小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 21
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 21
実際に、中国の西部戦区はかなり大変なことになっていた。ウイグルやチベットで蜂起したウイグル人やチベット人だけではなく、そこに呼応する形で人民解放軍のいくつかの部隊が共産党を裏切り反乱を起こしたのである。そして、その一部がミサイルを乱発し、他の駐屯地や基地を爆破していた。もともとチベットやウイグルの反乱を収集し、そしてインドや中央アジアの国々から共産党を守るはずの軍隊が、彼らと一緒に共産党を裏切るという自体になったのである。
最前線の軍隊は、最も強い装備を任されている。最新式の兵器は、近衛師団などが持っているが、実践レベルで最も使い勝手が良く、また即応できる軍備は、ほとんどが最先端に置かれていた。この時の中国から考えれば、最先端とは台湾やアメリカと戦争をするた目の南部戦区と、そしてインドや中央アジアの抑えの西部戦区である。北部戦区は以前はロシアとの戦いが想定されていたので、かなり強い軍隊があったが、今では内モンゴルという緩衝地帯があることと、ロシアとは同盟関係ができていることから、そのような最先端の軍を置く必要なかったし、また東部戦区に関しては韓国と日本が潜在的国として存在していたが、しかし、韓国には北朝鮮があり日本は軍備すらないので、それほど強い軍隊は必要がなかった。
しかし、今回の内容で、南部戦区は孔洋信の反乱があって、南部戦区の軍隊が二つに分かれて内戦を起こしており、また、最先端の陸軍を擁している西部戦区では、反乱が発生し、司令部が壊滅しているのである。
「張延に、まずは北京市内の暴動を鎮圧するように命じてくれ」
「はい」
周毅頼の執務室にいるのは、官僚出身の徐平である。
「それと、中南海の出入りを禁止するように」
「禁止ですか」
「ああ、今外に出れば暴動に巻き込まれる可能性がある。中南海の人々の安全を守るためと布告して、外出も禁止とする」
周毅頼はそのように言った。もちろん中に入ってくることなどはできない。中南海という場所は、周辺から少しくぼんだ場所にあり、その外側に外壁が高く築かれている。そのために外から中の様子は見ることができないしまた、遮蔽された空間の中に建物が入っているので、その中で一人を狙うことはできない。しかし、ある程度の空間になっているので、当然にその場で籠城できるようになっている。
一説には、元の時代の宰相耶律楚材の屋敷跡であるということが言われているが、中には広大な池があり、その池を中心に共産党の中心的な建物や共産党幹部の官邸や職員の宿泊所などが存在している。またその外壁の近くには、数千の軍隊の駐屯もできるようになっている。
張延は、その軍隊から装甲車や戦車を率いて外に出て、近衛戦区の軍と合流するということにしたのであるが、それ以外の軍は中南海を守っていた。そしてその軍が出入りを厳しく管理する。
中南海の正門は一つあるが、通常の出入りは長いトンネルの先に、北京の南部、天壇公園の横につながり、通常はそこから出入りすることになっている。その天壇公園の横に、近衛戦区の司令部があり、張延は、その司令部で将軍と合流して、北京周辺での暴動鎮圧を行うということになるのである。なお、天壇公園のトンネルは、張延が出た後シャッターが締められ、なおかつトンネルの中に装甲車は数台横に連なって道をふさいだ。これで中南海から完全に出入りできなくなる。
「将軍、まずは事態の説明を受けよう」
張延常務委員は、近衛戦区の将軍で中国人民解放軍中央軍事委員会の副主席を兼務する何華に声をかけた。
「何よりも、まずは首都の治安を守らなければなりません。反乱を行っている暴徒は徐々に膨れ上がって、現在は数万に達しているものと思われ、それが天安門広場に集結しつつあります。」
「では1980年代の時と同じように・・・」
「いえ、あのようにして数万の人民を殺してしまっては、問題が大きくなりますし、また、欧米からの追及が大きくなります。民主派は勢いを着けますし、西部で反乱を起こしているウイグル人やチベット人に、大義を与えることになるのではないでしょうか」
何華は、その様に分析した。確かにそのとおりであると、張延も考えた。何も人民をすべて敵に回す必要はない。しかし、それ以外に何か手段があるのであろうか。何将軍の次の言葉を待った。
「私は、もともと参謀本部の出身です。とくに情報畑にいたので、このようなことは予測しておりました。そこで、まずは上海の参謀本部と連絡を取りながら、まずは天安門広場につながる道だけではなく、主要な道路、とくに環状道路をすべて封鎖し、また北京体育館など暴徒が集まりそうなところをすべて封鎖し、その中に暴徒を閉じ込めるということにしたいと思います。」
「それでどうする」
「その後、その暴徒の中にスパイを入れて、暴徒の指揮官だけを炙り出し、そこを殺すという形にしてみたいと思います。」
「そんなにうまくできるのか」
「さあ」
「さあ・・・では困る」
「やってみないとわかりません。しかし、それほど長い時間が必要ではありませんし、また、このまま人民全てを敵に回すよりも、はるかにリスクは少ないのではないでしょうか。」
確かに何華将軍の言うとおりである。緊急事態であるが、逆に緊急事態で急ぐ時だからこそ拙速は最も良くないのである。北京でそのようなことをすれば、国が亡ぶ。そうならないために、必要最低限の手間は惜しんではいけないのである。
「わかった。まずはそのやり方を行う」
「かしこまりました」
何将軍は、そういうと、すぐに無線機を出して「作戦実行」という話をした。
「ところで、西部はどうすべきと思うか」
「それは周毅頼同志からの質問ですか」
「ああ、そうだ」
「西部は、もう趙杜琳が死んでいるでしょう。いや連絡がつかないだけかもしれませんが、組織的に反乱軍に抵抗することのできる状態ではなく、ある程度の散発的な内容しかできていない。そのうえ、西部は少数民族が多いので、人民解放軍もどうしても少数民族の構成になっていますから、暫くはどうにもならないでしょう。近衛戦区としては、陸上から彼らが攻めてくるということは考えにくいので・・・。」
「何故陸上から攻めてこないと言えるのか」
「それは、彼らが少数民族出身の混成部隊であるから、まずは、自分の民族の自治区の安定を図るでしょう。ということは共産党や人民解放軍の影響を排除した後、まずは自治区や自分の村を点検するということになります。つまりすぐには大規模な軍事行動を起こすことはできないということになります。そのような状態で、自分たちの安全をお担保するために行うのは、ミサイルによる攻撃であろうと思います。近衛戦区はそのことを予想し、対空ミサイルを西方に向けて準備しております。」
いちいち理路整然としている。張延は、このまま何将軍に任せておけばよいと考えて、そこで口をつぐんだ。
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