小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 17

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第三章 動乱 17


「孔同志、君のことを助けることはできない」

 周毅頼国家主席の秘書が、孔洋信常務委員のところに電話をかけてきた。

「我々を見放すという事か」

「そうはいっていませんが、助ける見込みはないということになります」

「おい・・・・・・」

 その冷たい一言で、電話は切れた。

「孔同志、仕方がないですね」

 蔡文苑将軍は、その様に言って、自室のキャビネットから酒を取り出した。

「家族には国外に逃げるように言ってあります。多分逃げることができるでしょう。孔同志もそうしたほうが良いでしょうね。多分、周毅頼国家主席は、我々にすべての罪を押し付けて、責任逃れするつもりでしょう。」

「そんな、本当は日本が敵であろう。あの憎い日本を占領するというのが、本来の目的であり、李剣勝首相の・・・・・・。」

 孔洋信は、言っていて自分がむなしくなってしまったのか、そこで言葉を区切った。

 そんな孔に蔡は酒を勧めた。

 大きなため息を吸い込むように、孔は酒を飲んだ。

「家族に連絡しよう」

 孔は家族に連絡していた。

 テレビでは、ニュース番組が、第73集団軍が反乱を起こしたと、大きなニュースになっていた。この後周毅頼国家主席が2時間後に記者会見をするという。蔡文苑は、その記者会見が、多分自分達73軍を攻撃するというものであるのか、あるいは2時間以内に73軍を滅ぼして「鎮圧した」という内容であったのか、いずれにせよ、周毅頼を信用して今までやってきた自分たちが、切り捨てられるということであることは理解できた。

 逆に、今の中国人民の動きを見れば、そうしなければならないということになるのであろう。

 「死の双子」を厦門市内で使ったことはない。しかし、なぜかこちらから撃たれたロケット弾に、死の双子が入っていて、厦門市内の友軍の兵士が犠牲になった。それだけではなく、ウイルスなのであるから町の中の一般人も「死の双子」に感染し、軍に助けを求めて出てきたのを、恐怖のあまりに、友軍兵士が殺した。それを映像で国内でSNS拡散されてしまったということである。

 蔡文苑からすれば、間違いなく誰かにはめられたということである。しかし、すでに軍人がそのようにして一般人に銃を向け、そして殺してしまったということが事実であれば、間違いなく、どんな言い訳をしても意味がないのである。汚名を着て殺される。それが自分の運命でしかない。その運命は受け入れるしかないし、その感覚は孔同志も同じ感覚を持っている。

 それにしても自分たちをはめたのは誰かなのか。

 要するに、自分たちがはめられたのであれば、そのはめた人間はそのまま生き残ることになる。そのようなことが許せるはずがない。せめて、一緒に滅んでもらわなければならない。

「周毅頼同志でしょうか」

 蔡文苑は、そういった。平時であれば、国家主席が自分たちをはめたなどということをいうはずがない。しかし、蔡文苑にしてみれば、もう自分は死ぬのだということがわかっている。生き残って何かをするという事がない人物によって、権力とか、そういったことは関係がない。

「まさか、初めから我々を殺すつもりで仕組んだという事であれば、わからないではない。しかし、そんなことをするであろうか」

 科学棟の方で大規模な爆発が起きた。多分外の軍隊が、榴弾砲を打ち込んだのであろう。すでに薬品の多くは科学棟から出されているので、拡大被害はないが、それでも科学者などが犠牲になっているのではないか。

 一方、駐屯地の中からは、その軍隊に向けてロケット弾を撃っている。死の双子に関しても、備蓄分を使用するということで蔡文苑が許可を出していた。放水車や、ドローンによる散布が準備されている。

「では誰が」

「上海で、大量に『死の双子』の争奪戦がマフィア同士で行われた。その上海マフィア、つまり、盗んだ側にも、もともと持っていた側にも、日本のヤクザが絡んでいる」

「では、日本がこのことを仕掛けたという事でしょうか。しかし、何故彼らは死の双子のことを知っているんですか。」

「東京で使ったからだよ」

「東京で」

「そうだ・・・。」

 その時テレビで全く異なる報道がなされた。

 テレビ局に投稿があったというのである。

「実は私が共産党の指示で『死の双子』というウイルスを開発したのです。これは生物兵器です」

 毛永漢である。そもそもこの微生物学者が73軍の化学プラントを作りまた、東京の羽田での倉庫の中での簡易実験施設も作った。その毛永漢画、73軍の自分の実験室からインターネットでテレビ局につなぎ、全てを話し始めたのである。

「おい」

「しかし、すでに科学棟は爆破しています。毛医師は行方不明です。」

 行方不明とは、建物のがれきの中に埋まってしまっていて、今どこにいるか連絡がつかないということである。この駐屯地から外に出るということはあり得ない。秘密の通路などもない。地下の防空壕に入っていれば連絡がつくはずなので、毛はすでに死んでいるのであろう。

 ぎゃくにいえば、この放送はすでにテレビ局に送ってしまったもので、テレビ局が止めなければ泊らないということになる。

「私は、周毅頼国家主席の執務室に呼ばれ、治すことができないウイルスを作るように命じられました。そして、軍の施設を解放するといわれ第73軍の科学棟を私の好みで使ってよいといわれ、また予算を使うことを許されました。周毅頼国家主席は忙しいので担当は、孔洋信常務委員と蔡文苑将軍が管轄に・・・」

「あいつ、しゃべってしまったようだ。」

 孔洋信はテレビを見ながら呆れたように言った。

「SNSでもアップされ、広まっていますよ」

 蔡文苑もスマホを見ながら、苦笑いをした。

「それに、こんなやつ迄話しています。本当に、タガが外れるとどこまでも裏切りが続くのですね」

 蔡文苑の示したスマホの画面には、毛永漢の弟子で、主に実行をしていた栗紅凛が出て、毛永漢と話していた。それも栗紅凜は、どうも東京で話しているようで、渋谷のスクランブル交差点と思われる背景であった。簡単に、中国軍が逮捕拘束できないということになる。

「これが出回った後で、周毅頼国家主席は何を話すのかね」

 孔は苦笑いをした。

宇田川源流

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