小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 5

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 5


 「中国はいったい何を考えているんだ」

 阿川慎太郎は頭を抱えた。日本の警備がうまくいかなかったことにより、京都のテロ事件で中国の首相が日本において殺された。これは確かに大きな問題であり日本側の問題でもある。

 しかし、そのテロの首謀者の一部である在日北朝鮮人の金日浩は、当日逮捕しその供述から、狙ったのは天皇陛下であるということも明らかになっているし、その首謀者には、中国人も入っていたということが明らかになっている。ただしとの中国人の名前はまったく口を割らないし、また、金の証言以外に何の証拠もない。しかし、そのような証言が出ていることは明らかなのである。。

 しかし、中国はすべてが日本が中国に対して敵対心を持っているということを前提に外交交渉を進めてきている。もちろん賠償金などは仕方がないとしよう。しかし、その金額は国家予算の3倍の300兆円というのも全く理解できない。なおかつ、そのほかに九州と沖縄の99年の租借などという条件を付けてきているのである。

「全く理解できない要求ですねぇ」

 外務大臣の飯島悟は、いかにもベテランの議員という感じで言った。一応阿川を首相として敬語は使っているが、自分の方が年齢もキャリアも上であるといわんばかりの物言いである。

「飯島さんもそう思いますか」

「ああ、そりゃそうだろう。要するに、総理一人の命を奪ったことを引き合いに出して領土をとるという事でしょう。そんなことは国際法上許されることじゃないんだ。」

「そうですね」

 横で相槌を打ったのは今川孝信秘書官であった。今川秘書官は、議員ではなく、経済産業省からの出向で秘書官として首相官邸に赴任していた。しかし、官僚にしては珍しく、非常に国際的な観点に優れていた。それは今川秘書官が長期間にわたって経済産業省のエネルギーや地下資源部門や資源エネルギー庁などを歴任してきたことから、国際的な駆け引きなどをよくわかっていたことからそのようなことになっていた。それだけではなく、世界の政治の中には陰謀や裏などがあることもよくわかっているという感じである。実際にエネルギー外交は、陰謀や闇取引などが当然のことのようにあるのであり、そのようなことがわかっていなければ、本当に生きて帰ってくることのできないような場所なのである。そのようなことから、今川秘書官は早くから日本にもスパイ防止法や日本の政府直属の情報機関を作るべきと首相に進言するということになっており、そのことから、阿川首相に気に入られて秘書官に抜擢されたという経歴なのだ。

 そのようなやり取りを、今田陽子は黙って聞いていた。今田陽子にしてみれば、前回のこともすべてわかっているしまた、中国が何らかの仕掛けをしてきていることもわかっている。そもそも中国が何故天皇陛下を暗殺しようとしたのかということを考えなければならないということであり、そのことが完全に抜け落ちて、現在の中国の外交姿勢だけを論じている、あまり頭のよくない議論そのものが不毛に感じられてしかたがなかった。

「まずは、飯島さん、北京大使館に連絡して中国の意図を探ってもらえませんか」

 阿川首相はとりあえず飯島外務大臣にそのように支持した。

「まあ、そうですね。しかしうちの省でそのような連絡や本音を探ることのできるような大使館ではないですからね。だいたい、我々の前の国民社会党政権が指名した大使をそのまま任期が満了していないからといって使っているんだから、大使も中国側に買収されている可能性もあると考えたほうが良いのではないか」

 首相官邸の会議室内であるから、別段この中の私語がすべて外に漏れるようなものではない。そのことから考えれば、これが飯島外相の本音であろう。飯島外相は、普段から「うちに省庁は使えない」と言葉をはばからないので、マスコミなどからすぐにクレームが入る。しかし、そんなことを気にすることがないのも、この大臣の特徴でもある。

「ところで、橘さんのところも、中国の動きを調べていただけますか」

 阿川から声をかけられたのは、橘重蔵防衛大臣である。重蔵という古めかしい名前であるが、まだ若手であり、今回が初入閣である。もともと自衛官であり、橘が防衛大臣になるにあたっては、「シビリアンコントロールではなくなるのではないか」というようなクレームがマスコミや阿川に反対する人々から多く出ていたが、阿川慎太郎は全くそれに気にすることはなかった。驚いたのは、自衛隊の中からもそのような声が出てきたことである。実際に彼が勤務していたのは将官などのそれなりの地位ではなく、もっと低い地位であったことから、将官や佐官などの将校クラスは、自分の上に階級を飛び越えて大臣が来ることをあまり好ましく思わないものもいたのである。その意味で橘重蔵はかなりやりにくい思いをしている部分もある。

「いや、ちゃんとしたがいうことを聞いてくれるか」

「だからお願いしているんですよ。今回のような緊急事態であれば、自衛官も協力してくれるはずです。以前の階級とかそういうことは、それは尊重しながらもうまくやってみてください」

 阿川はそのように言うと、橘の肩を軽くたたいた。

 そんなやり取りを、補佐官である今田陽子はある意味で白けた目で見ていた。もちろん、他の人に気づかれないように、一応メモを取るようなしぐさをしていたが、しかし、すでに数日前に同じやり取りを東銀座の事務所では行っていて動いているのである。それ本来はトップであるはずの首相官邸では遅れていて、なおかつ、それができるかどうかわからないと、言い訳が先に出てくるような状態では、先が思いやられるばかりだ。

「では、飯島さんと橘さんは省に戻って、情報をお願いします」

 阿川の声をきっかけに、二人の大臣が席を立った。。

「今田さんは、今の会話を聞いてどう思ったかな」

 阿川は、席を立たずに、今まで飯島と橘が座っていた席に今田と今川を座らせた。

「総理、あの二人では・・・・・・。」

 今田が聞かれたのに、今川が先に口を開いた。

「今川君は、すぐに北野君を呼んできてくれ。電話ではなく、君が行って直接。それも他の人々に知られないようにね」

「はい」

 今川も出て行った。

「今田さん、殿下のところではすでに動いているのでしょう」

 阿川は、他の人がいないことを確認しながら、今田陽子に聞いた。

「殿下とは」

「聞いていますよ、東御堂殿下と嵯峨殿下が陛下の諮問にお答えしてじ情報機関を作っているのでしょう。先日皇室会議で聴きましたよ。それも今田さんの力を借りていると」

「そうですか」

 今田は、もう情報が洩れているのかという表情で見ていた。そのうえで、重い口を開いた。

「本日のようなお話はすでに数日前に行っております」

「それならば安心だ。今田さんはそちらで頑張ってください」

 阿川はにっこり笑うと、目の前のすでに冷めてしまったお茶を飲んだ。

「北野、入ります」

 少し高めの音のノックをしたのち、北野滋国家安全保障会議議長が入ってきた。

「北野さん。お待ちしておりました」

 北野と今川も、今田の隣に座った。

「さて、今回の中国の件ですが・・・・・・。」

宇田川源流

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