小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第四章 終焉 1

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第四章 終焉 1


「陛下、まずは避難を」

 東御堂と嵯峨は御所に参内し、陛下の非難を求めた。

「東御堂さん、私は非難しないでおこうと思いますので、皇后と皇太子、そして皇族を避難させてください。」

 陛下は、にっこりと笑って東御堂に行った。

「それでは危険です」

「わかっています。しかし、国民も同じ危険があるのに、僕が先に逃げてはいけないのです。苦楽を国民特にと共にするそれが天皇の務めでしょう。しかし、皇統を絶えさせることはできませんから、僕以外は皆避難させてください。」

「しかし・・・。」

 嵯峨朝彦はすぐに難色を示した。当然に、天皇陛下を見殺しにして、皇族だけを逃げさせるなどということは、皇族が招致するはずがない。それに政府もそのようなことは認めないであろう。

「では私がお供しましょう。」

 嵯峨朝彦の言葉とは別に、東御堂信仁はすぐに自分が供をすると発言した。

「東御堂さん」

「陛下、私は十分に生きてしまいました。私が残っても、これから戦争による荒廃した日本で、食料が足りなくなることが予想される中で、私のような推し頼が生き残っても仕方がないでしょう。とはいえ、この老いぼれでは戦うこともできません。皆の足手まといになるくらいならば、陛下のお供をすることをどうかお許しください。」

「そうですか。では、特別に許すことにしましょう。」

 陛下は、にっこりと笑った。

「ここにはいい酒もありますから。それに、今回核ミサイルが飛んでくるといっても、もしかすれば迎撃できるかもしれません。政府を、そして日本国民を信じましょう。さあ、嵯峨さんはすぐにみんなの避難をお願いします。でも、また会えると思いますよ。」

 陛下は、嵯峨には酒を一本渡すと、そのまま嵯峨を部屋から出した。そして近くにいた侍従などもすべて出してしまった。

 嵯峨は、すぐに今田陽子に連絡を取った。御所の中から電話をするなどは、かなり異例であるが、しかし、そうしなければならなかったのだ。

「核を止めることはできないのか」

「殿下、今は二つの方法で行っています。一つは、防衛省による迎撃システムです。イージス艦は日本海に向けて出港してしますし・・・」

「今向かっているようで間に合うのか」

 嵯峨の声は、御所の廊下に響くほどであった。すでに御所の中は、陛下の命令として避難所に移動するということになっていた。御所の中には、第二次世界大戦時に東京に原子力爆弾が落ちた場合を想定して、地下シェルターを作っており、それを近年改装したものがある。当然に、そこに1か月くらい御所の人々や皇族が避難することができる程度の施設であり、水なども循環システムができている。そのうえ、そのシェルターから地下通路を使って地下鉄に移動できるようになっていたので、避難路も安全である。ちなみに、この入口の一間が、昭和天皇が終戦の決断を枢密院相手に行ったところであり、また玉音放送を録音した場所である。

 嵯峨が電話をしているときには、すでに多くの人が避難所に様々なものを運んでいるときである。廊下も様々な人が出入りしている。この動いている侍従や使用人等のうち半分は一緒に避難できる。そして残りは他の場所に避難することになっている。しかし、家族などを呼ぶことができないので、家族のところに変えるものもいる様だ。その様に騒然としている中で、嵯峨が大声で電話をしている。周囲が騒がしいので、逆に声が大きくなるのかもしれない。

「間に合います。いや、間に合わせます。」

「本当か」

「迎撃ミサイルを撃つので、港に係留中も問題はなくできます。しかし、そもそも荒川さんや太田組長などが、中国で活動して発射させないように工作中です。」

 今田は、東銀座の事務所から官邸に向かっているところである。タクシーの中で街の中を見れば、まだこれから核ミサイルが東京を襲撃するかもしれないという状況とは思えない、普段の東京のオフィス街がそのまま広がっていた。ちょうど有楽町の辺りは、隣国で内戦が起きており、日本も初めは謎の病原菌で襲撃されているということをまったく気が付かない多くの人々が、いつもの平日を送っているのである。

 この人々を守らなければ、その使命感でいっぱいになった。

「荒川の工作か。」

 嵯峨は、一言だけそういうと電話を切った。

「これで、阿川一派が皆いなくなれば・・・」

 すでに陳文敏から様子を聞いていた大沢三郎は、自分の地盤である東北に戻っていた。自分の資産なども移動して、東京にはあまりものを残していない。もちろん何もなかったときのために、幾分かは残しているが、しかし、地元を拠点にするということで、親しい議員などに手伝わせて、東北の選挙区に移っていた。

「阿川一派がいなくなるんですか」

 若手の議員が大沢に聞いた。

「ああ、そうなることを願っている」

 まさか核兵器で東京が破壊されるということを知っているなど、言えるはずがない。そのようなことを言えば、青山優子ではないが、自分に対して懐疑的な目を向けるようになってしまうのではないか。なるべく秘密は漏らさない。それが生き残る秘訣である。

「そうですね。こうやって我々が東北にいる間に、東京に大地震が来てくれれば、我々が日本の中心になりますね」

 若手議員からすれば、戦争というのは現実的ではない。やはり東京が壊滅するとなれば、南海トラフの地震や津波ということになるのであろう。大沢は、笑ってやり過ごすことにした。

「よし、そうなる可能性もゼロではないから、我々の勉強会をこのままやろうではないか」

 すでに陳文敏は、内戦をしている中国ではなく、逆に東南アジアの国に逃げていった。中国人の多くは、『死の双子』事件を何故か知っていて、その事件の後次々と姿を消していた。今残っているのは、中国政府に見放された中国人ばかりであろう。しかし、その中国に戻っていった人々も内戦に巻き込まれているということだ。

「さあ、まずは世界情勢から学ばなければならないな。」

 大沢はそう言うと、数名の若手議員を連れて山の中の合宿所に入っていった。

宇田川源流

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