小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 7
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 7
孔洋信が厦門73軍司令部に入った時には、すでに白い防護服を着た兵士が多く周辺の掃除をしていた。かなりの水で除染をしたのか、周辺だけではなく、広い道路を挟んだ住宅地の中の方まで道路が濡れていた。にほんのかんかくでみれば、このようにして流してしまえば、中国の住宅地に住む人に影響が出ることや、そのまま浸透してしまって水道などにウイルスが混ざる可能性がある。しかし、あまり一般の人々の人権を認めていない中国に関しては「政府の役に立つ人」だけが銃用意されるということになるのである。実際に水が流れ込んだ住民の中で「死の双子」の被害が出ているようであったが、厦門市の公安はその家族ごと拘束してどこかに連れて行ってしまって、行方不明になっていた。
「もう安全なのか」
前後を護衛の社長に守られた黒塗りの車の中で、孔洋信は言った。この「安全」は死の双子の汚染の話なのか、または、その死の双子によっての治安悪化に対する言葉なのかうよくわからなかった。
「はい。もう問題ありません。」
元軍人であり軍の先輩にあたる孔洋信に対しては、軍人の多くが従っていた。特に73軍のように周毅頼の影響が強い軍の駐屯地においては、神格化されているようだった。
孔洋信の車に関しても、普通ならば運転は軍曹などであったが、孔洋信の車の運転手は少尉が、そして案内役は大隊長である大佐が勤めていた。もしも下層兵士などにやらせて問題があれば、上司の責任問題になるし、また、その仮想兵士が気に入られて出世してしまっては、上司は追いやられてしまう。
しかし、その様に上層部のことをよくわかるはずの大佐であっても、今回の孔洋信のこの「安全なのか」の言葉がどちらの意味なのか、またはそれ以外の意味なのかよくわからなかった。
「今回の死の双子の流出量は」
「はい、僅かであったと思われます」
「本当に死の双子なのか。何か他のウイルスや病原菌ということはあり得ないのか」
孔洋信は、いらだったように言った。これが他のウイルス、それも自然のウイルスなどであれば、何の問題もない。ただ、体調の悪い兵士がいただけのことである。万単位の人がいる軍隊では、体調の悪い兵士がいるなどということは日常茶飯事であり、別段おかしな話ではない。
「今検査中です」
大佐はそれ以上何も言わなかった。いや、何か言えるだけの資料を持っていなかった。死の双子に関しては、一部の衛生兵や科学兵によって秘密が保持されている。そのうえ、今回の死体もすべて厳重に管理されているのであるから、一般の部隊に所属している大佐にはわかるはずがなかった。それでも共産党の幹部である孔に聞かれた以上、何か応えなければならないのであるから検査中としか言えないのであろう。孔洋信は、その答えを聞いて少し笑うしかなかった。
窓から外を見れば、一応一般の市民たちは普通に生活をしている。しかし、その表情は何か政府に対しての不信感を称えた目で自分たちを見ている。この国は民衆が常に政権上層部を信じていない。それは秦の始皇帝が中原を治めてからずっと続いていることである。それは、経済的に満足させることや充分な食事を得ることができないからではないかといわれていた。そして共産党政府は経済的に裕福にさせ、技術を発展させ、そのうえで、人民に十分な食事と生活を与えていたはずであった。しかし、それでも民衆はまったく政府を信用しない。
この、人民が政府を信用しないということが、中国の歴代王朝の、そして中国共産党の最大の弱点である。孔洋信は、そのことをよくわかっていた。そしてそのことからどうしても今回の内容に関して住民の目が気になった。同時に、孔洋信が気にするほど、人民解放軍が孔洋信や周毅頼の様な上層部ほど、住民のことを全く気にいないことに危険性を感じていた。
「孔洋信同志。本部科学等に到着します。」
「ご苦労」
大佐はそれ以上ついてくることはなかった。
「孔同志。お待ちしておりました。周毅頼同志よりご連絡賜っております。」
出迎えたのは、第73軍軍長蔡文苑少将が深々と頭を下げた。
「蔡少将。出迎えありがとうございます。」
蔡文苑は、現在国家主席の周毅頼がまだ地方の行政官であった時に、地方の軍の連隊長として、かなり親しくあった。そのような時に水害があり、その水害の中で支援物資を人民に配りながらも、その物資をうまく横流しし、二人でかなりの資産を築いていた。功績も不正も、全て周毅頼と蔡文苑は一緒に行ってきたのである。孔洋信は、そのような二人の関係を人民解放軍時代によくわかっていた。孔洋信も軍人であったので、蔡文苑を処分することもできたが、しかし、蔡に話を聞き、一緒に周毅頼を支援することにしたのである。
そのような歴史があり、その歴史を受けて今日がある。もちろん、その時に作った資金で政治工作を行い、また軍の中でも出世をした。周毅頼が国家主席になったことで、本来蔡文苑は、軍事委員会のトップにすることもできたが、周毅頼は、そのまま73軍の軍長として蔡文苑を厦門に置いた。中央で不正を行ったり、資材を横流しをしたり、または生物兵器や化学兵器など国際条約に違反する兵器を研究させれば、国際的に目立ってしまい、そのことによって処分しなければならない可能性もあるのだ。
周毅頼と蔡文苑は、二人で話しながら、様々な化学兵器や核兵器なども作ったのである。そして周毅頼はこの73軍を単なる補給軍として、ここに様々な実験施設などを作り、また参謀本部に近い機能を作ったのである。そして総参謀本部や北京の近衛師団よりも強力な軍隊を作ったのである。ある意味で周毅頼の私兵説いても過言ではない。
「蔡少将、ではまずはさまざまな報告をいただきましょうか」
「はい。死の双子と言われているウイルスなどに関しても。また新兵器に関しても報告いたしましょう。」
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