小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 15
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 15
第73軍は大混乱になった。援軍として駆け付けた軍に対して、厦門の基地方面からミサイルが発射され、自陣に着弾したのである。援軍などにしてみれば、自分の軍隊が「後ろから銃を撃つ」ということになる。そのミサイルはかなり大きく爆発し、戦車や対空砲などが多く破壊され、その中の一つの人知では、積み重ねた対空砲や榴弾砲の砲弾に誘爆して、大爆発を起こし、周辺の建物まで被害が及んだほどであった。
しかし、混乱はそれだけではない。その爆発の近くでは、多くの兵士が血を流していた。そこまでは当然であったが、その兵士の治療に当たった衛星兵も、その直後に体中の穴から血を噴き出して倒れてしまったのである。またその近くにいつ人々も、血を流しそして発熱して苦しんでいた。
「なんだこれは」
「とにかく助けろ」
「いや、近づくな」
単純に爆弾が誤爆して近くに着弾しただけならばまだ理解できないではないが、原因不明の病原体があり、その病原体が蔓延したということになれば、混乱は必至である。軍隊というのは、敵と戦うものだ。その敵が目に見えるものであれば、特に敵国の人間であれば、何の問題もなく戦うことができる。そもそも共産主義国家であり人権などという考え方が全く存在しないし、そのような教育はされていない。つまり、人間を殺すことに関しては、日本人などよりもはるかに抵抗がなく殺すことが可能だ。それが自然災害などにおいては、人命を救助するよりも、大勢に従って事件を隠したり、重要な施設を守るというようなことになる。しかし、自然災害においても行動は日本などの人命救助とは全く異なるが、それなりの行動ができることになる。
しかし、この時のように敵が原因不明、特に病原菌やウイルスなどのように銃やミサイルで破壊することができない敵に関しては、急に行動ができない。自らのことを強いと思っている軍ほど、自分が敵わないという敵や太閤方法のわからない敵が出てくると恐慌状態に陥る。またそのような軍の司令官はまずは撤退すること以外には命令の選択肢がなくなってしまう。
「まずは撤収せよ」
援軍の司令官は、どの援軍においても同じ指示を出した。しかし、恐慌状態になっている援軍の兵士たちはそのような命令に従うことなく、勝手な行動を起こしてしまうということも軍の常識である。
「ミサイルの発射方向に反撃」
対空砲だけではなく他の武器も73軍駐屯地に向けて発射し始めた。
「孔同志は避難を」
蔡文苑司令官は、常務委員の孔洋信を逃がそうとした。
「ありがとう。でも、逃げることは無理だろうな」
孔洋信も苦笑いをするしかなかった。彼らにしてみれば、敵が誰かなのかもわからなかった。そもそも、今回の内容は周毅頼の指示で『死の双子』といわれた新種のウイルスを日本で蔓延させ、そのうえで、日本を占領するというような作戦であった。しかし、日本匂いてなぜかその拠点の羽田の倉庫が襲撃された。それも日本の警察などではなく、「ヤクザ」といわれる非合法組織にである。そしてその謎を解くためになぜかその非合法組織が中国にやってきた。
しかし、その内容はなぜか常務委員会の対立を招いた。そもそも「死の双子」を使うこと自体が、常務委員会も軍事委員会も承認も取っていない。そのように考えれば、死の双子の話も含めて全て周毅頼と孔洋信で全て秘密裏に進めていた。そのことからその内容を一部の軍関係者以外には明かすことができなかったのである。
そのような時に、上海でマフィア同士の戦いが起きた。そのマフィアの一部は、死の双子を日本に持って行かせた香港のマフィアであった。その香港マフィアが負け、預けてあった死の双子が上海のマフィアに大量に流出したのである。しかし、その死の双子が使われた。一回目は駐屯地の正門で。そして次が今回である。しかし、死の双子という新種の、それもワクチンも治療方法もない生物兵器が使われたなどということを、他の軍に明かすことはできない。
「報告します。科学棟、実験棟、共に友軍というか・・・」
「攻撃で破壊されたという事か」
「はい」
「軍内に化学防護服を着けるように通達せよ。科学棟事故マニュアルに従え。」
「はい」
蔡文苑は、報告に来た部下に身近い言葉で伝えた。
「それにしても、同士討ちを誘発させるとは、マフィアのくせに」
蔡文苑は、苦笑いした。いや、そうするしかなかった。
「マフィアだけではなく、日本人も入っているし、また胡英華も無効と組んでいるのであろう」
「胡英華同志が」
「ああ」
「なぜ。日本ではなく、周毅頼同志を敵にしているという事でしょうか」
蔡文苑は、一応防護服を着ながら孔洋信に話をした。
日本と敵対し、そして日本を占領して太平洋に出る。そのうえでアメリカと戦うということが、最も重要なのであると思ったが、しかし、胡英華はそうではない価値観を持っているようだ。生粋の軍人である蔡文苑は、それを言葉で聞かなければ、理解できなかった。
「胡英華にしてみれば、日本を手中に入れた周毅頼同志の支配する中国よりも、日本を持たなくても自分が思い通りに差配できる中華人民共和国の方が魅力があるということなのであろう。」
「それは裏切りではないですか」
「いや、周毅頼から見れば裏切りかもしれないが、彼らからすれば、死の双子などを勝手に使ったこちらが討伐対象なのだよ。」
孔はそういって、近くに出された防護服を着た。
0コメント