小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 6

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 6


 首相官邸の死s積む質の応接セットには、今田陽子と今川、北野、そして阿川首相が座っていた。この三人が阿川にとっては最も何でも話すことのできる腹心で会いr阿川外交のブレインという存在であるといって過言ではない。先ほどまでいた飯島や橘などは、基本的には今、阿川が首相であるから従ているだけで、いつ反旗を翻してもおかしくはないという存在なのである。政治家というのはそのようなもので、政権という権力に対しては、誰もがかしずいてくるが、権力がなくなった瞬間に誰もいなくなってしまう。さながら芥川龍之介の「杜子春」のようなものではないか。そして阿川はそのことをよくわかっていた。そのことから自分の弱みになるようなところは「政治家」の前ではなるべく話さないようにしており、もしも話す場合でもそれを逆手にとって政治的に武器になるような形にしているのである。今川・今田・北野の三人は、そのことをよくわかっていたし、場合によってはそのようなことを企画するような状況であった。

「今回の中国ですが、日本に戦争を仕掛ける可能性があります」

 国家安全保障会議は、その下に日本の情報局といわれている内閣調査局を持っている。内閣調査局は独自に調査をすることのできる機関であるが、残念ながら海外の情報組織のような武器の使用などは許可されていない。独自に調査をするという事だけで終わっている状態であるから、当然にその情報力には限界が出てくる。それでも「ハッキング」などは許可されており、シギントの情報はかなり持っているようである。

「要するに中国国務院首相のかたき討ちという事か。それも自国の中国人に仕掛けさせたマッチポンプで」

 阿川は笑うしかなかった。まあ、確かに過去、王族の暗殺というのは戦争の引き金になっている。第一次世界大戦の前、20世紀の初め、ヨーロッパではドイツ・オーストリア・イタリアの「三国同盟」と、イギリス・フランス・ロシアの「三国協商」が対立していた。 そんな中、1914年にオーストリア皇太子夫妻が暗殺されるという事件が起き、 これをきっかけとして、世界的規模の戦争・第一次世界大戦が始まった。その前にも日本にロシアの皇太子、後のロシア皇帝ニコライ二世が着て、津田三蔵に襲撃される事件があった。これは死亡にまで至らなかったことから、戦争の直接のきっかけにはならなかったが、しかしのちに日露戦争に発展したことは間違いがない。そのように考えれば、今回の国務院首相の暗殺というのは、少なうとも20世紀初頭であれば宣戦布告の格好の口実になるのであるが、21世紀になった今日では、そこまで一足飛びに発展することはないであろう。国連などがしっかりとしているし、また、今回の暗殺事件も中国人が関与しているという資料も出てくることになる。そのようになった場合、問題を抱えるのは中国側であろう。

「それで、戦争の準備は進んでいるのか」

 今川は、あり得ないという気持ちをもとながらも、一応確認しないではいられなかった。

「いえ、まだ具体的にはできていません。しかし、こちらが傍受した先日の常務委員会に、日本の陳文敏が参加して意見を聴取れているところと、そこから中国の外交姿勢が強硬化していることを見れば、そのように判断できます。また、孔洋信政治局員がかなり活発に人民解放軍を訪れているので、その準備の指示というような傾向があります」

「孔洋信は、元人民解放軍の政治局員だ。人民解放軍に頻繁に行ってもあまりおかしいことはないだろう。陳文敏が参加したことは日本の情報を見ることは間違いがない。そして国務院首相の死について情報を収集することになるのではないか。それだけで戦争を準備しているというようなことにはならないのではないか。」

 今川は、そのように言った。

 今田陽子はずっと黙って聞いてる。阿川が心を許している今川と北野であっても、今田が皇室の話をしてもよいかどうかはわからない。阿川はそのことをわかっていても、今川と北野にその内容を話してよいかは別な問題である。その今田から見ても、今の北野の中国が戦争の準備をしているという話は、なんとなく感じるものがある。その話は多分新人の葛城が調べてくれることであろう。今田はここでの話よりも、そちらでの情報を重視すると決めていた。

「今川さんのおっしゃる通りでしょう。しかし、孔が解放軍に行く頻度や、行ってからの軍の動きが何か違うのです。」

「何か。北野君にしてみれば、ずいぶんと漠然としているじゃないか」

 今川はそういった。

「では、具体的なところとして、寿春のミサイル基地に燃料が運び込まれている。それも孔が行ってから」

 北野は、書類を目の前に出した。阿川も今川も目を見張った。

「まあ、今川君。北野君のいうことも一理ある。しかし、同時に最も危険な状態に対して備える必要がある。そうは思わないかね。」

「しかし、総理。中国はその性格上、すぐにミサイルを撃ってくるとは思えません。その前に何か政治的な混乱を仕掛けてくるでしょう」

 今川の分析である。

「そうだね。じゃあ、今川君はそちらの方を調べてくれるかな。中国がミサイルを打つ前に何をするのかということをしっかりと調べてみてほしい」

「はい」

 今田は、その辺の内容をすべてメモに取った。

「では、北野君はそのまま中国人民解放軍が戦争をする準備をどれくらいしていたかを調査してください。一方、今川君はその前に陳文敏を中心にした中国大使館が何をするか、日本でどのような工作をするのかということを予想し、それに対して防護策をする。この件に関しては外務省や防衛省はきほんてきには使わない。もちろん、衛星カメラの映像やシステムは使ってもかまわないが、それ以外の人的資源を使うのは、機密が漏れる可能性がある。あくまでも建前で、なおかつ表面的な外交をしながら、対策を講じておくということが重要である。内閣はそのように対処しなければならないし、また、そのことは結局使わなくても無駄とはならない。その感じでお願いする」

「総理、今田は何をするのですか」

 今川は、ふと今田を見て言った。

「今田君には、今のまま、別な角度で情報を見てもらわなければならない。まあ、君たちが知らない面が彼女にはあるからね。」

「知らない面」

 今川は、なんとなく納得できない感じであるが、笑ってそれ以上の話をしなかった。

「さてさて、戦争の準備をしているか」

 今田陽子は、そのまま東銀座の事務所に入った。そこには葛城と荒川、そして嵯峨朝彦が入っていた。葛城は、北京の駐在武官の情報や自分の個人の人脈での情報、そして、自衛隊やアメリカ軍の持つ衛星カメラの映像なども含めて、嵯峨朝彦の前に広げていた。葛城にとってはデビュー戦であり、自分が使える人間であるということを示さなければならないのである。その意味ではかなり張り切っていることがわかる。そしてその内容が戦争を示唆していることは、先ほどの話でも、またここに広がっている情報でも、同じように見えているということになる。

「今官邸で話してきましたが、戦争の前に何か国内で工作をするものと考えられます。まずは何をするのかも調査しないと。」

「なるほど」

 嵯峨はすぐにその内容に反応した。

「殿下、ではまずは」

「陳文敏よりも大沢三郎を先に調べろ」

「はい」

宇田川源流

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