小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 4

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第二章 深淵 4

 長崎駅の近くに長崎県警本部はあった。市役所職員の松尾からのアポイントであったために、何かあったのであろうということで、担当刑事の中島康人が来た。

「ご友人を亡くされたと伺っております」

 荒川は、その言葉を出すと、席に着く前に深々と頭を下げた。

「松尾さんから聞いたのですか」

「はい」

「いい奴でした。警察に入る前の大学時代から一緒で・・・いや、その話はよくて、荒川さんは今田官房参与のご紹介で参ったということですが、今回の件は東京の羽田の事件と何か関連性があるのでしょうか。」

 中島はそこで声を詰まらせた。別に泣いているわけではないが、しかし、それ以上何かを話すことを止めなければ、自分で何か出してはいけない言葉をはいてしまいそうで、そのようにならないように、慌てて会話っを違う方向に向けたのである。

「まだ確定的なことは言えませんが」

「どういうことでしょう」

「多分、新種の病原菌が同じなのではないかと思います。」

「病原菌ねえ」

 中島は、特に驚く様子でもなく、予想された内容であるという感じであった。まあ、ここで驚かなくても、女性の様子を見れば当然の事であろうか。普段の中島であれば、そんなことはわかっているというような反応になるのであるが、さすがに内閣官房の関係者で中央の政府の人が来ているようでは、そのような失礼な態度も取ることはできない。

「実際に、コロナウイルス的な感染力を強めた炭そ菌とエボラ出血熱の特徴を持った病原菌であるということが、長崎市民病院の病理学研究所の方でも出てきています」

 松尾は、わかっていることを言った。このことはすでに中島も荒川もよくわかっているし、松尾からも報告済みである。

「それと全く同じ病原菌が羽田の倉庫でも見つかっており、警察関係者や逃亡した津島組の組員からも発見されています。感染力が強いので、彼らもすべて隔離しましたが、一週間程度でなくなっております」

「はい、私の友人もその中の一人でした」

 中島は、また、そこで音場を飲み込んだ。

「もう一つの共通点は、中国人です」

「中国人」

「今回、羽田の倉庫は、香港のマフィアグループの王獏会と、日本の暴力団津島組の麻薬取引の場所でした。そこを警察が取り締まりに行ったのですが、その時に中国系企業の借りている倉庫の中に逃げ込み、そこで感染したということです。」

「長崎は、女性が思案橋で中国人にナンパされて、何らかの薬品を摂取し、そのままその薬品とともに病原菌に感染したということになります。」

「つまり、違法薬物と病原菌というセットが、中国人が何らかの形で持ち歩いているということになるのです」

 荒川は、そのように言うと、中島の表情を見た。中島は、何か悔しそうな表情をしていたが、よほど自制心の強い人物なのか、それを顔に表さないように隠していることが見て取れた。

「要するに、麻薬取引をしている中国人のところに、その病原菌があるということですね」

「一応、病原菌というと良くないので、我々中央では『死の双子』と呼称しています」

「『死の』つけてもよくないので、長崎では、ただ、双子というようにしませんか」

 中島は松尾の方に向かっていった。そのようにして物事は決まってゆくのである。松尾尾は何も言わずにうなづいた。こののちに、病院や課の方にもすべて手配するのであろう。

「で、その双子は、なぜ東京から長崎に」

 中島は荒川に聞いた。本来ならば、東京近郊で流行するはずである。しかし、その間では全く何もなく、病原菌の発見の報告もない。いやもしかしたら政府が隠しているだけかもしれないが、そのようなことをするならば、なにも荒川がこのようなところに来るはずがない。そのように考えれば、なぜ東京と長崎が同時に死の双子の犠牲が出るのであろうか。

「それを調べに来ているのです。実際に、福岡や北九州であれば、津島組の逃げた人が何らかのものを持っているとか、王獏会の人が何らかの関与をしていたということを疑うことができます。しかし、そのようなことも何もなく、いきなり長崎に来てしまうということも何か不思議な気がします。王獏会や津島組と、長崎は何か関係があるのでしょうか。」

「それは、一応九州はそれほど大きな場所ではないですし、また、繁華街も少ないので、結局は津島組と長崎にいる暴力団とは何らかの関係があるということになります。また、そこに取引している香港のマフィアグループはいますので、その中で王獏会系列のグループと取引しているところも少なくないと思います。そのような意味では、つながりがないということは言い切れないのですが、しかし・・・」

 中島は、そのように言うと何かを思い出したように言葉を止めた。

「何か」

「羽田の倉庫と同じということは、中国の福岡の領事館が、長崎に倉庫を借りています。中国系の企業に買収された造船会社も小さいですが存在します。このように考えると、福岡や北九州よりも、長崎の方が似ているかもしれません」

「領事館が借りている倉庫」

「はい、もちろん領事館が直接借りているのではなく、何か中国人の関連会社が借りているということで、そこの一部を領事館が使っているということが噂になっています。実際に、領事館の人が出入りしていることも確認できています。」

「つまり、マフィアグループが何らかの病原菌が付着した違法薬物を扱っているということではなく、領事館や大使館、つまり中国の政府が主体的に非合法な薬品を使って日本に病原菌をばらまいているということなのでしょうか。」

 松尾は、初めて気づいたようにそのようなことを言った。そうであるならば、今ある対策であとても対処できるものではない。

「そうなりますね。数年前の京都のこと展示会で天皇陛下が狙われた事件も、実際は中国政府が関与しているということで、政府では認識されています。もちろん、国会や政府の中には、中国と親しい関係を持っていたり、中国系の日本企業から献金を受けている代議士もいますので、そのようなことを大っぴらに言えるものではないのですが、しかし、少なくとも官邸や内調はそのように睨んでいるのです。そして、今回も、やはり中国政府の期間が何らかの形で関与しているということのになります。」

「しかし、それでは外交官特権があって、現行犯でなければ逮捕できないし、逮捕してもすぐに釈放しなければならないということになります」

 中島は、悔しそうに言った。まだ、中国人を逮捕したわけでもなければ、中国人のだれということも特定できていないのに、少し気が早い。

「でも捜査しないわけにはいかないでしょう」

「もちろんです」

「操作先をその領事館の倉庫まで広げていただけるでしょうか」

 荒川は、そのように言うと、今、自衛隊でワクチンなどの開発を行っていることを告げた。

「わかりました。しかし、ワクチンそのものよりも、まずは捜査しましょう」

「私の方は、違法薬物に病原菌がついていた可能性があるということで、記者発表します。そのうえで、違法薬物などを摂取して体調が悪くなった場合の専用電話を作るようにしましょう。そうしないと二次被害が出てくることになります」

「わかりました。よろしくお願いいたします。」

宇田川源流

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