小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 16
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 16
「死の双子を完全に廃棄しなければならない」
謝思文は、胡英華に言った。
「謝同志、まあ見ていてくれ。そろそろ次の手が来るよ」
上空を飛行する偵察機の映像を見ながら、胡英華はそういった。それまでのあまり決断できないような人物像とは全く異なる、まさに、チャイナセブンといわれる中国を動かず7人の中の一人というような威厳に満ちた態度であった。
「どういうことで」
「まあ、見ていろ」
映像モニターの中では、何が起きているかわからない厦門の街中の軍隊と、防護服を着て動いている駐屯地の軍人たちが別々に映し出されている。
厦門の街中の軍隊は、援軍であり、駐屯地から出てきているのではない。そのために、「死の双子」の存在を知らない人も少なくない。司令官レベルで知っていたり、少し聞いたことがあったとしても、そのウイルスが自分の軍隊に降りかかってくるなどということは全く考えていない。もし考えていたとしても、今回の戦いでそのようなウイルスが出てくるとは思っていないので、防護服などは持ってきているはずがないのである。
「何だこの戦場は」
味方、いや支援をしているはずの厦門の駐屯地方向から飛んできたミサイル、いやロケット弾を受けた。友軍の敵を攻撃する弾が当たる、いわゆる「フレンドリーファイア」はあまり訓練していない軍においてはあり得ない話ではない。そのことから、識別っ信号を上げ、そのうえで負傷者の応急処置を行った。しかし、その応急処置を行った兵が、皆血を吹き出し、耳や目から血を流して悶絶して死んでいった。
「各部隊に次ぐ。今何者かによって発射されたミサイルは、猛毒のウイルスが入っているものと思われる。負傷者の応急処置をやめて、隔離し、健常者は対比せよ」
厦門の駐屯地からは、そのようなメッセージが流れている
「負傷者の応急処置をやめて移動」
死の双子の存在を知っている隊長は、すぐにその言に従った。もちろん、近くにいる民間人に被害が出ている。民間人が血を噴き出しながら「助けてくれ」といって出てくるが、死の双子の感染者だと分かれば、近寄ってきて感染することは自らの死を意味する。援軍の部隊はそのような民間人を射殺する以外にはなかった。
「胡英華同志。あの映像を」
「そうだな」
謝思文は、厦門の援軍が血を流して助けを求める民間人を射殺する映像を、マスコミとインターネット上に流した。もちろん、胡英華などにしてみれば、孔洋信や厦門の軍を悪者にするためであり、同時に現在の周毅頼国家主席に対する反感を強めるためである。
すぐにインターネット上にはコメントが多くついた。周毅頼は、初めのうちそのコメントなどを削除したりまたは動画のリツィートを削除するなどを行っていたが、途中からあきらめたようだ。
初めのうちは<これはフェイク画像だろう>などというような楽観的な内容が増えていたが、そのうち
<人民解放軍が人民を殺し始めた>
<六四天安門事件の再来>
<周毅頼を殺せ>
というような、現在の共産党執行部を批判する内容に変化していった。このままでは反共産党の反乱が起きかねない状態に復活している。当然に、共産党市エフは死の双子のことなどは公表できない。つまり、人民解放軍がフル装備で厦門の人々を殺しているとしか見えないのである。その動画を見た人は、当然に、「自分たちも人民解放軍に殺されるかもしれない」というような恐怖に駆られて行動を起こしてしまうのである。人民解放軍が殺している理由がわからなければ、自分がいつ殺されるかもわからないということを意味しているのである。
「うまくいきましたね」
「もちろん、我々も、人民に攻められる側です」
「では、次の手を」
そういうと、謝思文は、カメラを回した。
「皆さん、こんにちは。胡英華です。私は今、福州の軍に来ております。今なぜか、厦門の人民解放軍に、孔洋信常務委員が入り蔡文苑司令とともに、厦門の人民を理由もなく殺し始めました。我々はこれを反乱と認めております。共産党は反乱を決して許さない。まだ周毅頼国家主席の命令はないが、私の権限で厦門の人民解放軍から人民を守るため、戦います。」
謝思文は、これをすぐにアップした。その直後、王瑞環も同様の内容を出したのである。王瑞環の秘書である劉俊嬰がうまくやったのであろう。
「これで、厦門の軍をたたく正当性が生まれましたな。周毅頼が何を言っても、常務委員会では、厦門の反乱軍を叩き人民の反乱を納めたということになるでしょう。少し強硬的ではありますが、死の双子を使うよりはこの方がよいでしょう」
「しかし、謝君、町にばらまいた死の双子は」
「あれは、日本人たちでしょう」
「君が仕組んだのではないのだね」
「もちろん、私は仕組んではいませんよ。でも、死の双子を持っていて、なおかつあの町の中にいて、侵攻を止めようとすれば、決選兵器を使うしかないでしょう。それにしてもあの荒川という日本人は本当に巧妙にやりましたね。」
「まさか、駐屯地の方からロケット砲を撃つとは思わなかった。そのことによって、援軍の多くが駐屯地から撃たれたと思ったのに違いない。援軍の体調や司令官は、まさか厦門の駐屯地の軍が自分たちを狙って、いや少なくとも人民に向かって強力な生物兵器を撃つなどとは思わないでしょう。裏切られたというような感覚になるのではないだろうか。」
胡英華は、感心しながら、やはり指を動かした。彼が者を考える時の癖なのであろう。指の動きは話しながら早くなっている。
「戦いの宣言はしました。しかし、我々はあの死の双子の危険を犯す必要はないでしょう。」
「それでは戦うといった私が嘘を言ったことになる」
「まさか、今の話が彼ら、そう町の中の軍隊に入れば、彼らが行動を起こすでしょう。なにしろ彼らは死の双子の被害者ですし、駐屯地には仲間を殺された恨みがある。」
「そうか、確かにそうだな。司令官」
胡英華は、司令官を呼ぶと、一つのことを命じた。
その数十分後、厦門の上空を大型のヘリが飛んだ。
「諸君は反乱軍か、それとも、人民解放軍か。人民解放軍ならば反乱軍を攻撃せよ」
ヘリは大型スピーカーでその言葉を流しながら、対空砲をよけて飛び続けた。
初めのうちは対空砲をヘリに向けていたが、ヘリを攻撃はしなかった。彼らの中にもヘリを攻撃してしまえば、反乱軍とされてしまうことを恐れる人々がいたのである。そうでなくても、兵の逃散は激しくなっていた。いきなり「日本人が反乱を起こしている」といって招集され、そして味方と思て散る軍から攻撃され、そして変な病原菌で仲間を失い、最後には自分たちが反乱軍扱いをされたのである。彼らこそ、なにがなんだかわからなくなっていた。
その時、基地で大きな爆発が起きた。そしてその直後、ヘリのもっと上の方から爆音が響いた。人民解放軍の戦闘機が、厦門基地を空爆したのである。基地からは何本かの対空ミサイルが発射され、戦闘機のうちの一機が、空中で爆発した。
「反乱軍の基地を攻撃する」
街中の軍は、いつの間にか基地の方に移動していた。
0コメント