小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 21


小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 21

「あいつ、撃ちやがった」

 そういって、チェ!と舌打ちをしたのは、葛城博久であった。銃を撃ったということになれば、警察が動かざるを得ない。ましてや、海では船の爆発火災である。これではどうやっても目立つ。

 一方の西園寺公一も、太田寅正も、政府の代わりにやっているという感覚が強いので、この日ばかりは何をしても逮捕される心配はないと思っていた。実際に、藤田伸二など原色の自衛官も多数入っており、マフィアや九州の暴力団などでは何の問題もないということになる。そうなれば、普段は使ったことのない武器を使いたくなるというのも人情なのであろう。

「誰だ。とにかく撃て!」

 松本洋行は、近くの香港マフィアの連中や自分の子分たちにそのように言うと、倉庫の建物の方に逃げ始めた。実際に、海では船が燃えてしまっているので海に逃げるわけにはいかない。弾が飛んでくる方向の反対側に、反射的に走り始めたのである。香港のマフィアたちもそちらの方に走り、物陰に隠れた。

 倉庫街というのは、コンテナなど隠れる場所は少なくない。倉庫の前にも少しの荷物が積みあがっているので、隠れるのはそれほど難しくはない。

「誰だ」

 香港のマフィアたちは松本に聞いた。

「わからないが、多分、東京のやくざ者だろう」

「なぜ」

「そりゃ、奴らの縄張りの中で取引すればそうなるわ」

 松本はなんとなく、銀龍組や虎徹会が来ていることは聞いていたので、その連中に違いないというような感じである。

「ボス、後ろには中国大使館の倉庫がありますぜ」

 香港のマフィアの中ではそのようなことを中国語で言っている。しかし、松本には全くわからなかった。

「何言っていやがる。早く戦え」

 向こうからは散発的ではあったが、パンという破裂音が聞こえ、弾が飛んでくる。アメリカのマフィアなどと違うのは、マシンガンのようなものではないので、弾を連射できるようなものではないという事であろう。

「戦えっていわれても」

「あんな、たまに売ってくるくらいならば、そいつらの持ってる長物(マシンガン)をうてば蹴散らせるだろう。何故撃たねえんだ」

「どこから狙ってるかわからないから弾がすくねえんだよ」

 言われてみれば、わからないでもない。そもそも銃社会ではない平和な日本においては、実際に銃を撃つようなシチュエーションは存在しない。つまり、一通り弾が入っていて、数発撃てば、日本人はほとんど黙ってしまう。警察であっても一丁の拳銃に5発しか入っておらず、そのうち一発は威嚇用の空砲である。つまり、マシンガンひとつで30発あれば、6人を相手にできるという計算になる。しかし、それは相手が丸腰の日本人であるとか、会っても警察と同じようにリボルバーの銃を持っているだけというような感じでなければならず、相手がどのような装備を持っているのかわからないようなこの状況では、無駄な弾を撃つわけにはいかないのである。

「何言ってんだよ。撃てば敵が出てくるんだ」

 松本はそういうと、近くの一番弱そうな香港マフィアを殴りつけ、その持っているマシンガンを取り上げた。そして、そのまま弾を売ったであろう方向に向かって引き金を引いたのである。

「松本、どこ狙って撃ってんだ」

 太田寅正にしてみれば、麻薬の取引を停止させることと、追い込んで奴らを警察に逮捕させることが目的であって、自分たちの手で殺すようなことはしたくない。その様なことをしては、さすがにお目こぼしがあるとしても、限度があるというものだ。

「撃つなよ」

「へい」

 しかし、藤田をはじめとする自衛隊はそうではない。少なくとも装備は自衛隊の正規装備であり、間違いなく香港マフィアの武器よりも強い。

「煙幕」

 藤田は、横にいる者にそれを命じた。

「はい」

 グレネードランチャーから三発、煙幕弾が発射され、その後三発、今度は催涙弾が撃たれた。

「な、なんだこれは」

 松本も他の連中も、目から涙があふれ、鼻水が出てそのまま呼吸ができなくなった。催涙弾というのは、涙が出るというように思われているが、実際は呼吸がまともにできず、肺に催涙ガスを入れてしまうと、咳き込んでしまって動けなくなる。単純に涙が出るだけならば、物陰に潜んでいればよいが、その様なものではないのである。

「逃げよう」

 香港マフィアのボスは、松本の手を引くと中国大使館の倉庫の方に逃げた。ちょうど煙幕が太田や西園寺の目を遮り、うまく逃げることができた。

「来ました」

 葛城は、走ってきた津島組や香港マフィアを、双眼鏡の中に確認した。

「通報」

「はい」

 すでに、銃声がしているので、当然に外の警察は私有地と言えども中に入ってきてかまわないはずだ。そのうえ船が爆発しているのであるから、現行犯でも問題がない。しかし、今田陽子の指示に従い、警察は通報を待っていた。自衛隊の速水は、一般の110番と119番に通報し、船が火災が起きたことや、銃声がしたことなどを告げた。これで通報に従って警察も消防も動くことができる。

「倉庫に向かって攻撃準備」

 葛城は、無線で藤田にも連絡した。藤田の部隊と葛城の部隊の一部は、香港マフィアを追い詰めるふりをして、中国大使館の倉庫の扉や、屋根に銃口を向けた。

「何ごとだ」

 大使館の倉庫の中にいた毛永漢博士は、近くにいるものに中国語でまくし立てた。

「あんたは、黙って研究していなさい」

 林青は、神経質そうにそういうと、培養器の中から試験管を数本とりだした。

「それは」

「培養してあるんでしょ。」

「はい、それだけに危険です」

「そんなことはわかっているわよ。でも人体で実験したことないんでしょ。」

 林青は、そういうとにっこり笑ってコンテナの外に出た。そしてコンテナを外から鍵をかけると、近くのボタンを押した。中国大使館はいつの間にこのような工事をしたのであろうか。なんと、その大きなコンテナが入れかわり、普通のコンテナが前に入った。天井にあるクレーンでコンテナごと入れ替わり、実験室となっているコンテナは、隣の全く異なる名義の倉庫に移動したのである。倉庫が連棟式であるからできることであろう。しかし、夜にこの装置を動かしても全く目立たない。ましてや外では銃撃が行われていては、その辺のことは何も見えないのである。

「こっちがA株、そしてこっちがB株ね」

 林青は、そういうと入口の方に戻っていった。

「どこから撃たれているの。迎撃」

 楊普傑は、入口の上の事務所にいて、警備員に支持をした。警備員といっても人民解放軍の軍人である。装備は自衛隊のものよりも優れている。警備員はいきなりロケット砲で葛城のいる方向を撃った。葛城は攻撃をやめて隠れるしかない。その後も警備員はロケット砲を何発も撃った。

「香港人だけ中に入れてあげなさい」

 林青は、そういうと事務所のスイッチ押して解錠した。葛城が攻撃しない間に扉を開けてマフィアたちを中に入れたのである。

「お土産よ」

 林青は、そういうと、事務所の窓を開けて、マフィアたちの真ん中に試験管を投げた。

 パリン

 試験官が割れて、液体が近くに飛び散った。

「な、何だ」

 マフィアたちが見上げると、警備員が銃を構えるのと同じタイミングであった。

「逃げろ」

 香港のマフィアは、そのまま外に逃げた。

 警察が敷地内に乱入したのはこのタイミングであった。


宇田川源流

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