日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 18

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 18


「樋口です」

「ああ、荒川です。お疲れ様」

 大友佳彦の姿を確認していたので、樋口本人から連絡があったことは、何かほっとするとことがあった。四谷にある事務所は、まだ小さい部屋であるが、青田などの努力によって、徐々に設備が整いつつあった。ここで電話をしていても、基本的にはNTTの基地局までいかなければ盗聴もできないように、様々な装置がありまた、盗聴防止装置も付けられている。ネット環境などもあって、京都の「右府」の地下室の秘密基地のような状況になっていた。

「まず、大友がいました」

「見たのか」

「はい、爆発現場で爆発孔の向こう側ですから、直接の会話や接触はありませんが、目撃は確認しております」

 様々な因縁がある大友のはずであったが、その割には樋口は落ち着いて報告している、この落ち着きから、言葉通り何もなかったこと、会話もなかったことが明らかである。しかし、逆に大友のほうも既に樋口の存在に気付いているであろう。

 もちろん、相手側がこちらの組織の存在を確認しているかどうかも不明だ。もちろん、そもそもこちらは、旧皇族の東御堂家、嵯峨家によって個人的に組織された人々でしかないので、しっかりとした組織というものではないし、また、国の期間から予算が出ているわけでもない。完全に民間の内容でしかないので、組織としての単位での確認は難しい可能性もあるが、それでも、動いているうちに徐々に組織としての形を成してきている。

 当然に、松原隆志の日本紅旗革命団なども、民間の団体で国などが金を出しているわけではないのであるから、こちらもその内容には近いものであるのには間違いがないのである。その為に同じ住所に多数の団体があり、団体単位の動きを誤魔化そうとしている。警察の公安部もそのことをわかっているので、「西早稲田」という地名や「松原の団体」というように「総称」して会話をしているのである、そのように考えれば、相手もこちらの事をなんらかの形で認識し、そして総称を付けて話をしている可能性があるのだ。

 このようなときには、必ず自分たちが行っていることを、相手も同じ考え方で行っているというように考えるのである。もしも、自分が敵方にいたら、どのような行動をとるかということが最も有効な相手の行動予想になる。当然に、それ以上の能力をもっている可能性があるのだが、それは、過去の実績や、データによって修正してゆくことが重要である。当然に、その習性だけではなく、相手の癖や目的などに照らして、考えなければならない。

「大友の様子は」

「爆発の向こう側でしたから、細かい表情までは見えないのですが、被害状況などを記録しているように見えました。あとは、時々しゃがんでいたので、多分火薬編を集めていたということになります。私の予想ですが、今回の内容は松原の所ではないのかもしれません。自分の所ではなく、どこかほかに依頼したという感じで、どのような武器をどのように使ってここまで尾被害を出させたのかということを、大友に調べさせていたように思えます。」

 樋口は、冷静に情報を分析している。

「では、どこが」

「はい、変電所の跡地に聞きこんで、また変電所の現場も今田さんの手配で入ることができたので、福岡県警の人々と話をすることが出来ましたが、どうやってハッキングされたかわからない者の、地下鉄送電線の電圧が上がったまま全く制御が不能になったということです。福岡県警は事故とハッキング事件ということで調べていますが、公式には機械の故障による事故ということだと。そこで、これから青田さんにメールを送りますが、それが、ここ一か月内に変電所のパソコンに入ったメールです。跡別で、事故の日に変電所に入った人のリストも送ります。」

「わかった」

 今回の福岡の爆発は、間違いなくこの変電所の中の異変である。それが人為的であることもほぼ掴んでいるが、その詳細な実態が見えない。

 一方で、大友、いや松原や陳、大沢といった「天皇を殺そう」ということを言っている人物と、今回の事件のかかわりも見えないのである。しかし、その端緒が樋口が直接福岡の現場に行ったことで見えてくることになる。

 同時に、大沢や陳や大友や松原が絡んでいるという樋口の見立てもあながちおかしな内容ではない。いや、そのようなことがあっても全くおかしくはないのである。では、その狙いは何か、そして、その狙いから見えてくる結論は何かということになるのである。

 そして、大友と樋口が接触しているということである。当然に、話などはしていないという樋口の言うことは間違いがないと思われる。しかし、相手に見られていないと思いこむのはかなり無理がある。逆に、わざと囮になって樋口や他のこちら側の人物たちに姿を現し、他の人物を差し向けて尾行している可能性がある。当然に、こちらの正体をつかんでいるということもあるし、また全貌を掴んでいないので、それを探ってくる可能性もあるのだ。その意味では、今田の手配とはいえ、樋口が一般の立ち入り禁止の現場に入るというのは、こちらの全貌をつかませない意味では大きな行動であろう。ぎゃくに、樋口にもう少し「警察官僚」に近い形で動かした方が良いのかもしれない。

「樋口さん、今田さんに許可をお願いするので、地下の現場も入ってもらえますか」

「まだ遺体が残っているのでは」

「はい、その可能性はありますが、そこは何とか」

「了解」

「その時に、必ず大友の配下の人間が尾行していると思います。もしかしたら福岡県警の中に協力者がいてもおかしくありませんし、また、地下鉄関係者が作業員として入っていてもおかしくないと思いますので十分に注意してください」

「了解、身分はどうしたら」

「警察庁本庁の事故調査委員会で、名前は樋口義明のままでお願いします。大友佳彦がいるということは、名前を誤魔化すことはできないでしょうから、身分だけお願いします。」

「大友が既にこちらに感づいているということですか」

「その可能性があるということです。もしかしたら、現場では、わざと目立つ行動をして、誘っていたかもしれません」

 樋口は、納得がいったようであった。ゆっくりと深く息を吐く音が、受話器越しに聞こえて来ていた。

「要するに大友にばかり気を取られて、周辺に注意がいなかった可能性があるということだね、荒川さん」

「はい、大友をあれだけ観察していたということは、その間、集中力は大友のほうだけに向かっていますから、その間に相手に捕縛されている可能性があるということです。」

 その時に青田が横で声を上げた。

「解析できました。いや、典型的だから解析の必要もない。これは北朝鮮のマルウエア感染で、それを、北朝鮮系日本人の作業員が起動させたという形です」

「樋口さん、聞こえましたか」

「ああ。要するに、現場に行っても北朝鮮系の作業員に注意しろということだな」

「はい、お願いします。それと道路工事などの作業員も。福岡や北九州で北朝鮮系を総て見分けるのは難しいですが、お願いします」

「わかった」

 樋口は電話を切ると、そこから現場に再度向かった。

宇田川源流

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