「宇田川源流」【日本報道検証】 グリーンランド問題に日本はどう対処すべきか

「宇田川源流」【日本報道検証】 グリーンランド問題に日本はどう対処すべきか


 毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。

 さて今回は、選挙中で日本の政治のことはしばらく書くことができないので、あえて国際社会の方に目を向けることにしまして、その中で話題になっているアメリカのグリーンランドの領有要求に関して見てみたいと思います。このブログではグリーンランド問題はあまり出していないので、少し基礎的なことから解説してみましょう。

<参考記事>

EUがトランプ大統領の“グリーンランドの領有要求”で緊急首脳会談「対応可能な装備強化を検討」

1/23(金) 21:33配信 FNNプライムオンライン(フジテレビ系)

https://news.yahoo.co.jp/articles/04e541444021fb712fc3fd79c5f716da2bce3e74

<以上参考記事>

 トランプ大統領がグリーンランドの領有を強く望んでいる背景には、単なる不動産取引の延長線上の話ではなく、21世紀の覇権争いにおける極めて冷徹な「地政学的・安全保障上の計算」が存在する。2026年現在、北極圏はかつての「静かなる氷の地」から、米露中による「極北の最前線」へと変貌を遂げており、トランプ氏はこの島をアメリカの安全保障を完結させるための「不沈空母」かつ「資源の要塞」と見なしている。このような戦略的な視点は日本の報道ではほとんど見ることができないし、そもそも戦争という観点での内容を全く見ていないのであるから、報道も単純にトランプが不動産的な欲望を発揮したとしか見えていないようであるが、実際はかなり大きな問題なのである。

 温暖化による氷の融解は、北極海を世界貿易の新たなバイパスへと変えつつある。ロシアは自国の沿岸を通る「北極海航路」の管轄権を主張し、砕氷船を増強して実質的な支配を強めているが、これに対抗する上でグリーンランドは北大西洋と北極海を繋ぐ「入り口」として絶対的な価値を持つことになる。実際に北極海航路は中東などを回るのに比べてコストも日数も全く少なく態勢ようかと太平洋を結ぶことができるのである。

 特に、軍事戦略上で重要視されるのが、グリーンランド、アイスランド、イギリスを結ぶ「GIUKギャップ」と呼ばれる海域である。ロシアの北方艦隊が大西洋に進出する際、必ず通過しなければならないこの狭間を完全に監視・封鎖するためには、グリーンランドの広大な沿岸部と港湾施設への直接的な支配が不可欠となる。トランプ氏は、同盟国を通じた間接的な協力体制では、有事の際の迅速な決断や大規模な軍事展開に限界があると判断しており、自国領とすることで北極圏の「門番」としての地位を盤石にしたいと考えている。

 現在のトランプ政権が推進する大規模ミサイル防衛構想、いわゆる「ゴールデン・ドーム(黄金のドーム)」計画において、グリーンランドは幾何学的に代替不可能な拠点である。ロシアからアメリカ本土へ向かう大陸間弾道ミサイル(ICBM)の最短ルートは北極上空を通過するため、グリーンランドに設置されたピツフィク宇宙基地(旧チューレ空母基地)のレーダー網は、アメリカの早期警戒システムの心臓部となっている。

 トランプ氏は、中国が「近北極国家」を自称して「氷上のシルクロード」を提唱し、グリーンランドのインフラ開発や鉱山投資を通じて静かな浸透を図っていることに強い危機感を抱いている。もし中国がグリーンランドの港湾や空港を経済支援という名目で手中に収めれば、アメリカの喉元に「敵対勢力の目と耳」が置かれることになる。これを防ぐには、単なる協力関係の維持ではなく、主権そのものを獲得し、他国の介入を完全に排除する「モンロー主義」の極北版を完結させる必要があるというのが彼の論理である。

 グリーンランドには、スマートフォンや電気自動車、精密誘導兵器の製造に不可欠なレアアース(希土類)の膨大な埋蔵量が確認されている。現在、世界のレアアース供給網は中国が圧倒的なシェアを握っており、これはアメリカにとって経済・軍事上の大きな脆弱性となっているのである。

 トランプ氏は、グリーンランドの地下資源をアメリカの管理下に置くことで、クリーンエネルギーやハイテク産業における「対中依存」を根本から断ち切ることを狙っている。氷が溶けることで採掘コストが下がりつつある現状は、この島を世界最大の資源宝庫へと変えており、米中貿易戦争の文脈からも、グリーンランド獲得は「一発逆転の戦略的買収」としての意味を持っているのだ。

 グリーンランドの防衛を巡る「能力の空白」も、トランプ氏の要求を正当化する大きな理由の一つである。グリーンランドはデンマークの自治領ですが、人口約5万6千人の広大な島を、デンマークという比較的小さな国家の国防予算で守り切ることは物理的に不可能である。デンマークの共同北極司令部(Joint Arctic Command)は監視活動を行っているが、ロシアの原子力潜水艦や中国の調査船の活発な動きを抑え込むほどの「実力」は備えていないのが現実であろう。

 トランプ氏の視点では、NATO加盟国であるデンマークは十分な国防費を負担しておらず、グリーンランドという「世界戦略上の急所」を放置している無責任な管理者に映っているようである。彼は、デンマークが守りきれないのであれば、世界最強の軍事力を持つアメリカが「責任を持って」直接統治し、NATOの北端における防衛の穴を埋めるべきだと主張している。つまり、同盟国への依存という不確実な要素を排除し、アメリカの力による平和(プレ・アメリカ・スルー・ストレングス)を極北にまで拡張しようとしているのである。

 このように、トランプ氏のグリーンランド領有要求は、資源・航路・防衛という3つのベクトルが交差する地点で行われており、アメリカが超大国としての地位を21世紀後半まで維持するための「地政学的な死活問題」として位置づけられている。

 さて日本の対応を考えてみましょう。

 高市首相の訪米を控え、日本が直面しているのは「同盟の論理」と「国際秩序の正当性」という、非常に扱いにくい二つの巨大な歯車の間に立たされている状況であるといえる。トランプ大統領がグリーンランド領有を「不動産的なディール」として迫る一方で、ヨーロッパ諸国、特にデンマークやEUは、これを21世紀における主権の侵害、あるいは植民地主義への先祖返りとして猛烈に非難している。日本にとってこの問題は、単なる遠い北極圏の領土問題ではなく、日本の安全保障と経済安保の根幹を揺さぶりかねない「踏み絵」となる可能性を秘めています。もちろん、北極海航路の太平洋側の出口は、そのまま千島列島に来るのであるから日本は、ヨーロッパの艦隊がいきなり北海道沖に現れるということも考えなければならないという上での施行になる。

 日本にとって最も無視できないのは、トランプ氏が主張する「北極圏における中露の軍事的プレゼンスへの封じ込め」という論理である。日本は東シナ海や南シナ海で中国の海洋進出に直面しており、ロシアとの間にも北方領土問題を抱えている。北極海航路が中露のコントロール下に入ることは、日本のエネルギー安全保障にとって新たな脅威となるため、米国がグリーンランドに強固な足場を築くこと自体は、戦略的には日本の国益と合致する側面がある。

 トランプ氏は、高市首相に対し「中国の浸透を許しているヨーロッパの甘さが、日本の首を絞めることになる」というロジックで迫ってくるであろうと予想される。日本がこれに同調すれば、米日による北極圏の「資源・防衛同盟」は強化されるが、同時に、ロシアによる一方的な現状変更を批判してきた日本の外交方針、つまり「力による現状変更の反対」という原則との整合性が問われることになりかねない。

 一方で、日本は自由で開かれた国際秩序を重んじる国として、G7の仲間であるヨーロッパ諸国との歩調も無視できない。デンマークの主権を無視して「領土を買収する」という発想を公然と支持すれば、日本が北方領土問題で訴え続けてきた「法の支配」という大義名分が崩れかねない。もしトランプ氏の主張を全面的に肯定すれば、それは「大国が望めば他国の主権を買い取ることができる」という前例を認めることになり、巡り巡ってアジアにおける領土問題にも悪影響を及ぼすリスクがある。当然に北方領土や台湾問題なども、また今中国が買いあさっている北海道も代われてしまうというリスクに直面することになるのである。

 ヨーロッパ諸国は日本に対し、トランプ氏の暴走を食い止める「理性の声」としての役割を期待している。日本が安易に米国側に寄れば、脱炭素やデジタル規制などで協力関係にあるEUとの間に深い亀裂が生じ、日本の外交的孤立を招く懸念がある。

 この板挟みの状況において、日本が検討すべきは「領有」という極端な二択を避け、問題を「北極圏の経済・安全保障上のレジリエンス(強靭化)」という枠組みにすり替えることしかないのではないか。グリーンランドが抱えるレアアースや海洋資源の重要性は、日本にとっても対中依存を脱却するための生命線である。

 高市首相としては、領有権の問題には直接踏み込まず、代わりに「日米欧によるグリーンランド共同開発・共同防衛投資」という提案を模索する余地がある。これは、デンマークの主権を尊重しつつ、米国の懸念である「中露の浸透」を防ぐために、日米欧の資本を集中させてグリーンランドのインフラや資源採掘を支えるというアプローチであろう。これにより、トランプ氏には「経済的実利と中国排除」という果実を与え、ヨーロッパには「主権の尊重」という建前を保証する、極めて高度なバランス外交が求められることになる。

高市内閣で、または選挙後の他の内閣で、そのようなバランスの取れた外交ができるのだろうか。

 もちろん、この問題の決着は、3月の訪米の結果だけでなく、その後の米政権の動向や日本国内の選挙後のパワーバランスによって大きく左右されることになる。最終的な国家意思の決定は、国民の審判を経た新政権が、より広範な国際情勢を鑑みて下すべきものであろう。しかし、現時点で見えているのは、グリーンランドという鏡を通して、日本が「力によるリアリズム」と「法による理想主義」のどちらを優先するのか、あるいはその両方を統合する新しい外交軸を打ち出せるのかという、戦後外交の総決算とも言える問いを突きつけられているということなのであろう。

宇田川源流

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