「宇田川源流」【日本報道検証】 アメリカ大統領がCIAの活動を明かした「真意」
「宇田川源流」【日本報道検証】 アメリカ大統領がCIAの活動を明かした「真意」
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。
さて今回はアメリカのトランプ大統領がヴェネズエラでのCIAの活動を認めたということに関して、その内容を見てみようと思います。
まず表面的な話をしてみれば、アメリカとヴェネズエラは、北米と南米という距離感にあるにもかかわらず、まあ、それはトランプ大統領の政治とは全く関係なく、基本的に中が悪い。これは、キューバなどと同じで、「革命思想」的な政治を行っていることに由来している。これは現在のマドゥロ大統領になってからではなくチャベス大統領の時から、かなり関係が悪化しているのである。
ベネズエラは1999年のチャベス政権以降、社会主義を掲げて国家の資源再分配や反米姿勢を強めてきた。一方、アメリカは「民主主義と人権」を基軸にマドゥロ政権の選挙正当性や野党弾圧を批判し、政権交代を求めて野党指導者グアイド氏を暫定大統領と認めるなど、政治的対立が深まっている。マドゥロ政権はCIAの秘密作戦や政権転覆謀議と見なして強く反発し、米国を帝国主義的干渉者と位置づけている。
ベネズエラ経済は原油輸出への依存度が極めて高く、かつてはアメリカが最大の輸入先であった。ところが2017年以降、アメリカは国家石油会社PDVSAや中央銀行への金融制裁、国営企業への取引禁止を次々と発動し、原油販売収入を急激に減少させた。その結果、ハイパーインフレや物資不足が深刻化し、両国間の貿易はほぼ途絶状態となっている。
トランプ政権下でアメリカはベネズエラを「重大な麻薬密輸国家」と指定し、カリブ海域で麻薬撲滅作戦を展開した。米軍はベネズエラ沖に艦艇や航空機を派遣し、複数の疑わしい麻薬船を空爆した。さらにマドゥロ大統領個人に対して懸賞金を5000万ドルに倍増させるなど、麻薬取引への関与を理由に一段と強硬な圧力をかけている。
上記の対立構造に加え、最近は中国やロシアがベネズエラへの経済援助や軍事支援を強化しており、米露中の影響力争いが泥沼化している。また、国内の経済・人道危機を逃れた何百万人ものベネズエラ人移民・難民は南米各国やアメリカ本土で社会・政策課題となり、米ベネズエラ関係の今後をさらに複雑にしている状態である。
<参考記事>
トランプ氏、ヴェネズエラでのCIA活動を承認したと認める マドゥロ大統領は「体制転換はだめ」
10/16(木) BBC News
https://news.yahoo.co.jp/articles/88685c714649060f9a40057c16848b36a6ea0c6d
<以上参考記事>
さて今回のニュースは、何がおかしいといってもこれほどおかしな話はない。そもそも「秘密工作」を「メディアで認める」ということなのだから「秘密でもなんでもなくなってしまう」ということになるのである。この作戦に承認の講評この作戦を秘密にすること以上に、何か別な政治的な意図があると考えるべきであろう。
まず、この承認は米政府の本気度を周知させる強いシグナルであるといえる。通常、CIAの作戦はその秘匿性こそが最大の抑止力であるが、「許可した」と公言することで、ベネズエラ側に対して米国がいかなる手段も辞さないというメッセージを送り、相手を心理的・外交的に追い込む効果を狙っていると考えられる。
当然に、トランプ大統領は、大統領選挙の時から「麻薬犯罪の撲滅」と「麻薬を持ち込む(それだけではないが)移民の排除」を掲げている。その公約実現の国内向けの政治プロパガンダとしての狙いも無視できない。移民問題や麻薬撲滅を強調することで保守層へのアピールを強め、法と秩序を重視する支持基盤に「自分の大統領こそが危機に断固対処している」という印象を植え付けることになる。公にすること自体が「強硬姿勢」の象徴であると解釈できる。この他にもその移民の排除と治安維持に関しては、州兵を動員しても成し遂げるという覚悟を見せている。もちろん反対派も少なくないが、しかし、公約をして大統領になった人がその公約を守ることは何が問題なのかはよくわからない部分がある。さて、その意味で「アメリカ国民を守るために、他国ヴェネズエラであっても、工作が必要」ということであり、その行動を示すことになる。
このことを受けて「ヴェネズエラだけではない」と考えられるようになれば、思考は見えてくるのではないか。単純にブラジルやメキシコに対してもまた、カナダに対しても、またフェンタニルによって名前が挙がった中国や日本に対しても、CIAが動いているとみる方が正しいのではないか。少なくとも、今回の公表においては、ヴェネズエラアだけではなく他の国もアメリカに害をなす国に対してはCIAの工作があるということを示唆している。そのような思考をしていないのは日本だけではないだろうか。
加えて、この発表により、これまでの“グレーゾーン戦略”に伴う曖昧さを捨てたとも言える。従来、秘密作戦の成否や責任の所在は闇の中に置かれることで、失敗のリスクや国際的非難を回避できた。しかし今回は、成功・失敗を含めて「公式にここまでやる」と明示することで、戦術的に大きく踏み込む覚悟を示したのである。要するに「秘密作戦を公にすることで、引き下がれない状態」にもっていったということになる。単純に言えば、CIAに対して圧力をかけたということになるのである。
一方、インテリジェンス・コミュニティ(IC)にとっては、新たなジレンマが生じることになる。作戦を公認するならば、CIAエージェントや現地協力者の安全は著しく脅かされるし、再び秘密裏に動く際の信用性も低下する。それは当然だ。インテリジェンスを仕掛けているということから考えれば、相手がその内容で警戒をするのであるからやりにくいことは間違いがない。一方で、上層部から“公式承認を得た活動”として名を出してもらうことで予算や人員配置を確保しやすくなるという側面もあるかもしれないが、実際には、ただひたすらやりにくいであろう。一方で、「すでにマドゥロ大統領の政権に嫌われている人や反対派を味方につけやすくなる」ということになる。当然にヴェネズエラ政府は「疑心暗鬼」になる。この「疑心暗鬼」こそが、情報工作の最も強い味方である。その強い味方をトランプ大統領の公表によって得たことになる。ある意味でその疑心暗鬼をうまく使える工作員であれば、最も簡単に物事が進むのであろう。
最後に、この動きは国際法や外交慣行といった既存秩序への挑戦ともいえます。秘密工作の“暗黙のタブー”を公言することで、他国政府に対しても似たような強硬手段を正当化する前例を作りかねない。結果として、国際社会全体の情報戦や非対称紛争のルールが書き換えられていく可能性も孕んでいる。
これらを総合すれば、トランプ大統領の「公認」は単なる作戦承認を超え、米国内外に向けた強力な政治的声明であり、従来の情報戦の枠組みを再定義しようとする試みだと推測できるのである。
このことによってヴェネズエラの内部でどのような変化が起きるのかはなかなか興味深いところである。
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