「宇田川源流」 34歳女性首相に対する各国の嫉妬と羨望と年長者の危機感の底にあるものと外交力

「宇田川源流」 34歳女性首相に対する各国の嫉妬と羨望と年長者の危機感の底にあるものと外交力

 バルト三国という言葉を聞いたことがあるだろうか。フィンランドの南に南北に並ぶ3つの国を指し、北から順に、エストニア、ラトビア、リトアニアである。ロシアと国境を接しておりまたロシアがバルト海を航行するときの出入り口を使っているので、ヨーロッパに対する黒海とは異なるもう一つの出口である。

3か国ともに、北大西洋条約機構(NATO)・欧州連合(EU)および経済協力開発機構(OECD)の加盟国、通貨もユーロでシェンゲン協定加盟国である。歴史的に、エストニアやラトビアは北ヨーロッパ諸国やドイツと、リトアニアはポーランドとのつながりが深く、また3か国はロシアとも深く関わってきた。バルト三国はロシアとロシアの飛地に接している。

エストニア人は、フィン人と近縁の民族で、エストニア語はフィンランド語と同じウラル語族である。一方、ラトビア人とリトアニア人はバルト系民族(印欧語族バルト語派の話者)である。要するに、旧NATOとしてみれば、「反共産圏の砦」となった国々である。そしてロシア系の白系ロシア人、またはスラブ人とは違う民族で会うr。

歴史的に、エストニアはもともとスウェーデンのエストニア公国であったが、18世紀に起きた大北方戦争の結果、ロシア帝国の支配下に入る。またラトビアはスウェーデンバルト王国の一部であったが、大北方戦争やポーランド分割の後、18世紀に南北ともロシア帝国に帰することとなった。そしてリトアニアは1795年、第3次ポーランド分割によってポーランド・リトアニア連合が消滅した際、現在のリトアニアの大半の地域はロシア帝国に編入された。

その三カ国がロシア革命ののち、1918年に三国とも独立を達成した。しかし第二次世界大戦中の独ソ不可侵条約における秘密議定書を発端としてソ連とドイツによる占領が続いた。1940年にソビエト連邦に併合され、ソビエト連邦構成共和国であるエストニア・ラトビア・リトアニアの各「ソビエト社会主義共和国」として連邦政府の強い統制下に置かれた。1980年代後半、ソ連国内でペレストロイカが進展すると独立回復運動が高まり、1990年3月11日に独立を宣言したリトアニア共和国では1991年1月にソ連軍との衝突で死者が発生した(血の日曜日事件)。その後、ソ連8月クーデター後の8月20日にそろって再独立を実現させ、同年12月のソ連崩壊へ大きな影響を与えた。

さてそのような国々と、フィンランドの微妙な関係の話である。


フィンランド首相を「売り子」=エストニア内相が中傷、外交問題に

 【ロンドン時事】34歳の女性首相は「売り子」。エストニアのヘルメ内相がラジオ番組で、就任したばかりの隣国フィンランドのマリン首相を中傷し、両国の外交問題に発展した。エストニアのカリユライ大統領は16日、フィンランドのニーニスト大統領に電話で謝罪した。

 ロイター通信などが報じた。ヘルメ氏は70歳で、反欧州連合(EU)や移民排斥などを掲げる民族主義的な極右政党エストニア保守党の党首。15日にラジオ番組で「売り子が首相になり、路上活動家や教育を受けていない人々が閣僚に入った」と侮辱し、資質にまで疑問を呈した。

 マリン氏はこれを受け、ツイッターに「フィンランドを誇りに思う。ここでは貧しい家庭に生まれた子供でも教育を受け、多くのことを成し遂げられる。お店のレジ係だって首相になれる」と投稿した。マリン氏は貧しい家庭の出身で、政界入りする前は店舗販売員として働いていた。

 エストニアのラタス首相もヘルメ氏の発言後、マリン氏に2日連続で電話で連絡したと明らかにした上で「両国はお互いに敬意を抱いており、非常に親しい友人だ」と自らのフェイスブックで強調した。ただ、野党はヘルメ氏の辞任を要求し、攻勢を強めている。

 マリン氏はフィンランド史上最年少の首相で、世界でも最も若い国家指導者となった。閣僚にも若い女性を多く起用した。 【時事通信社】

2019年12月17日 20時56分 時事通信

https://news.nifty.com/article/world/worldall/12145-501747/


 このような歴史があるように、フィンランドも旧ソ連の影響の大きな国だ。日本や独伊と同様に敗戦国になったものの、フィンランド軍はソ連軍に大損害を与えて進撃を遅らせ、ナチス・ドイツ降伏前に休戦へ漕ぎ着けた。

このため、バルト三国のようにソ連へ併合されたり、ソ連に占領された東ヨーロッパ諸国(東側諸国)のように完全な衛星国化や社会主義化をされたりすることなく、冷戦終結による東欧革命も経た現在に至っている。

 戦後はソ連の影響下に置かれ、ソ連の意向により西側陣営のアメリカによるマーシャル・プランを受けられず、北大西洋条約機構(NATO)にもECにも加盟しなかった。自由民主政体を維持し資本主義経済圏に属するかたわら、外交・国防の面では共産圏に近かったが、ワルシャワ条約機構には加盟しなかった。このことを「ノルディックバランス」といい、このおかげで、現在まで独立を維持している。

しかし、このノルディックバランスそのものがバルト三国からすると「腹立たしい」という感じである。もちろん現代ではない。この歴史的なことを言っているのであるが、このバランスがあるということが、独立をできなかったバルト三国からすると面白くない。また同時に西側にも東側にも属さない「中途半端なバランス」が、信用できないというような感覚になっていることになる。最も悪い言い方でなおかつ本質は違うものの語弊を気にせず言えば「北欧版事大主義」に対して、ソ連という強大国に運命を左右され犠牲を強いられてきた国にとってはあまり面白いことではないのである。

そのような歴史背景の中で、フィンランドでは、サンナ・ミレッラ・マリン(Sanna Mirella Marin)氏が第46代首相として大統領に任命された。なんと34歳である。そのことが話題になった。

ちなみにフィンランドは大統領制であり国家元首は大統領である。フィンランドはポスト冷戦期である1990年代以降になって議院内閣制への移行を目的とした憲法改正が数度行われ、行政権の比重は大統領から首相(内閣)に傾いた。行政府の長である首相は、副首相や閣僚とともに内閣を構成する。各閣僚は議会に対して責任を負う。首相は、総選挙後に各党代表の交渉結果に従って大統領が首相候補者を指名し、議会で過半数の賛成を得たあと、大統領による任命を経て就任する。ほかの閣僚は、首相の選任に基づき大統領が任命する。

つまり、34歳の女性による行政が行われることになる。

さて、バルト三国とすれば「強いフィンランドが後ろに控えていることが重要であり、そのことがなければ、ロシアとフィンランドに挟まれてまた歴史的な苦境を味わうことになる」ということになる。そのような目から見ればサンナ・マリン首相は頼りなく映ったのではないか。

正直に意見を言えば「人間は、やってみなければわからない」ということであり、そのようなイメージや言葉感などだけでは本質が見えるはずはないので、そのようなことを言う必要はないが、まあエストニアの政治家も、バルト三国の政治家はみな、このサンナ・マリア首相に対して何かを言わされたのであろう。

その中でエストニア派の保守党、特に極右政党の政治家は「売り子が首相になり、路上活動家や教育を受けていない人々が閣僚に入った」と侮辱<上記より抜粋>と発言し、問題が出てきたということになる。まあ、保守側からすれば「革新的な女性政治家が経験もなく出てくるのはあまり歓迎すべきことではない」というようになるのであろう。もちろん「期待している」などということもできないし、また「女性だからロシアに強く出られないだろう」などとは言えないに違いない。そのようなことからこのような比ゆ的な表現になったし、まあ、ある意味で国内保守層に対するリップサービスも込みでコメントしたに違いない。

これに対してマリア首相は、「フィンランドを誇りに思う。ここでは貧しい家庭に生まれた子供でも教育を受け、多くのことを成し遂げられる。お店のレジ係だって首相になれる」と投稿した。<上記より抜粋>

ある意味で、「外交上の難しさ」を試練として突き付けられ、そこでうまく政治家らしい対応をしたのではないかと思う。

私の希望としては、このマリア首相、ぜひエストニアの保守党党首をフィンランドに招待し(内閣全体が言われているので)、温かく迎えてあげてもらいたい。ある意味で懐の深さを示す最も良い機会であると考えられる。このような時こそ、その政治対応を世界に示す良い機会なのではないか。歴史を踏まえ、そしてその歴史を尊重しながら未来に向けた新たな行動を起こす。これこそ政治家に必要な資質であると考え、この若い首相に期待するものである。

宇田川源流

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