小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 13
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第一章 再来 13
「まずは混乱を起こさせなければなりません」
中華人民共和国の政治局常務委員会室では、孔洋信が話をしていた。
「何故混乱を起こさせるのだ」
周毅頼国家主席は、眉根を潜めた。日本を占領するためには何をしなければならないかということになる。今回の常務委員会では、陳文敏を日本に行かせた後、その後のどのようになるのかということを話し合っていた。経済中心の徐平は、日本を経済的に疲弊させるという事を主張していた。しかし、日本を経済的に疲弊させるということは、中国経済にも大きな影響が出るということになる。当然に、日本と中国が一対一で経済的な対決になれば、中国が勝つことができる。しかし、アメリカやヨーロッパの先進国が日本を支援した場合は、中国が不利になるのである。その様なところまで考えれば、経済的に疲弊させるということは、かなり難しい内容になる。
そのほかに日本を占領するということになれば、当然に、軍隊で占領をするということになる。しかし、単純な威圧で日本が屈するはずもなく、軍事的な占領ということは当然に、戦争を意味するということになるのである。その様な議論になった場合に、孔洋信が「日本を混乱させる」ということを言ったのである。
「皆さん、日本という国家は間違いなく団結するということが非常に大きな問題になるという事なのです。いいですか。日本という国は、日本人にしかわからない言語を使い、日本人にしかわからない文化の中で行い、そして団結すると非常に精強な兵となって、塊になって襲ってくるということになるのです。そのことは、日本が敗北した戦いで証明されています」
孔洋信は、とうとうと日本人の特徴を語り始めた。
「いや、それはよいのですが、結局軍隊的な内容で混乱を起こさせるのはいかがでしょうか」
共産党青年団出身の王瑞環は、官僚そのものであるかのような内容を話した。官僚組織はどの国でも同じであるが、基本的には軍を使って強制的に行うのは嫌うのである。官僚というのは、基本的に平時の政治を行うということで最も力を発揮するということであり、非常時には官僚というのは最も役に立たない組織になってしまうのである。そのように考えれば、官僚組織の共産党青年団といては、戦争に持ってゆくのは反対するということになる。
このことが、20世紀の中国の中では「太子党」と「共産党青年団」というような内容で対立の構図になっていた。基本的に軍事・非常時のイニシアティブをもって、政治の表舞台に立った。国共内戦または文化大革命など、まさにその内容は常に非常時であったといえる。しかし、逆に文化大革命の後になって平時が続くと、その中で「官僚」が跋扈するようになるのである。中国は、何も中華人民共和国の間だけではなく、秦の始皇帝が作った帝国の時代から常に「軍隊組織」と「官僚組織」の協力で国が発展し、その内部対立で王朝が滅びるのである。
王瑞環は、そのことを主張したのである。
「王同志、何も必ずしも軍隊を使って混乱を左折とは言っていません。しかし、日本を結束させないためには、日本の国内に混乱を起こさせる以外にはなかったということになります。そのことを申し上げただけです」
「ではどうやって混乱させるのかな」
張延常務委員はその様に言った。本来ならば周毅頼が発言する内容であるが、しかし「腰巾着」といわれる張延は、先回りしてそのようなことを言った。横で周毅頼が腕を組んだままうなづいている。
「混乱といっても、様々あります。徐平同志が言った経済的な混乱もそうでしょう。しかし、経済的な内容であれば、日本人はその特有の文化で助け合ってしまうでしょう。基本的には、餓死させるくらいにしなければならない」
孔洋信は得意そうに言った。
「餓死、まさにそうですね。日本人は異常なほど命にたいして過剰な反応をします。それも親族などならば中国人も同じだが、動物や他人、他国の人々に対してまでかわいそうといって過剰反応を起こす。それが親族が多く死ぬとなれば、確かに大混乱を起こすということになるでしょう。経済的な閉塞感を持ち、その様な餓死になるという恐怖心で混乱を起こさせるということが、最も良いのではないかと思ったのです」
徐平は、自分の経済的な制裁ということに理解を得られたということで、少し留飲を下げたような表情をした。
「まさにおっしゃるとおり、経済的な内容で餓死させるということも十分あるでしょうし、または食べるものがなくなるということもあり得るでしょう。しかし、人が死ぬのはそればかりではありません。」
孔洋信はその様に言った。
「疫病、それも伝染病か」
胡英華はつぶやくように言った。この男は、もともと市長や省長などを歴任してきている政治家である。共産党青年団の官僚であるが、しかし、国務院の官僚を行ったのではなく、地方の行政を行ってきた人物であった。
その胡英華からすれば、経済的な内容は、実は何とかなると思っていた。実際に食べ物であれば、自給自足で何とか作ることもできるし、また、何日かであれば空腹を我慢することもできる。魚や動物を食べることもできるし、また、最悪の場合は虫や木の皮で飢えをしのぐこともできる。つまり、経済的に問題があり、そのことによって餓死の恐怖になるというような経済的な疲弊は、数年連続で不作が続き異常気象になり、そして、食料の輸入が完全に止まらなければならない。しかし、大戦下の日本は4年半もの間輸入がストップしても餓死には至らなかったのである。胡英華は、地方行政をやってそのことはよくわかっていた。
それに考えれば「疫病」というのはまさに、その内容になる。死を意識するだけではなく、観戦しないように団結をすることもできなくなるのである。そのことが分かった常務委員会は、皆黙ってしまった。
「どの菌を使う」
周毅頼が言葉を発した。ここでは孔洋信であっても不用意な発言はできなかった。何しろ伝染病のウイルスは、国家機密に関する内容である。もちろん常務委員であれば、その国家機密を知っていてもおかしくはないのであるが、しかし、そのことを不要に口にすれば、当然におかしな話になる。
「一般論として、今まで未発見のウイルスを使うことがよいかと思います」
孔洋信は、その様に言った。しかし、何かを特定するのではなく、わざとぼやかせて言ったのである。
「未発見」
「はい、要するに新たに開発したものがよいでしょうか」
「しかし、風邪を引いたくらいで終わってしまっては、意味がない。どこかで実験しなければならないであろう」
周毅頼はウイルスについて、致死率の高いものを仕えということを主張した。
「周国家主席にご提案しますが、本来は、わざと軽い、致死率の低いウイルスを使うことがよいかと思います。そしてっまずは警戒させ、そしてその後、気が緩んだところでもう一度致死率の高いウイルスを使うのがよいかと思います。一度警戒が説かれているばかりか、事由を望んでいるので、一気に広まるでしょう。」
徐平がその様に言った。
「確かに、一度警戒を解いたら、民衆は止められないな」
胡英華がまたつぶやくように言った。その姿を見て周毅頼は満足そうな顔をした。
「ウイルスの種類は任せる。民生局と保険局を合わせて、うまくやるように。孔同志は、林青にその計画を伝えよ。次回に具体的な開始時期を決める」
周毅頼はそういうと席を立った。
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