小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 11
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 11
「厦門内戦という知らせが来たが」
東銀座の事務所では、荒川から連絡がこないことに、嵯峨朝彦がいらだっていた。自然と酒の量が増えてしまっている。しかし、自分の亭主や幼馴染のヤスまで行ってしまっている菊池綾子も不安そうな表情をうかべている。
「はい、政府も、内戦ではないかというようなことを危惧して対策本部を作っております。」
政府からの情報は全て今田陽子が持ってきていた。
「荒川君は無事なのかね」
「連絡が取れていませんが、戦争をしているのは厦門全般ではなく第73軍駐屯地近くでしかないので、市内はまだ落ち着いているというように聞いています。」
「殿下、もしかしたら荒川さんや太田が内戦を引き起こしたのかもしれません。」
菊池綾子は、あくまでも楽観的に言った。実際に何かあったとしても自分たちが直接助けに行けるような状況ではない。ある意味で問題はない、きっと大丈夫と待っているしかないのである。
「しかし、第72軍の基地からミサイルでの攻撃があり、航空機も出ているようです。」
ネットを屈指した青田博俊は、アメリカや日本の衛星からの画像を、壁に映し出した。大きなスクリーンのようなものはなかったが、何も飾りのない白い壁に、プロジェクターで映像を映し出している。衛星画像なので一人一人の行動などまでは見えないものの、ミサイルや航空機が飛び勝っていることや、戦車が街中を走行している。
「政府の方は」
「はい、外務省からの問い合わせでは、中国共産党政府は初めは否定していましたが、その後、東部戦区での戦区内の軍事演習が行われているちうことを認めました。しかし、あくまでも国内、そのうえ中国領土内での演習なので、外での問題はないということを主張しています」
「彼らのいう一般人民への被害は」
「訓練だからないというようなことを主張しています。」
今田陽子は、少しうんざりしたようにいった。
「企業の反応は」
「企業は大変ですよ」
青田が、画面を分割して中国進出企業のSNSが映し出された。
「今はこのようなことがネット上にすぐに出てくるのだね」
SNSの画面には、厦門の街中に戦車や軍兵が移動している写真や、空に航空機やミサイルが飛んでいる写真が掲載されている。そのほかにも、動画が掲載されているものもあった。町の外れでは、銃撃戦があるのか、銃声が聞こえている。
「完全に内戦だな」
「公式には、市街戦の演習ということですが、一般住民の避難などは全くされていないのですね」
嵯峨と今田は、つぶやくような感想を言った。
「これは、政府も確認しているのか」
「もちろんです。上海の領事館から人も派遣し、日本人の安否確認をしております。」
「その安否確認の対象者に荒川君は」
「入っていません。あくまでも、現地で居住または就業している人しか対象になっていません。あとは、旅行者くらい。さすがに荒川さんは北京から上海と移動なので」
確かにそうだ、と嵯峨はうなづいた。
「このような内容も見てもらっていいですか」
青田は、別な画面を出した。そこには企業のホームページが出されていた。
「日本の企業は、厦門だけではなく、全く関係ない北京や成都に進出している企業、もちろん広州や香港まで全ての日本の企業がすべて日本人の帰国を推奨するということになっています。」
「すぐに政府を通して聴いてみましょう」
今田はすぐに政府に電話をした。
「すぐに官邸に戻れという命令です」
「うむ、行ってこい」
「はい」
今田は東銀座から首相官邸に戻った。
「総理お呼びでしょうか。」
首相官邸の応接に多くの人が集まっていた
「飯島大臣。改めて状態を説明してくれますか」
阿川首相のほか、橘防衛大臣、今川秘書官、北野安全保障会議議長もそこにいた。またそのほかの大臣や次官なども入っていた。
「ああ、中国共産党はいきなり厦門および東部戦区全体で演習が始まったようです。71集団軍と72集団軍が73集団軍を敵に見立てて戦っているというような感じで、主に73集団軍の駐屯地のある場所で戦闘が行われているということのようです。その中で、南平の自動歩兵旅団と泉州の防空旅団はすでに降伏したようで、その周辺では戦闘は行われていません。この他の戦闘状態の詳しいことは、橘防衛大臣から報告させましょう。」
「いや、飯島さん、中国と日本の外交交渉について先にお願いします」
阿川総理は、その様に応えた
「外交上は、中国は通常の市街戦の演習といっており、事前に現場、つまり厦門市などには告知をしていたということを言うのですが、残念ながら、そのような事前通知を受け取った現地の日本企業はありません。そして避難誘導などもなくそのまま現地で市街戦が始まっているというような状況です。」
「そのようなことで、どの様な対処をしていますか」
今川秘書官は、飯島大臣に詰め寄った。
「いや、中国政府がそういう以上、中国の主権の範囲内の事であり、日本政府としては何もすることがない。いや、強制的に自衛隊を派遣するとかもできないし、また安全保障条約に従ってアメリカ軍に出動を願うこともできない。当然に、日本企業の人々に対しては現地で自己責任で行わなければならないということになるのではないか。他に何かできることがあるのかな。今川君」
「確かに何もできませんが」
「一応上海の領事館から警察出身の外交官、いわゆる防衛武官を向かわせていますよ。しかし、それ以上は何もないということになるのではないでしょうか。」
飯島は不機嫌そうにいった・
「現場には入れたのですか」
今田陽子である。
「いや、まず航空機などは飛行禁止になっている。道路も途中で閉鎖されているとお、上海の領事館からは、そのようにして現在厦門市内には入ることができないでいると報告があった。まあ、軍事演習中ならば、当たり前のことだ。」
飯島は、親中派の政治家といわれている。そのような意味から中国に強く抗議するなどということは全くしないどころか、どちらかといえば媚びた感じの外交しかできない。
「閉鎖されているということは、厦門市から人がからでてくるということもないということですか」
阿川総理が聞いた。要するに、厦門市から一般の住民が脱出できるかどうかということである。
「出てくる人もいないと報告があります。中国政府は、市民がいるという前提で市街戦が行われるのであり、そのような想定をしていると伝えてきています。」
「なるほどね。要するに厦門市にいる人は中国人でも外国人でも巻き込んで見殺しにするということですか。」
阿川はため息交じりで行った。
「橘防衛大臣から現在の状況を・・・」
北野安全保障会議議長が橘を指名した。橘は若手の政治家であるから遠慮ない内容を言った。
「橘さんは、この戦況でどの様に考えますか」
「総理の質問なので、個人の意見を申し上げます。私は大臣として、この内容は演習などではなく、内戦又は軍の反乱に対する制圧であろうと考えております」
「なるほどね。それならば市民が巻き込まれても仕方がないということになりますね。政府としては。そのまま反乱がおきたほうが困るでしょうから。」
「別な観点から見れば、これで台湾への軍事侵攻が遅れるということになるのではないでしょうか。」
橘は、そういった。確かにそのとおりである死、橘の政治家として視点の広いことをアピールするには問題はないのであるが、少なくとも厦門にいる日本人の安否という議題を話している中には何の関係もなかった。
「では対策を考えましょう。皆さんの忌憚のない意見をお願いします。
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