小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 17

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 17

 東京、羽田空港に近い港湾倉庫の一角に開襟シャツを着た男が入ってきた。ジーンズに開襟シャツというラフな格好にまったく不釣り合いなジェラルミンのアタッシュケースを持ち、その手にはアタッシュケースが盗まれないように手錠で手首とケースの取っ手がつながれていた。

「ようこそ、東京へ」

 夜の港湾倉庫街は、最低限の灯りしかなく、陰になったところは漆黒の闇の中に入ってしまう。男はどれくらい歩いてきたのであろうか。この辺に公共交通機関はないし、また、タクシーやレンタカーなどもこの男の近くにはなかった。

 それなのにその男が来ることがわかっていたかのように、倉庫の扉が開いて、女が出てきたのだ。

「相変わらず感がいいな」

 男は、鼻で笑った。

「荷物は、なんて聞かないでもねえ。もちろんな神はしっかりとしてるんでしょうね」

「孔洋信同志からの贈り物だ。ケースの中身は見ていない。君に渡すように言われている」

 男、楊普傑は手錠がつながったジェラルミンケースを軽く上げた。

「本当にいつも、お言いつけには忠実なのね」

「軍人だからな」

 女は、林青である。二人とも人民解放軍の少尉であり、現在は人民解放軍参謀本部の第二部、要するに情報部の日本の工作担当である。二人はそのまま人の出入口から入った。

 倉庫の中には、木製の箱が入り口近くまで積みあがっている。そしてその奥に鉄製の40フィートコンテナが積みあがっている。入り口空は木箱、そしてそのあとに40フィートコンテナが並んでいるように見える。普通にシャッターを開けて、トラックヤードを外から見ても普通の倉庫にしか見えない。

 二階というか、通常であれば3階か4階の位置にあるのガラスが貼ってある事務所には人が何人かいるが、どうも長いものを持っている。多分銃であろう。入口からでも3人の衛兵のような人物が見えるが、服は軍服ではなく、清掃員の青い制服である。何か検査のようなものがあれば、慌ててモップなどに持ち替えてごまかすつもりなのであろう。

 木製のはこのエリアから、奥のコンテナの領域にゆくには、鉄の格子扉があって簡単には入ることができないようになっている。林青は、その格子扉の暗証番号を入れると、そのまま奥に入っていった。最も奥のコンテナがいくつかつながって一つの広い部屋になっているようだ。林青は、そのコンテナについている扉を開けた。中の1階の部分には、軍の警備室のように武器がならび、そして警備員が数名完全に武装して座っている。林青と楊普傑が入ると、その警備の軍人は全員が立ち上がり、そして敬礼をした。

「楊少尉。二階よ」

 警備員の奥にある、コンテナの仲とは思えないような階段があり、その階段を上がると、壮大な実験室がある。大学の化学実験室のような専門機器もすべてそろっていた。

「ここは」

 楊は、少し驚いて目を見張った。中国の軍の施設でも、ここまですごい設備はあまり見ることはできない。そこに6~7名の白衣の人々が試験管を振ったり、実験の仕事をしている。

「人民解放軍参謀本部、東京微生物研究場よ」

「ああ」

「その孔同志からの贈り物をこの台の上において」

 楊は、言われたとおりに左腕を挙げて左腕ごと台の上においた。林青は、封筒の中から鍵を出すと、手錠を外した。そしてもう一度封筒の中に手を伸ばすと、そこからもう一つのカギを出してジェラルミンのケースにさすと、その後、もう一人を呼んだ。白衣を着た男が、着てポケットからメモを取り出すと、そこに書かれた数字を入れた。

 ケースの中には、密閉された試験官が5本ウレタンのカバーに埋まるように入っていたあ。そして、その試験管の中には、3分の2くらい液体が入っていた。

「まずは品物を見てくれる。毛先生」

 毛永漢医師。人民解放軍に所属する医師というか、微生物研究者であり、そしてそれを人体実験まで行う人物である。普段は温厚な性格あり、あまり多くを語るような人物ではないが、しかし、常に不気味な笑顔を浮かべながら、普通の人ではとても行わないようなことを平気で行う。その時には全く表情一つ変えないのである。もちろんいつも不敵な笑顔をたたえているが、しかし、その笑顔は口を開くことはほとんどない。細菌を扱う人特有の体内につながる穴をなるべく開かない。

 今回も、毛医師はなにごともないようにその試験管を試験管ケースに入れると、そのまま持ち運んだ。そして、その中の一本を、ゴム製のふたの上から注射針を差し込み、ほんの少しの液体を採ると、それを近くの盛るもっろに注射した。モルモットは、暫く慌て、そして檻の中を暴れまわった後に、急に動きを止めた。そしてかなり呼吸が荒くなった。

「こんな感じです」

「時間がかかるのね」

「単なる病原菌ですので」

 毛医師は、林青の言葉に対して短い言葉でしか話をしなかった。

「計器をつけてくれ」

 もう一人の栗紅凛医師が、別なモルモットに血圧計などを取り付けた。毛医師は、その新たなモルモットにもう一度、今度は少し多めに試験管の液体を注射した。モルモットも一度緊張したのか心拍数が一気に上がった。そしてその後、モルモットの計器の動きは一気に乱れ始めた。

「こっちのは死んでいる」

 楊が先に注射したほうのモルモットを指さした。確かにすでに口から泡を吹いて死んでいた、モルモットの前進に赤い斑点のようなものができている。

「あなたは知らなくてよいの」

 林青はそういうと、事の成り行きを見ていた。

 モルモットは苦しんでいる。計器のよれば血圧が上がりが出て、そのまま心拍数が上がり、呼吸が荒くなった。見ていてもぐったりしたようになってしまい、そして高熱が出ているようだ。そのまま苦しそうに動くと、全身に赤い斑点が浮き上がってきた。そして口から泡を吹くと、そのまま死んでしまったのである。

「致死量の5倍程度です」

 毛医師は、何事もなかったように言った。この辺の冷静でありかつ生き物の命をなんとも思っていないところが、この医師の特徴である。

「培養して」

「増やすのですか」

「できない」

「いえ」

「この菌を、東京だけでなく日本の7つの大都市でバラまかなきゃならないの、試験管5本ではたりないでしょ」

 林青は、冷静に言った。

「それならあ培養施設と、感染防止の防護服をお願いします」

「わかったわ。準備する。培養は個々の施設でできる」

 毛は黙ったままうなづいた。

 林は、そう言い残すとそのままその場を離れた。

「林少尉」

 鉄の格子戸のところで、栗医師が林青が呼び止めた。

「何かしら」

「ワクチンは」

「今は、まだないわ」

 林は何事もなかったように言った。

「論文は読んでないの」

「読みました」

「それならわかるでしょ。本国でもまだ実験段階なの。それに、治療法も見つかっていないのよ」

 林青は、冷静に言った。

「研究しても」

「ええ、できれば」

「林、よいのか」

 楊少尉は横から口を出した。

「いいわ。出来たら、その内容を本国に知らせればよいのよ。そして治療法ができたら、また新しい病原菌を撒けばよいだけでしょ」

 林青は、外側から鉄の格子戸を閉じると、栗医師に格子戸越しに行った。

「治療法ができたら、それを超える変異を起こすようにも研究してね」

 林と楊はそのまま倉庫を後にした。

宇田川源流

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