「宇田川源流」【大河ドラマ 鎌倉殿の13人】 「有名なエピソードは実はこうだったんだ」というドラマ特有の視点

「宇田川源流」【大河ドラマ 鎌倉殿の13人】 「有名なエピソードは実はこうだったんだ」というドラマ特有の視点


 毎週水曜日は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」について、私の思うところを書いている。前回、第9話(3月6日放送)は、「富士川の戦い」に関してである。その前後の武田信義と源頼朝の主導権争い、そして、その後の富士川の戦い、そして黄瀬川本陣における源頼朝・義経兄弟の感動の対面という、源平合戦の前半の山場の一つを書いている。

 今回の大河ドラマの主役は北条義時(小栗旬)である。しかし、通常、源平合戦といえば、基本的には源義経が最も大きな看板になっているということになるのではないか。義経といえば、戦の天才で強大な平家をあまり他の人が考えないような戦術で撃破し、平家を壇ノ浦で滅ぼしたものの、その後、後白河法皇が近づいたことで兄弟の間に亀裂が入り、最終的には負われる身になって奥州平泉にて自害するというような人物である。日本人の仲には、このような英雄であったのに非業の死を遂げた人物に対して心を寄せるような文化性があり、源義経が「判官」という官職にあったことから、「判官びいき」などという言葉もあるほどである。源義経という人物は、それほど愛された人物であった。

 当然に、源義経に関しては様々な研究がなされている。しかし、歴史という者は面白いもので、「研究されている」ということは、統一の見解が出るという話ではなく、「様々な学説が並列で現れる」ということになる。特に、源義経は判官びいきが公示て、平泉で死んだとされた後も生き残っているという説があり、もっともすごいものではそのまま北海道に抜けて大陸に渡り、チンギス・ハーンになったというような話もある。もちろん、私自身は信じてはいないが、そのような言い伝えがあり、その伝説に合わせて北海道まで各所に義経の残した遺跡が存在しているのである。

 さて、今回三谷幸喜氏は、この源義経に対して非常に興味深いキャラクターとして書いている。ある意味で天才というのは、別な意味で「他の何かが欠落している」ということがままある。理数系の天才が、文系科目まですべてできるとは限らないし、また、頭がよいからといって、性格も品行方正であるというような話はないのである。

 そのような意味で「人間」として面白みを書くということが、一つのドラマの幅を持たせることになっているのではないか。

「鎌倉殿の13人」まさかの?「富士川の戦い」話題“水鳥の羽音”トレンド入り!時政&義澄悪友じじいが…

 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は6日、第9話が放送され、源頼朝&武田信義と平維盛が激突した「富士川の戦い」(1180年、治承4年)が描かれた。「水鳥の羽音」の逸話が有名だが、今作ならでは展開にSNS上には驚きの声が続出。「富士川の戦い」(27位)「水鳥の羽音」(33位)がツイッターの国内トレンド(午後9時)に入るなど、反響を呼んだ。

 <※以下、ネタバレ有>

 ヒットメーカーの三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。新都・鎌倉を舞台に、頼朝の13人の家臣団が激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 第9話は「決戦前夜」。ついに鎌倉入りを果たした源頼朝(大泉洋)の一党。敵対した平家方を捕らえるため、頼朝は和田義盛(横田栄司)と畠山重忠(中川大志)を派遣。これを知った北条義時(小栗)と三浦義村(山本耕史)は、祖父・伊東祐親(浅野和之)と八重(新垣結衣)を救うため、急ぎ伊東へと向かう。その頃、都を出た平家の追討軍が東海道を進軍。甲斐においては、出陣を約束した武田信義(八嶋智人)が義時の父・時政(坂東彌十郎)に…という展開。

 頼朝と信義は黄瀬川の陣で対面。出陣は翌々日と合意したものの、頼朝軍が寝静まった深夜、信義軍が出陣。頼朝を出し抜いた。

 “悪友”の時政と三浦義澄(佐藤B作)が川辺にいる。対岸の追討軍を前に話をしている。

 義澄は「四郎、頼むから、もう少し、ちゃんとしてくれ。もう前とは違うのだ。わしらの肩には、大勢の坂東武者の命が懸かっておる。己が何をすべきか、よく考えろ!しっかりしてくれ、四郎時政。この世で一番みすぼらしいのは何か知っているか。しょげている、じじいだ」と信義の酒席に参加してしまった時政を諌める。

 反省した時政は頬を思い切り殴ってくれと懇願。いざ義澄が頬を張ると、時政は「やりやがったな」と突き返し、義澄が川の中に転んでしまう。「その時、辺りの水辺で休んでいた無数の水鳥たちが、一斉に羽ばたいた。数万羽の羽音が夜空に響き渡る」(語り・長澤まさみ)。平維盛(濱正悟)率いる追討軍は羽音を敵の襲来と勘違い。総崩れとなった。

 今回の「富士川の戦い」の「水鳥の羽音」は時政と義澄がきっかけとなり、SNS上には「まさかのきっかけ(笑)」「じじい2人の戯れで歴史的な合戦に勝ってしまったw」「え?富士川の戦いは、じじいのピタゴラスイッチ?」などの声が相次いだ。

 「ピタゴラスイッチ」は何気ない日常に隠れる不思議な構造などを扱うEテレの番組。

 番組公式ツイッターによると、史書「吾妻鏡」には「治承4年(1180)10月20日条 夜半ごろに武田信義が計略を企て、平維盛の陣の背後を襲おうとしました。しかし、富士沼に集まっていた水鳥の一群が一斉に飛び立ったため、羽音に驚いた平家軍は慌て驚き、兵を引きました」とあるという。

3/6(日) スポニチアネックス

https://news.yahoo.co.jp/articles/2d83ca2e8e01ac5dc08d079a9755b9a76d0a63dc

さて、ドラマのもう一つの面白みは「作り物」であるということに他ならない。もちろん、史実に近いことをやるし、また、大きな分岐点の結論は、史実の通りになる。大河ドラマが「作り物」であったとしても、史実と全く逆に源頼朝が平清盛の滅ぼされ、平家が幕府を作るなどというような描写は絶対にありえないのである。

しかし、逆に作り物である。架空の人物が出てきたり、あるいは、何かの偶然で事件が起きたり、逆に偶然であったはずが、誰かが仕掛けたという陰謀的な解釈も存在するのである。有名なところでは三国志であろう。史書である司馬遷の描いた「史記」には、「黄蓋が降伏した」とし、船を連結していたところに、黄蓋が自分の船に火をつけ、舳先を結んでいた船がすべて燃えたとある。「火烈しく風猛く、船の往くこと箭のごとし。」と書いてあるだけである。しかし「物語」となった「三国志演義」には、諸葛孔明が祈りをささげて風を吹かせたということになっているのである。まさに、「諸葛孔明の神算鬼謀」ということを際立たせる話に変わっているは、史実には存在しない。

これと同じで、大河ドラマは「大筋は変えない」という前提でありながら、その事件や戦の要素の中に、「ドラマ特有の解釈」が存在していても構わないのである。

今回の富士川の合戦も同じだ。

玉葉によると10月18日、吾妻鏡によると同20日、甲斐源氏の兵は富士川の東岸に進む。平家は兵糧の欠乏により平家方の士気は低下し、まともに戦える状態になかった。この状態で、玉葉では武田信義の部隊が、他の書物「吾妻鏡」や「源平盛衰記」などでは、誰だかわからないが源氏の武将が、平家の後背を衝かんと富士川の浅瀬に馬を乗り入れる。それに富士沼の水鳥が反応し、大群が一斉に飛び立った。なお「玉葉」と「吉記」にはこの水鳥の羽音の話は入っていない。その音に恐慌状態になり、平家は総崩れになり、そのまま撤退したという。

なお番組公式ツイッターによると、史書「吾妻鏡」には「治承4年(1180)10月20日条 夜半ごろに武田信義が計略を企て、平維盛の陣の背後を襲おうとしました。しかし、富士沼に集まっていた水鳥の一群が一斉に飛び立ったため、羽音に驚いた平家軍は慌て驚き、兵を引きました」とあるという。<上記より抜粋>

さてこのように史実が決まっていない状況で、ドラマでは北条時政(坂東弥十郎)と三浦義澄(佐藤B作)が、頼朝とのことや坂東武者のことで話をしている。そこで、殴り合いになり、その水音に驚いて、水鳥が一斉に飛び立ったというようになっているのである。

さて、史実にあまり詳しい記載がないということは、そこに現代の作家の創作の「余白」があるということになる。その余白をどのように使うのかということが、物語やドラマの面白さになるのである。

ここで武田信義(八嶋智人)が源頼朝を出し抜こうとした策略が敗れたこと、また、この時に坂東武者との間に挟まった北条時政の苦悩などが、様々な伏線になるように作られるのであろう。そのような伏線になるのであるという見方が、なかなか面白い。

そういえば、八重(新垣結衣)も何か事件を引き起こしそうな感じで生き残った。ここも何かがあるのではないかと、今後を期待してしまう。

宇田川源流

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