小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 18
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第二章 深淵 18
「それでは、ハミティがスパイかどうかはお答えにならないという事でしょうか」
「そういうことになります。というか、さすがに知らないのですから答えようがないというのが、本当のところでありまた、荒川さんから言われた事で調べなければならないというものではないということになります。」
狭い車の中であり、特に語気を強めるようなことはない、普通に世間話をしているかのような内容である。しかし、この三人、荒川、謝、胡の三人の間の間には、言葉にならない対立があった。
「では、次の質問はよろしいか。」
「いやだといっても、質問をするでしょうし、また、疑問点が明らかにならなければ、先の話は進まないでしょう。どうぞ」
やはり胡英華ではなく、秘書の謝思文のほうが話した。
初めのうちは、胡英華が高貴な人なので、敵かもしれない日本人と直接話をする事を嫌っているということかもしれないと思っていた。しかし、手を動かしている姿を見れば、胡英華では答えられないことが山ほどあるようであった。しかし、受け答えをしている間に、謝が独自の判断で答えているように見えてきた。
・・・もしかしたら、謝が胡英華を動かしているのではないか。
中国の物語、三国志演義の中で、最も優秀とされる諸葛亮孔明は、蜀漢の君主劉備玄徳を動かして魏の曹操と、呉の孫権に対抗し、三国鼎立による平和を実行したのである。いずれも、優秀な軍師がいてその軍師が実質的に君主を動かして国を運営している。君主は三顧の礼をして優秀な軍師を得ることをしていた。これは食の劉備玄徳と書狩る良港名の間ばかりが三国志演義の中で描かれているが、しかし、魏の曹操と司馬懿、呉の孫権と周瑜・魯粛・呂蒙・陸遜というような軍師のことが描かれていたのである。
そのように考えれば、中国の中にはそのような君主と軍師というような関係がしっかりとなされているということが普通にあるということになるのではないか。そうであれば、謝が胡を動かすということがあってもおかしくないのである。
「死の双子と呼んでいる、ウイルスについては」
荒川にとってはあと二つのしつもんをしなければならなかった。もともと、嵯峨殿下から調べるように言われた、「死の双子」というウイルスのワクチンや治療法、そしてもう一つは、中国が日本に対して戦争の意思があるのかということである。あとの行動はそれ次第である。
荒川は、その中で先に「ウイルス」について質問した。戦争の質問を先にしてしまえば、ウイルスの質問はいらないというこということになる。その方が結論は早いのであるが、しかし、そのようにしてウイルスの話をしなければ、すでに日本にあるウイルスで、日本は戦争どころではないということになってしまう。つまり、まずは「日本国内の問題」から先に片づけなければならないのである。戦争しながら国内の疫病とも戦わなければならないなどということはかなり難しい。どちらかを先に解決しなければならないのである。
「ウイルスですか。」
胡英華の手がまた激しく動き出した。
「なかなか答えにくい話ですね」
謝は、苦笑いした。しかし、後ろの席の荒川には、その苦笑いは見えなかった。
「また答えを拒否するのですか」
「いや」
「では答えを」
「逆質問のようで申し訳ないのですが、何が知りたいのですか」
謝は、苦笑いを噛み殺しながら話をした。胡英華の手はより激しく動き出した。
「何がというと」
「要するに、誰が命令したのか。ということなのか、ワクチンや治療法があるのかということなのか、またはほかのウイルスもあるのかということなどでしょうか。私なら、その内容を聞きますが。」
この謝思文という男は、かなりの切れ者なのであろう。こちらのことを調査し、そのうえで、北京まで来た荒川のことを調べつくし、そしてその質問などを先回りしてしっかりと予習している。今、謝の言った質問をしていれば、まるで西遊記のお釈迦様の手の中で粋がっている孫悟空に過ぎない。これでは話にならないのである。しかし、実際にワクチンの質問内容といえば、謝が行った三つくらいしかないということになる。
荒川は焦った。これならば、胡英華が手が動いてしまうのもよくわかる。できすぎるのである。そしてそれを超えなければ日本が馬鹿にされてしまう。ぎゃくにいえば、この質問の答えを踏まえたうえで、その上を行く質問をしなければならない。そしてその質問がこの謝という男を凌駕しなければならない。しかし、そもそも今謝が言った質問の答えも荒川にはわかっていないのだ。その中で何を質問すればよいのであろうか。
「まずはあのウイルスは人工物なのか、それとも自然界に存在したのか。」
「ほう、珍しい質問ですね。その意味では人工物であるとお応えしましょう。」
「おい、謝」
胡英華が、謝に対して発言を慎むように声をかけた。要するに、「死の双子」が人工物であるということは、多分トップシークレットの中に入る情報なのであろう。
「胡同志、まあ、いいじゃないか。この車の中で何を話しても、日本は何もすることはできませんよ」
「まあ、そうだが」
胡は、また手せわしなく動かした。やっとこの二人の関係が、謝が子を動かす軍師であるということが見えてきた。そのうえ、この軍師殿は、少し大胆に物事をこたえてしまうということの様である。つまり不規則発言が多い。多分、本人もそのことをわかっていて、自分が表舞台に立つことを避けたのであろう。ここにいてこのように話しているだけで、中国要人の人間関係が見えてくる。そしてそれは、日本のジャーナリストや評論家が誰もしらない、真実なのである。ある意味で、このような人間関係をしっかりと理解しているほうが、今後の役に立つのかもしれない。
「人工物ということは、何かから作っているという事でしょう」
「多分、優秀な日本の科学者たちは、この内容の一つがエボラ出血熱であるということはわかっているでしょう。もう一つは、鳥インフルエンザの毒性の強いものですよ。それを掛け合わせたうえで、接着剤代わりにインフルエンザウイルスを使っているとい報告を受けています。」
「ほう、そんなことまで行ってしまって言うのですか」
「ええ、要するに、その組成がわかっていないエボラ出血熱と、まだ新種で研究が進んでいいない鳥インフルエンザ、これではあなた方日本人がどんなに頑張ってもワクチンも、治療法もできるはずがないということです。ある意味であのウイルスが撒かれてしまえば、手の施しようがないということになります。ましてやインフルエンザですから飛沫感染をする。日本の人口はあっという間に半減するでしょう。」
「中国はなぜそんなものを開発したのですが」
「人口抑制ですよ」
「人口抑制」
荒川は、聞き返した。
確かに、中国は、毛沢東の時代から改革開放経済が成功するまでの期間、一人っ子政策をしなければならンアイほど人口が爆発的に増えていた。人口が増えすぎたために、戸籍を制限し、そのことによって、農村部では出産したのに出生を届け出ないで戸籍がない子供「黒子」が多くいる。その人口を抑制するために、当時から新種の致死率の高いウイルスを開発していたということなのである。
「一朝一夕で研究成果ができるわけではありません。初めのうちは、中国国内の人口抑制のつもりでしたが、今では異なる使い方になったということですよ」
何事もないかのように言う、謝という男は、人の命をなんとも思っていない。スターリンも言っていたが、一人に市は悲劇であるが、1万人の死は統計でしかない。これは共産主義者の特徴なのかもしれない。
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