「日曜小説」 マンホールの中で 3 第四章 9

「日曜小説」 マンホールの中で 3

第四章 9


「時田のおかげでえらい目にあったわ。ここにあるものはもらっていくよ。お礼もしなければならないしな」

 そういうと、郷田は、銃を構えて、東山のデスクと思えるところに向かった。

「何をしているんだ」

「そりゃ他の財宝を探しているんだよ。何しろこの財宝はすべて俺のものだからな」

 そういうと、郷田は東山のデスクの引き出しを開けた。いくつか開けている間に、分厚い台帳のようなものが出てきた。ちょうど、小学校の出席簿のような感じで分厚い台帳が紐でくくられていた。そしてそれが4冊。

「ほう、倉庫ひとつに一冊ずつ台帳があるじゃないか。ご先祖さまもなかなか気が利いてるよな。子孫にこうやって残してくれるといい感じだよ」

 郷田はそういうと、ページをめくり始めた。

「なるほど、これは一師団くらいがみんなで戦争しても何とかなりそうな量じゃないか」

 入り口には郷田の部下と思われるものが二人、銃を構えている。次郎吉も時田も、手を挙げたまま動けない。

「これはなんだ」

 一通り目を通した郷田は、最後の薄い帳簿を目にした。当然に最後の薄いものは、倉庫ではないこの部屋のものであることは、善之助以外すべての人がわかった。

「郷田、わからないのか」

 時田は、そういって揶揄した。郷田は苛立ったように時田を見たが、しかし、時田に聞くようなことはなかった。いや、時田はわざとからかって、郷田が内容を聞くことを避けたのである。

「まあ、そうだな」

 郷田は東山の椅子と思われるところに座ると、椅子の横にあるレバーを台帳を見ながら探し出した。

「このレバーを引くとスイッチボックスが出てくるはずなんだが」

 郷田はそう言いながらそのレバーを引いた。郷田の後ろの壁の一部が崩れて、そこにレバーが三つ出てきたのである。

「おい、郷田、そのどれかは……」

 時田は言ったが、後ろから部下に銃の先で小突かれて黙ってしまった。

「台帳を見ながらやれば間違いはないよ」

 そういって郷田は真ん中のレバーを引いた。

 ゴゴゴゴゴゴゴ………

大きな音と、地響き、そして入り口の方から悲鳴が聞こえた。

「地震かな」

 善之助はなんとなく声を上げた。

「親分、入り口の岩が落ちて……」

 血だらけの若い衆が二人、部屋に入ってきた」

「なに」

 郷田はそのまま部屋を飛び出し、そして、残りの二人も向こう側に行った。

「いまだ」

 次郎吉は鉄の扉を閉め、そして、鍵をかけた。

「さて、どうする」

「とりあえず逃げましょう」

 善之助は、まったく目が見えていないのに冷静に物事を判断していた。いや目が見えていないだけに、頭の中で様々なものがつながっているのかもしれない。

「時田さんとやら。東山将軍の能力ならば、当然にこの事態を想定していたと思うわけです。つまり、見えやすいところにある台帳ではなく、どこかほかに本物のこのレバーの使い方があるでしょう。それを探してください」

「なるほどね」

「私たちも探しましょう。」

 斎藤と戸田も、そういって机の周りを探し始めた。

「善之助さんは何でもわかるんですね」

 小林の婆さんがそういって応接セットの椅子に座った。

「いやいや、こういったときに落ち着いていないと、警察でも議員でも、仕事はできませんから」

 その時扉がゴンゴンと音を立てた。たぶん、郷田が扉を開けろといって騒いでいるに違いない。たまにカンカンと音がするのは、銃を撃っているのであろう。しかし、戦前の更迭の扉が、郷田の持っている鉄砲玉くらいでなんと中るはずがない。

「次郎吉さん。扉の横に何かレバーはないかな。たぶん、東山将軍ならばこのようになって部屋の前に米兵がくることを想定しているはずだ。」

「爺さん、あったよ」

「やれ」

 次郎吉は扉の右側にあるレバーを引いた。何が起きたかはわからないが、外はそれで静かになった。

「あっちの倉庫にあった武器がくる前に、探さないとな」

「ならば」

 次郎吉は、そういうと、斎藤や戸田をしり目に、もう一度机に行き、引き出しの奥に手を伸ばした。東山の机の引き出しや二重扉になっていて、その二重扉の中に、別なカギがあった。そのカギで、椅子の背もたれの後ろ側にあるっ鍵穴に指すと、背もたれのふたが開いて、新たな台帳が出てきた。

次郎吉はさすがに泥棒である。何か物を隠すということになれば、その心理を考えるのは最も適している。

「なになに、真ん中は、防御のために洞窟をふさぐ。右はここから脱出して新たな基地に移動する。そして左は、敵を壊滅させる。そのほか、この中の武器を使われないためには、応接セットの机の下のボタンを押せ」

 東山という将軍は、そのようなことまですべて想定していた。

「ちょっと待て、ということは」

「ああ、ここの武器は使えなくすることができるということだ。」

「なるほどね」

 斎藤と戸田は、小林の息子とともに、机をどかし、そしてそのスイッチを押した。向こうの方で大きな音が聞こえるが、爆発音などは聞こえない。何か扉が閉まったかあるいは、砂か何かがかぶさったか、いずれにせよ太平洋戦争末期の歴史的な武器はすべて使えなくなったのであろう。

「敵を壊滅させるというものは、絶対にやってはいけないわけだ。東山将軍の考えで言えば、当然に、町の中にアメリカ軍が入っているということになろう。ということは、当然に、これを使えば町の中が大混乱になるということであろう。」

「そうだな。右側だけ引いて、逃げよう」

「財宝はどうする」

 斎藤と戸田は、何か言いだした。

「今はそんな時ではないだろう。まずは命が先」

「ああ」

 こういう時になると戸田の方が執着心が高い。斎藤は商社マンだけあって危険というものがわかっているが、この町から出ていない山岳ガイドの戸田は、そのようなことがわかっていない。

「行くぞ」

 時田は右側のレバー引くと、机の横の壁が、まるで忍者屋敷のどんでん返しのように、開いた。

「これならば逃げた後、また隠すことができる」

 次郎吉はそういうと、その先に行き、そして、全員をそこから逃がすと、扉を閉めて、そこに、テーブルなどで道をふさいだ。

 東山之部屋の外は大混乱であった。結局、郷田と川上、そして数名の子分が残っただけで、他は岩でつぶれたか、あるいは、武器庫の中で砂に埋もれてしまっていた。

「おい、この部屋を開けろ」

「はい」

 川上は、ロケット弾を扉に向けて数発撃った。さすがに川上はよくわかっていて、扉ではなく、その横の岩を狙っただけあって、扉は撃ち終わた後、一人が入れるくらいに穴が開いた。

「なんだ、誰もいないではないか」

「どこかにここを抜ける道があるのか。」

 子分たちは、そういうと、扉の横にある別のレバーを引いた。東山の部屋の前の廊下にもう一つ

穴が開き、外に出られるようになっていた。東山が別動隊を戦いに出すための出口を作っていたのであろう。ここだけでかなりの要塞であったことがよくわかる。

「おい、このレバー、一つ引いていないじゃないか」

「ああ、やってみるか」

「何か特別な宝かもしれないな」

 川上は、そういうと、そのままそれを引いた。

「なんだ、何も起きないじゃないか。宝を持てるだけ持ってずらかるぞ」

 郷田はしばらく待って、宝を一部持って出ていった。

そのころ町は、新たな惨劇に見舞われていたのである。

宇田川源流

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