「宇田川源流」 イランで女子生徒に毒物という「学ぶ権利を迫害する」行為が横行の背景

「宇田川源流」 イランで女子生徒に毒物という「学ぶ権利を迫害する」行為が横行の背景


 イランと女性と言えば、本年初めの「女性の権利でも」との関係が大きく影響していることが容易に想像がつく。その為に、まずは「女性の自由デモ」から解説をしてゆこうと思う。

そもそも、「女性の自由デモ」というのは、イランの宗教警察が、ヒジャブ(神を隠すスカーフ)の身に着け方が悪いということから、観光旅行をしていたクルド人女性を拘束し、多分(拘束中なのでわからないが)拷問の末に、その女性が死亡したという事案から始まった内容である。基本的に、それまでの宗教警察の取締り方法があまり良くなかったのであろうし、また、イラン国内においてあまり国民からの受けもよくなかったのであろう。

それだけではなく、昨年までのロウハニ大統領は様々な事由や宗教的な締め付けを緩和していたのに対して、現在のライヒ大統領は、宗教的な締め付けを強化し、欧米人との対立を明確化している。かなり宗教的には原理主義に近い大統領であることから、女性から自由が奪われ、そのことに対して反発する女性が少なくなかったのである。

女性の反発が大きいという事から、女性が「自由を求めるデモ」を行い、また、そのデモを欧米から支援する動きが出てきた。アメリカでは宗教警察の関係者の資産を凍結するなどをし、またアメリカやフランスの女優をはじめとする女性は、インターネット上で支援動画を公開するようになっていた。

これに対して、イラン国内でも大きなデモが発生し、女性を中心にデモ隊が街を占拠するということになった。そのデモ隊も、ハメネイ宗教指導者の姪や大臣などの妻が参加するようなデモになり、そのままかなり大きなデモのに発展していた。女性の自由、と言っても多少ヒジャブが曲がっても仕方がないというような話や、勤労の自由などが主張されていた。

当初はこのデモも、そのような女性の自由だけになっていたのだが、そのうちに「ライヒ大統領の退陣」や「宗教警察の解散」あるいは「ハメネイ宗教指導者の交代」などまで主張されるようになり、イラン政府もそのデモを弾圧するようになる。2月中旬までに1600人を超える人が拘束され、複数人が死刑になっているというような状況なのだ。

このデモ、というよりは「女性の自由という主張をする人々の勢力」が今回の事件に関係しているという。


女子生徒狙う毒物事件が多発、数百人に健康被害 イラン報道

 (CNN)イラン各地でこの数カ月、女子生徒や学生を狙った毒物事件の発生が相次いで報じられ、関係者が懸念を強めている。

 イラン政府系のメヘルニュースによると、同国国会議員は「信頼できる筋」の話として、イラン全土でこれまでに900人近い生徒や学生が毒物の被害に遭ったと語った。

 最初に報じられたのは11月30日にイラン北中部ゴムで起きた事件で、イラン国営メディアによると、女子高校生18人が入院した。ゴムでは2月14日にも、「連続毒物事件」(政府系タスニム通信)を受けて13校の生徒100人以上が病院に運ばれた。

 事件は首都テヘランでも発生している。ファルス通信によると、2月28日にテヘランの女子生徒35人が病院に搬送された。容体は「良好」で、多くはその後帰宅しているという。国営メディアは、チャハルマハル、バフティアリ、ボルジェルドなどの都市でもここ数カ月の間に生徒が毒物の被害に遭ったと伝えている。

 事件の多くは女子高の生徒が被害に遭っていた。ただ、国営メディアによると、少なくとも1件、2月4日にゴムの男子校でも毒物事件が起きている。

 CNNは事件があったと報じられたゴムの学校や教員に取材を申し込んだが、返答はなかった。

 国営イラン学生通信(ISNA)によると、ゴムで被害者の生徒と面会したイラン保健相は2月15日、生徒たちは筋力低下、吐き気、疲労感などを訴えているが、中毒症状は軽いと語った。

 保健相は、イランのパスツール研究所で検査するため、ゴムの病院に入院した患者から検体を採取したと説明した。同研究所ではこれまでのところ、微生物やウイルスは検出されていないという。

 それぞれの事件が関係しているのか、生徒が狙われたのかどうかなどは分かっていない。しかし副保健相は26日、この毒物には「化学的」性質があるものの、戦争に使われるような化学物質ではなく、症状に感染性はないと語った。

 副保健相はさらに、毒物事件は女子校の閉鎖を狙って故意に引き起こされているようだとの見方を示した。

 国営イラン通信(IRNA)によると、副保健相は26日の記者会見で、「ゴムの複数の生徒が毒物の被害に遭い、人々が全ての学校、特に女子校を閉鎖させたがっていることがはっきりした」と発言した。しかしファルス通信は、引用に誤りがあったとして副保健相が後にこの発言を撤回したと伝えている。

 一方、ゴム在住の女性は28日、娘2人が別々の学校で毒物の被害に遭ったとCNNに証言した。そのうち1人は先週被害に遭い、重い症状を患っているという。女性は家族の身の安全を恐れて匿名で取材に応じた。

 この女性はゴム市内の病院で2日間、数人の生徒に付き添っていたという。自分の娘は吐き気や呼吸困難、左脚と右手のしびれなどの症状があるといい、「今は右足に問題があり、歩行が難しい」と訴えた。

 各地の活動家や政治家は、政府に対して捜査に力を入れるよう求めている。イラン教員組合広報は26日、「女子校の生徒の毒物事件は故意だったことが確認され、無差別でも偶然でもない」とツイートした。

 相次ぐ毒物事件は、女性の自由を求める抗議運動と関係しているとの見方が強まっており、「服装の自由の恩恵をかき消すため、(当局は)国民の不安をかき立てる必要がある」と同広報はツイートしている。

 一連の報道について米国務省のネッド・プライス報道官は3月1日の記者会見で「非常に不穏で、非常に憂慮される」と述べ、「ただ学ぼうとしている女子に毒を使うとは憎むべき行為だ」と述べ、イラン当局に徹底捜査を促した。

2023年3月2日 12時20分 CNN.co.jp


 さて、今回の問題は、イランの複数として「女性学生」が毒を盛られたというものである。この事件の本質を理解するには、まずはイスラム教を理解しなければならない。

日本で言えば「何故女子学生だけ」というようなことになりかねないが、そもそもイスラム教においては、女性が社会に出るとか、あるいは社会において学ぶということが、戒律で禁じられている。基本的には、女性は家の中を守るものであり子供を育てる者であって、女性が社会に出るということは神を冒涜することになるという。

多分、イスラム教の開祖であるムハンマドが、女性が好きであったのだろう。戒律の中においては、女性が魅力を振りまいて男性が冷静な判断を失うことは社会の問題になるということから、女性は、その魅力を振りまく髪を家の外で出してはいけないし、体のラインを男性の前であらわにしてはいけないというようになっているのである。

この戒律であれば、女性は学問で学んでもよいことになるが、そもそも学問というのは社会に出るための道具であって、女性が学ぶべく物ではないとされており、そのことから、女性が学問をすること自体が禁止されている。アフガニスタンなどで、女性が学んでいると襲撃されるということは、まさにそのようなことである。

さて、今回の事件もアフガニスタンの事件と根は同じである。あえて「根は」と言ったのは、アフガニスタンはスンニ派であるが、イランはシーアである。シーア派でも同じように女性の学問を禁止しているというのは、かなり興味深い。

そして、その女性の学問を禁止するために「毒を盛る」ということを行うのである。もちろん、女性に学問をさせたくない「原理主義的な人々」が行うということである。

相次ぐ毒物事件は、女性の自由を求める抗議運動と関係しているとの見方が強まっており、「服装の自由の恩恵をかき消すため、(当局は)国民の不安をかき立てる必要がある」と同広報はツイートしている。<上記より抜粋>

このように、イランの教職員組合は話をしているというのも興味深い。つまり教職員組合は、女性に学問をさせることを推進し、学生を守る立場にあるのであり、その教職員組合と原理主義者が対立の構造にあるということがわかるのである。

この事件によって、デモそのものは収まったということが言えるのかもしれないが、しかし、まだ根強い対立があり、そしてイスラム教シーア派の神の解釈や戒律の解釈の中にも、現実の社会を推進するか、あるいは、戒律を原理主義的に推進するかという勢力との間に対立があり、その対立が、女性の自由デモのそもそもの原因であり、同時に今後もイランの政情不安の元になるということになる。そして、そのことが、今後の政情不安の元になるということになる。

しかし、一方で戒律を、何の理由もなく緩めてしまえば、それは今までのハメネイ宗教指導者の体制がおかしいということになってしまう。そのような矛盾を犯すことはできないであろう。そのうえで、政治を安定化させるために、何をするのであろうか。非常に今後の展開に興味があるということになろう。

宇田川源流

「毎日同じニュースばかり…」「正しい情報はどうやって探すのか」「情報の分析方法を知りたい」と思ったことはありませんか? 本ブログでは法科卒で元国会新聞社副編集長、作家・ジャーナリストの宇田川敬介が国内外の要人、政治家から著名人まで、ありとあらゆる人脈からの世界情勢、すなわち「確実な情報」から分析し、「情報の正しい読み方」を解説します。 正しい判断をするために、正しい情報を見極めたい方は必読です!

0コメント

  • 1000 / 1000