「宇田川源流」【日本報道検証】 イランのデモに対する国際社会と日本
「宇田川源流」【日本報道検証】 イランのデモに対する国際社会と日本
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。
さて今回は、選挙中で日本の政治のことはしばらく書くことができないので、あえて国際社会の方に目を向けることにしまして、その中で話題になっているイランのデモに関してネットの規制をしていて、被害の状況などが全く見えないこと、そして、そのイランに対してアメリカが大規模な空母打撃軍を中東に向けていることなど、今のイラン情勢を見てみましょう。
今回の大きなうねりは、2025年末の12月28日に発生した経済的な不満が火種であった。イランの通貨リアルが史上最安値を更新し、物価が高騰したことで、人々の生活は限界に達したのである。当初は経済政策への抗議として始まりましたが、活動は瞬く間に全31州へと拡大し、スローガンは「体制の打倒」を叫ぶ政治的なものへと変容していったのである。
2026年1月に入ると、事態はさらに激化した。特に1月7日から8日にかけてデモの規模がピークに達し、これに対してイラン当局は過去最大級の弾圧に踏み切った。1月8日から開始された全国的なインターネット遮断は、国外への情報流出を防ぐと同時に、組織的な抵抗を封じ込めるための手段として使われたのである。現在は、治安部隊による力による制圧が一段落したとされる「沈黙」の時期にありますが、これは市民が納得したわけではなく、徹底的な恐怖政治によって表立ったデモが抑え込まれている状態といえる。
これまでの経緯を振り返ると、イラン政府は一貫して強硬な姿勢を崩していない。2022年の「女性・生命・自由」運動の際と同様、あるいはそれ以上の暴力が振るわれたとの報告が相次いでいる。治安部隊は実弾や散弾銃を使用し、さらには化学兵器の使用を示唆するような防護服姿の部隊による活動も目撃されている。ネットの遮断はこのような非合法な武器の使用であるとか、国民に対する大量虐殺を隠す手芽ではないかと疑われているのである。
人道支援団体や監視機関の推定によると、今回の抗議活動による死者は数千人規模に達しており、一部では1万人を超える犠牲者が出ているとの報告もある。また、2万人以上が拘束されたとみられ、その中にはデモ隊への発砲を拒否して死刑判決を受けた若い兵士も含まれている。当局は現在、夜間外出禁止令や家宅捜索を強行し、デモ参加者やその家族のリストを作成して資産を没収するなど、社会全体を監視下に置くことで運動の再燃を必死に抑え込もうとしているようである。
インターネットの封鎖は情報の透明性を著しく損なわせている。イラン政府は自国内の独自のネットワーク(国家情報ネットワーク)を利用して経済活動を維持しつつ、市民が外部の世界と繋がるVPNなどの手段を徹底的に遮断した。この「情報の真空状態」の中で、凄惨な拷問や不当な処刑が行われている可能性が極めて高いと国際社会は警鐘を鳴らしている。
国際社会からは、アメリカをはじめとする各国が新たな制裁を科し、国連も過剰な武力行使を強く非難している。しかし、イラン政府はこれらを「外国勢力による内政干渉」と一蹴し、最高指導者ハメネイ師は一歩も引かない構えを見せている。経済の崩壊、人権の抑圧、そして止まらない物価高という三重苦の中で、国民の怒りはマグマのように地下で溜まり続けており、表面上の静けさがいつ破られるかわからない緊張状態が続いているといえる。
<参考記事>
イラン、ネット規制2週間 経済に影響も、解除不透明
2026年1月23日 7時16分 共同通信
https://news.livedoor.com/article/detail/30426751/
米空母打撃軍などの戦闘部隊、数日中に中東到着へ=高官
1/23(金) 7:55配信 ロイター
https://news.yahoo.co.jp/articles/62ed4ecd16a7cfc7339e9d3c46943c93f951b7be
<以上参考記事>
現在、アメリカのトランプ大統領はイラン政府に対し、ハメネイ師の退陣を公然と要求するという、これまでにない踏み込んだ外交方針を打ち出している。単なる言葉の非難に留まらず、中東海域へ空母打撃群を派遣したことは、物理的な力による「抑止」と「威嚇」を同時に行う明確なシグナルである。これは単なるデモへの連帯ではなく、イランの現体制そのものを変容、あるいは崩壊させることを視野に入れた「最大限の圧力」の再来といえます。いわゆる「マキシマム・プレッシャー」といわれる内容である。さらに、イランと取引を行う国に対して25%の関税を課すという経済的な脅しをかけることで、国際社会に対して「アメリカか、イランか」という二者択一を迫っているのである。正常に考えれば、経済が混乱しているイランを選択するはずがないということになる。同時に、イランに石油を依存している中国などに対するプレッシャーでもあるといえる。
欧州諸国も、かつての対話重視の姿勢から大きく舵を切った。イギリスやドイツ、フランスをはじめとするEU各国は、デモ隊に対する凄惨な弾圧を「国家による暴力」として強く非難し、イラン外交官の国外追放や議会への立ち入り禁止といった外交的な制裁を次々と決定している。特に今回は、人権問題だけでなくイランによるロシアへの軍事支援(ドローンやミサイルの提供)に対する不満も重なっており、欧米が一体となってイランを国際社会から完全に孤立させようとする動きが加速している。
この緊迫した状況を、宿敵であるイスラエルは極めて冷静、かつ戦略的に注視している。ネタニヤフ政権は、イラン国内の混乱を「体制を内部から弱体化させる絶好の機会」と捉えており、表向きはデモ隊への支持を表明しつつ、裏ではサイバー攻撃や情報戦を通じて体制の動揺を誘っている。一方で、もしイランが国内の不満を外に逸らすためにイスラエルへ攻撃を仕掛けてきた場合には、「かつてない規模の報復」を行うと警告しており、一触即発の状態が続いている。なお、中東諸国やアメリカはイスラエルが暴発しないように最大限の注意を払っているようであるが、その外交はあまり表に姿を見せていない状態である。
一方で、サウジアラビアの動きはより慎重である。2023年に中国の仲介でイランとの国交を正常化した経緯があるため、かつてのような公然とした敵対関係は避けているようである。サウジアラビアにとって最悪のシナリオは、イランが崩壊し、その混乱が自国や石油施設に波及することである。そのため、サウジはカタールやエジプトとともに、アメリカとイランの間で緊張を緩和させるための「静かな仲裁者」としての役割を模索しているようである。アメリカに対しては軍事介入を控えるよう釘を刺しつつ、自国の領空を攻撃に使用させない方針を示すなど、地域全体の安定を最優先する姿勢を見せている。
イランにとって最大の「後ろ盾」であるロシアと中国は、西側諸国とは全く異なる論理で動いている。ロシアにとって、イランはウクライナ戦争における貴重な軍事パートナーであり、現在の体制が存続することは自国の安全保障に直結することになる。そのため、ロシアは「外国勢力による内政干渉」という理屈でイラン政府を擁護し、弾圧を正当化するためのロジックや、インターネット封鎖を含む治安維持技術を提供している可能性が高い。
中国は、より複雑な計算をしているようである。中国はイラン産原油の最大の買い手であり、イランは「一帯一路」構想の要所である。中国の公式な立場は「不干渉」であるが、本音ではエネルギー供給の安定を強く望んでいる。イランが混乱すれば原油価格が高騰し、自国経済に打撃を与えるため、中国は水面下で経済的な支援を続けつつも、国際社会から直接的な非難を浴びないよう、慎重に立ち回っているようである。同時に中国は同様の経済的なデモが中国に伝播しないようにも気を付けており、中国国内における報道にも気を付けているということになる。
今後のイラン情勢については、二つの極端なシナリオが予想されている。一つは、経済の破綻と国際的な孤立に耐えかねた国民が、治安部隊の一部を巻き込んで体制を転覆させる「急速な変革」というシナリオだ。しかし、現在の治安部隊(特に革命防衛隊)の結束は固く、この可能性は現時点では低いと見る専門家が多い。
もう一つの、より可能性が高いとされるシナリオは、体制が徹底的な恐怖政治によってデモを完全に抑え込み、中国やロシアとの連携を深めることで「自給自足的な独裁国家」として生き残る道である。これを「ゆっくりとした崩壊」と呼ぶ声もあるようだ。国民の怒りは消えることなく地下に潜り、政府はそれを抑えるためにさらに高コストな監視社会を構築せざるを得ない。この歪な均衡は、最高指導者ハメネイ師の健康状態や後継者問題という「不確定要素」が表面化した瞬間に、再び爆発する危険を孕んでいる。
イラン情勢が極めて緊迫し、トランプ政権による直接的な圧力と欧州の歩調合わせが進む中、日本が選挙後に進むべき道は、これまでの「伝統的な友好関係」を維持しつつも、より「能動的で多角的な安定化勢力」へと脱皮することにあります。日本には、欧米諸国が持ち得ない独特の立ち位置があり、それを戦略的に活用することが、自国のエネルギー安全保障と国際的な信頼を両立させる鍵となります。
さてこの状況で日本はどのように考えるべきであろうか。現在は日本は選挙中で政治は動かないのであるが選挙後をにらんでこの内容を見てみよう。
日本が最も優先すべきは、米国が求める「体制交代」や「極限の圧力」というハードパワーの論理の中に、対話の余地を残す「情報のバイパス」を維持することである。現在、日本はG7の一員として人権弾圧への懸念を共有しつつも、イラン指導部と直接意思疎通ができる数少ない主要国という特徴がある。選挙後の新政権は、トランプ政権に対しては「同盟国としての連帯」を示しながら、水面下ではイランに対し、これ以上の武力行使や核開発の加速が、ロシアや中国さえも守りきれない「国家の破綻」を招くという厳しい現実を、友好的かつ冷徹に伝える役割を果たすべきであろう。これは、米国が直接言えない「出口戦略」を提示する役割であり、一触即発の事態を防ぐための唯一の安全弁となる。
ホルムズ海峡という生命線を抱える日本にとって、イランの混乱は単なる人道問題ではなく、国家の存立に関わる経済問題であり経済安全保障の問題である。ここで日本が取るべき戦略は、米国一辺倒になるのでもなく、かといって中国・ロシアの影響力に身を任せるのでもない、「ミドルパワー(中等国家)」同士の連携強化ではないだろうか。具体的には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国との関係をさらに深め、彼らが抱く「イラン崩壊による地域不安定化への懸念」を日本が吸い上げ、それを米国や欧州の政策に反映させるロビー活動を行うべきであろう。日本が「中東の安定を第一に考える公平なパートナー」としての地位を確立することで、中国が主導する地域秩序への対抗軸となり、同時に日米同盟を中東の安定に資する形で機能させることが可能になるのではないか。
日本国内では人権重視の声が高まる一方で、外交の現場では極めてシビアな現実主義が求められる。選挙後の日本政府は、イランの市民社会が求める「自由」や「尊厳」への支持を明確に打ち出しつつも、それが即座に体制崩壊と内戦に繋がらないような「漸進的な変化」を促す支援プログラムを準備しておくべきである。例えば、インターネット遮断下でも機能する人道支援の枠組みや、将来的な経済再建を見据えた中長期的な対話の窓口を閉ざさないことが重要である。これは、イランの現体制に対する譲歩ではなく、イランという国家が「ならず者国家」として完全に中国・ロシアの陣営に埋没してしまうことを防ぐための、高度な戦略的布石となるであろう。
総じて、選挙後の日本は「米国に従随する同盟国」でも「中立を装う傍観者」でもなく、明確な意志を持った「安定の設計者」として動くべきである。トランプ大統領の予測不能な行動を、日本の外交力で「秩序ある圧力」へと変換し、同時にサウジアラビアなどの地域大国と連携して、ロシアや中国が付け入る隙を最小限に抑える。この複雑な高等外交こそが、資源を持たず国際秩序の安定に依存する日本の生き残る道である。日本が提示する「対話による紛争回避」の姿勢は、極端な二極化が進む現在の国際社会において、むしろ新鮮な指導力として映るはずである。
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