「宇田川源流」【お盆休みの怪談】 神社の子供たち

「宇田川源流」【お盆休みの怪談】 神社の子供たち

 本日から「お盆休みの怪談」として、お盆休みの、政治や経済があまり動かずに、様々な仕事が停滞している時期に、今まで書いていた会談などでその話をしてゆこうということを考えている。このまま20日までこの会談企画をしようと思っているのでよろしくお願いします。

 3・11の不思議な話をするときに、この話だけはどうしても忘れることができません。場所は言わない約束なので、何とも言えませんが、その地域の人がみな同じ話をするほど印象深く残っている話です。親が子を、子が親を思う気持ちというのは、いつまでたっても絶対に切れることのない話なのではないか。そして、その結びつきこそ、人が人であり、そして、死んでしまっても人であったということを示すものではないかという気がします。そしてそれをすべて知るオババが、何よりも人生をよく知っているのではないかと思います。「お盆休みの怪談」の締めの話として。

 神社の子供たち

 津波の翌日だったと思う。高台にある神社だったので、波をかぶることはなかった。この地区に古くから住む人ならば、地震があったら津波の心配がなくても、どんなに小さな津波であっても、この神社に来るというのが言い伝えになっていた。しかし、町の人も入れ替わってしまい、新しい人やほかの地区から来た人が多くなったために、これでも人が少なかった。

「あんなに言ったのにのぉ」

街の長老のオババは、そういいながらお茶を飲んでいた。高台の神社で境内に水がついていなかったので、火もあり暖をとることができた。境内にもたき火をして、ここに人がいることを知らせるようにしていた。たき火番と見張り番で二人以上が常に境内にいるようにしていた。

「あのう。ここは安全ですか」

若い女性である。津波の翌日なのに、どこにいたのか、すっかり濡れていた。

「どうなすった。たいへんだったじゃろう。早くこっちへ」

たき火番は女性をたき火の前まですぐに案内した。見張り番の若い男は本堂の方に走って行った。すぐに女性たちがお茶や食べ物をお盆にのせて持ってきた。

「女性の手は、氷のように冷たかった。いや、死んだ人のようにといった方が良かったかもしれない。でも、そこに歩いてきたんじゃから、それに、津波の後の東北じゃて。冷たくと当然と思っとった。」

「さあさあ、よばれなさい」

本堂から出てきた女性たちはタオルなども持ってきて、その女性にかけた。

女性はいきなり泣き出しそして立ち上がっていった。

「子供たちが……連れてきます」

女性はそのまま階段の方に向かった。

「待ちなさい。おまえ、一緒に行っておあげ」

見張り番の若い男は、その声を聴いて脱兎のごとく飛び出していった。ほかに数人、元気のあるものがついていった。しかし、すぐに戻ってきてしまったのである。

「どうした」

「いや、あの女性、足が速いのなんの。階段の下まで見えたが、我々が降りたらもう見えんようになっておって」

「なに馬鹿言うか、こんな瓦礫しかないところで、見失うはずなかろう」

「そりゃそうじゃが……」

男たちは口を濁した。しかし、見えないものは仕方がない。もう夕方になるので、その日はそのまま、明日朝になったら捜索に行こうということになった。

しかし、その夜である。交代した別な見張り番が、腰を抜かすような感じで本堂の中に入ってきた。

「あ…あ…あの、昼のあの女性が……」

「どうした」

昼にお盆を持って飛び出した女性が声をかけた。

「子供を二人連れてきて……」

それを聞いて飛び出した女性の後を追って本堂の者は皆境内に出て行った。いや、一人だけ長老のオバアだけがご神体に向かって手を合わせていた。他のみんなは境内に飛び出したが、すぐに、その光景を見てその場で立ちすくんでしまった。乳飲み子と3歳くらいの子供の遺体がきれいに並べられていたのである。

「これは……」

たき火番がやっとの思いで口を開いた。

「あの女性が、ゆっくりと…子供の手を引き、赤ん坊を抱いて石段を上がってきて、深々を頭を下げたらかすれて消えてしまった。女性を見ていたら、そこに、二人……死んでいたんだ」

本堂からオバアがでてきた。

「子供だけでも助けたかったんだろうなあ」

そこにいる人々で二人の子供と、赤ん坊が握っていたお守り袋をねんごろに弔った。

宇田川源流

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