小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 6
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 6
「準備を進めるなんて言っても何をするんだ。相手は軍隊だろう」
安斎は恐怖で声を上げた。安斎にしてみれば、他の人々が全く動じていないことの方が驚きでしかなかった。
もちろんほかの日本人たちも、軍隊相手で勝てるとは思っていなかった。しかし、やらなければならないということでしかない。太田や西園寺は、当然に、中国に渡った時からすでに覚悟はできていたし、荒川も二回目の渡航は、すでに日本に帰ることの確立は少ないということを思っていたので、いよいよそうなったというだけになるのである。
「軍隊ですね。さすがに強くても上海マフィアの皆さんでは勝てないのかもしれません。」
「だろうな」
太田はそういった。太田と言えども、軍隊との戦いにワンを巻き込む気はなかった。太田の隣にいた馬紅は、逆にワンのマフィアに軍隊と戦わせなければならないということを覚悟するしかなかった。
「しかし、主力軍と普通の軍隊であれば、主力軍の方が強いかもしれません」
謝思文は、何事もなかったように言うと、近くにいるウエイターを呼び果物をオーダーした。
「皆さんは果物やデザートはいかがですか」
「主力軍。あ、いや、デザートの話だったな。もちろん、ゆっくりと食事できるのは最後かもしれないしな」
「私もお願いします」
荒川は、すでに覚悟が決まっているので、やはりデザートを頼んだ。安斎以外は皆頼むことになった。
「さて、ウエイターがいなくなったので言いましょう。先ほど、香港のマフィアと日本の津島組が73軍に言ったということをお伝えしたと思います。要するに、73軍には警察公安が立ち入って検査することができます。そして敵性外国人やマフィアをを匿ったということになれば、72軍、いた71軍も73軍と戦うことが可能になるのです。」
謝は、やはり他人事の様に言った。
「その為に何かしなければならないことは」
「73軍の駐屯地の近くで、あなた方が持っている死の双子を使ってください。もちろん大量にとか在庫をなくせと言っているのではありません。死の双子が73軍から流出したということと、その持っている人物である香港のマフィアが73軍にいるということが見えればよいのです。」
「そうするとどうなる」
「私の方で、公安に香港のマフィアが73軍駐屯地に逃げ込んだことを伝えておきます。そのうえで、胡英華に、ああ、皆さんからすれすれば常務委員ということのようですが、私からすれば高校と大学の同級生でね。」
「同級生ですか」
「ああ、私の方が成績が良かったんだが、家柄が向こうの方が良かったので、組んで仕事をしている。まあ、そんな話はよいか。胡英華を71軍に連れてくるつもりだ。多分、公安が動けば、周毅頼もしくはその意向を受けた孔洋信が73軍に入るでしょう。それとも、72軍や71軍に攻撃させないために、台湾との戦争を始める可能性もあるでしょう」
「戦争」
あまりにもあっさりと謝思文が戦争の話をするので、さすがの太田も西園寺も目を見張った。
「日本への宣戦布告もあるのでしょうか」
荒川は言った。もしもあるならば、日本に知らせなければならない。
「充分に考えられるでしょう。首相李剣勝の復讐という大義名分もありますし。今回も本来は日本を攻撃するということになるのではないか。ただ、最終的な目標かもしれないし、そこはなんとも言えませんね」
「謝さん。今回の謝さんの計画は、周毅頼同志はわかっているのでしょうか」
馬紅が聞いた。中国人同士はどうも同志というようなことを使うようである。
「わかっているのであれば、すでに手を付けるでしょう。そもそもわかられないようにするために、胡英華が来ずに私が来ているのです。」
「では、予定通りに動きましょう」
「上海はどうなっている。」
周毅頼は孔洋信を国家主席執務室に呼んだ。
「香港のマフィアは弱いようで」
「香港は民主化などといって、結局、弱体化してしまった。集団のために役割を果たすこともできなくなったという事か」
「はい」
周毅頼は、またサイドボードに立ってウイスキーの水割りを二つ作った。
「上海のマフィアに負けた奴らはどうなった」
「はい、事前の打ち合わせ通りに、厦門の73軍司令部に」
「だめだ」
周毅頼は、少し乱暴に孔の前にウイスキーを置いた。氷がグラスに当たって音を立てた。
「どうして」
「香港のマフィアが負けたということは、死の双子が敵の手に渡ったということだ」
孔洋信は、息を呑んで言葉を失った。そして慌てる代わりに、ウイスキーを飲んだ。
二人の間に暫く沈黙が続いた。
死の双子が、敵にわたったということは、当然に次は死の双子を使って香港マフィアを攻撃するということである。つまり、73軍が死の双子によって攻撃されるということを意味する。そうならないようにするためには、香港マフィアを73軍に近づけてはならないということを意味するのである。
事前の打ち合わせとは、状況が異なったことになった。香港マフィアが負けることは想定にあったが、死の双子が取られるということを想定していなかったのである。
「どうすれば・・・・・・」
「周毅頼同志に報告いたします」
その時に、電話が鳴った。電話はスピーカーフォンになって、ボタンを押すとすぐに相手が話し始めた。
「なんだ」
電話の相手は、第73軍の連絡情報将校である。
「73軍基地の横で変死体がでました。それも複数です。」
「遅かったか」
周毅頼はため息をついた。
「そして、73軍の兵士がその処理を行ったために感染し7名の死者がでました。」
「わかった。以後警戒しろ」
「その様にします。」
電話は切れた。
「孔同志。どうする」
「すぐに73軍に向かいます」
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