小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 20

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 20

「いいか、取引の現場を押さえてからやるぞ」

 葛城博久が現場の指揮を執った。今田陽子の機転で、倉庫会社の敷地内は「私有地」ということであくまでも警察は入らないようにした。基本的に私有地の中に警察が入って捜査権限が出るのは、あくまでも捜査令状が出てからである。実際に、日本においては「国会」は国有の施設ではあるものの、国会法という法律があって、そのなかで国会の警務課などが独自に「国会という敷地」として私有地のように領域をもって警備をしている。そのことから、国会の中の警備は、国会の警務課と、そこから委託を受けた警備会社の管轄になっており、警察は外側の道路や公園などが、警察の管轄になっていいる。警察だからと言って国会の中のけいびまですべてを行っているわけではない。特例として「私有地」であるにもかかわらず警察の管轄になっているのは皇居だけであり、警視庁の内部の別組織という形で皇宮警察が存在する。それでも、警視庁の本庁の人々は皇居の中には皇宮警察に任せることが慣例である。このような実例まで踏まえて、私有地である倉庫会社の敷地においては、警察は中ん医はいらずその外の道路に待機することになっていた。

 一方葛城の率いる自衛隊の特殊部隊は、本来はこのような、暴力団の麻薬取引の逮捕などという業務は行わない。しかし、海外におけるPKOなどの業務の中では、警察的な動きもしているということから、今回は「自衛隊の業務」ではなく、あくまでも「自衛隊の人々が余暇に何か活動をしていることを、自衛隊幹部や政府が黙認している」ということにしている。そのことから軍服なども着ることはなく、あくまでも倉庫会社の許可を得て私有地の中に入っているという状態だ。そのうえ、やはり自衛隊だけあってその装備は警察の装備よりもはるかに素晴らしい。

「葛城一佐、いつも通りに」

 葛城の横にいるのは、自衛隊特殊部隊で葛城と常に一緒にいた速水徳郎三佐である。

 速水は、横にいる隊員の開くパットを見た。

 葛城の部隊は、倉庫のいたるところに暗視カメラや温度センサーを付けていた。そして、狙撃犯などを様々なところに伏せさせている。当然に中国大使館の倉庫といわれるところにもX線の探知機がある。葛城の主力はすべてこの中国大使館の倉庫に入るようになっていた。そしてそうではないチームは、銀龍組の太田寅正や虎徹会の西園寺公一など、暴力団組織を支援するチームになっている。そちらの支援チームの指揮官は、京都から藤田伸二が来ていた。

「やはり海から上がってくるか」

 津島組の者と思われるものが小型船4隻でこちらに向かってきている。それに対し、東京の香港マフィアのものと思われる人々が、中国大使館の隣の倉庫から出てきた。

「隣の建物か」

 葛城はつぶやいた。

「はい」

「何かとやりにくいな」

 隣ということは、倉庫を攻める時に二つの倉庫から総攻撃を食らうことになる。中国大使館の倉庫に関しては、ある程度の抵抗を予想していたが、しかし、香港マフィアの倉庫に関しては全く考えていなかった。葛城は少し口をゆがめた。

「まあ、何とかなるでしょう」

「速水、気を抜くな。明にそう伝えろ。」

 一方の、太田寅正は反対側に陣取っていた。中国大使館に近ければ、銀龍組などの自分たちの組織が背腹に敵を抱えてしまう上に、葛城の特殊部隊の攻撃も受けてしまう可能性がある。さすがに、自衛隊の特殊部隊と中国の人民解放軍の戦いに巻き込まれたら、任侠の世界に生きていても勝てるものではない。両方ともプロの軍人である。その為に中国大使館側は葛城に任せて全く反対側を陣取っていた。

「マサ、どうだ」

「船ですね。4隻。それも古風に津島組の代紋を提灯にして掲げています」

「代紋をなあ。江戸時代の船か」

 こちらは葛城の率いる特殊部隊のような最新の設備もない。そもそも手に手に銃を持っているものの、密輸の拳銃でしかないので、本当に弾が出るのか、暴発はしないのかなども全くわからない。葛城は、さすがにそれではよくないのではないかと自衛隊の銃の貸し出しを行おうとしたが、太田は「そんなことをしたら、線状痕で自衛隊だってばれちまうだろ。俺たちのは俺たちでやるよ」といって、固く断った。その代わり、正規の軍隊ではもたないような武器も山ほど持ち合わせていた。彼らは暴力団であり、法律や規則に縛られることはない。その様に考えれば、違法に改造した武器も様々あった。そもそも船で来ることを予想していたので、なぜか魚雷のような武器も持っていた。

「いいか、船のままではそのまま逃げられるから、奴らが船を降りてから、先に船を燃やせ」

「へい」

「香港の野郎どもは虎徹の公一さんがやってくれるはずだ」

 虎徹会の西園寺公一の近くには、藤田伸二がいた。自衛隊の特殊部隊が、他の敷地に人を逃がさないようにして、中国大使館の倉庫の中に人を逃げ込ませるようにするのである。

「おお、松本さん」

 香港のマフィアと思われる人が、船から上がってきた松本洋行に近づいてきた。速水の持つ端末では、暗視カメラでしっかりと見えている。

「香港側6名、津島組14名です。香港側は周辺に30名確認。倉庫内は不明」

「多いな。装甲車が必要だったな。」

 葛城は何となく不安を感じた。

「音声入ります」

 取引の開始の内容を盗聴していた。もちろん将来的に何かの証拠になる」

「まずは金を確認させてもらうよ」

 お互いの取引はこれで初めてではないのか、両方に余裕がある。そのことからか、何か緊迫した中での内容ではない。松本は、香港マフィアのカバンを受け取るとそのかばんを明けた。まさにドラマなどで見えるように、カバンの中にはしっかりと札束が詰まっていた。

「ブツは大丈夫ですか」

 松本が顎で指示を出すと、部下がアタッシュケースを4つ持ってきた。アタッシュケースの中には、白い粉が入っている。

「大丈夫かどうかはよくわからんが、まあ、香港から輸入して、九州で使う分を抜いて、ここに持ってきてんだ。そのままあんたが買い取っているだけの話だろう」

 松本の言葉を耳にしながら、香港のマフィアは、カバンのふたを開けた。

「マサ、いまだ。船に火をつけろ」

 当然に、船には津島組の人が乗っている。何時でも出航して逃げることのできるようにエンジンはかけたままだ。しかし、取引がこのようになっているときは、基本的には注意はすべてその二人の親分の方に向いている。

 マサは、数名を連れて、その中の一番警備の薄そうな船に乗り込み、そこに油を撒いた。二名ずつで動いた、マサの連れの暴走族たちは、そのまま船に入り、そして油を撒いた。そのまま火をつけるのかといえば、そうではなく、そのまま船から逃げ出したのだ。太田はそれを見届けると、魚雷のような武器、というよりは「船型ドローン」とは名ばかりの、「火薬を積んだプラモデル」をその船に向けてはなったのだ。

 船型ドローンは船に当たり、小さく爆発した。しかしマサたちが撒いた油に引火し、船がいきなり爆発したのである。

 船に乗っていた津島組の警備の人々は、小さな爆発に気づいたが、まさか油が撒かれているとは思わない。一気に火が全体に回り、すぐに海に飛び込んだ。

「何だ」

 爆発に気づいた松本が海の方に振り返ると、頭上に照明弾が灯った。

「京都虎徹会・西園寺公一、津島組に宣戦布告や!」

 西園寺は、そういうと非合法に保有している銃の引き金を引いた。

宇田川源流

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