港がすべて交関税になってかなりの打撃になったが、それでもかなり助かったはずである。

しかしそのようなことも考えずに「香港の支配」ということしか考えないのが現在の中国共産党政権である。憲法にはいまだに世界共産主義革命を掲げているような国である。

それに対して「自由」から「制限」になる香港の民は困るに違いない。当然に、様々な抵抗がなされることになる。そのデモはすでに何回も行われているのと同時に、国際社会の大きな渦の中心になってゆくのではないか。

今後、何回かこの香港のことに関しては継続してレポートをするが、まずはこの時のニュースを忘れないでほしい。

宇田川源流

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