日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 8

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 8


 大友は、何か違和感を感じていた。

 計画通りであれば、既にこの会場は火の海になっていて、救急隊などはこのようなトロ子に入ってこれないはずだ。そもそも、救急隊がここに来るまでの道路も、大沢三郎によって道路などで障害が設けられているはずであり、消防や救急の車などは全くここにたどり着かないはずなのだ。しかし、既に会場には多くの警察官だけでなく救急隊員が活動し、また、消防服を着た人々が消火活動を始めるところであった。

「おかしい」

 一面火の海になっているはずの会場の端の方では、救急隊員がだれか要人を処置している。計画通りならば、あそこに座っていたはずなのは阿川首相かあるいは中国の李首相、それともそのSPであろうか。

「どこかで見たな」

 こんな光景を見たことがあった。

 アフリカの国での内戦の停止監視のPKOに行った時、ちょうどその国はイスラム教の国であった。当然に酒も国が法律で禁止されていたので、街に出ても酒などは飲めるはずがない。その為に、駐屯地に酒は少量ではあるが、常備していた。駐屯地は、大きく地区は決まっているものの、どこかの国が襲われて他の国が巻き添えを食うことはないように、少しずつ離れ、それでいて何かあった場合はすぐにかけつけることのできる距離にあったのだ。

 そんな中、大友はある日、PKO三か国の会議でオランダの駐屯地に出かけていった。そして、会議終了後、いくつかの国でそのままオランダの食堂で飲んでいた。もちろんワインだ。

「あなたが日本のトップですか」

 オランダ人にそのように言われた。

「はい、そうですが」

「折り行って話があるのですが」

 食堂から出て彼の宿舎に行った。他の隊員より離れていたところを見れば、当時は将校の宿舎なのであろうと思ったが、今考えればあの男はオランダの情報部員でありながら二重スパイをしていたスパイであったのに違いない。

「この内戦をすぐに終わらせることができる。そうすれば、あなたは当然に日本に帰ることができるはずだ」

「いやいや、そんなことは難しいでしょう」

「いや、それほど難しいことではない。そもそも内戦というのは、どちらかの陣営が負ければそれで終わるのだ」

 このオランダ人の男の言うことは一理ある。戦争というのは味方と敵と二つの陣営があるから、戦争になるのである。つまり、片方が負けて滅びればそもそも戦争はなくなる。

「そのような戦争をなくすために我々ははるばるアフリカまで来ているのです」

「そうでしょう。で、例えば我々国連軍が、今の政府軍を全て見限ったらどうなります。そもそも国連軍が支援しなければ、政府は形態を維持できない。逆に言えば、この国の運命を握っているのは我々ということになるのですよ」

「もちろん」

「では、我々が反政府軍側に着いたらどのようになります」

「政府軍は圧倒的に弱いということになりますね」

「そうすれば、政府関係者は全て亡命して国内は反政府軍だけの国になり内戦は終わります」

 言っていることに一理はある。しかし、そんなことは国際的に許されるはずがない。

「今の人々は、テロリストでしょう」

「テロリストと決めたのはアメリカです。我々ヨーロッパ人や日本人ではないのですよ。もちろんアフリカの人々でもない。アフリカにアメリカの価値観を持ってきて、その価値観をそのまま押し付けているから、テロリストになる。つまり、アメリカが価値観で植民地化しようと洗脳しようとしているのですし、また、我々もそれにおかされているということなのかもしれませんね」

 このオランダ人の男が言っていることはアメリカ陰謀論である。今まで日米同盟の枠の中で物事を考えていた大友にとっては、実際にそのようなことを言われることはほとんどなかった。いや、アメリカこそ正義であるというようなことを信じていたのである。その自衛隊員としての自分の歩んできた価値観が、自分の頭の中でほころびが出てきたことを感じていた。

「もちろん無理にとは言いません。しかし、私の言うように大友さん、あなたが主導的に今の政府を倒せば、日本はアフリカにおいて英雄になるでしょう。今まで日本は自主性のない国であると思われていたのに、その日本が、第二次世界大戦の時のように、アメリカから真の独立を勝ち取って独自に自分の価値観でアフリカの国々を救い、再度、アメリカ的な価値観の植民地化から人々を開放するというのは、それほどおかしな話ではないと思いますが」

 大友はワインを一気に飲み干した。そのワイングラスに、オランダ人の男は、にっこり笑ってデキャンタからワインを注いだ。その注がれたワインも、大友は一気に飲み干したのだ。

「結構飲まれますね」

「飲まないで聞ける話ではない」

「別に今結論を出す話ではありません。世の中にはそんな価値観もあるという話でしかありませんから。でもそのような考え方があるということは、事実ですし、そしてこのアフリカの国々の政府は、もともとヨーロッパやアメリカの植民地に従い、ヨーロッパ的な価値観をそのまま国に、宗主国と一緒に共生してきた家の人々が、その価値観で政府を作ってるのです。当然に、アフリカの人々の本来の習慣や文化や価値観を残しているわけでも政治の中に組み入れているわけでもないのですから、そのことをしっかりと認識しておく必要はあるかもしれませんね。そのような考え方の上で、かんがえていただけるとけっこうです。まあ、今後少し何回かお話ししましょう。」

 オランダ人は、そう言うと、自分のグラスにもデキャンタからワインを注いだ。

 それから何回かあった。町の中にも積極的に出て、人々と話を聞いた。実際に、自分たちが守っている国の政府は、それほど国民に支持されているわけではなかった。オランダ人の男の言うとおりに、植民地的な感覚がありそれがアフリカの貧困、いや貧富の差が激しい理由の一つである。

「何とかしなければ」

 自衛隊の中でも気の合った仲間を入れた。しかし、副官である樋口義明は全く駄目であった。

「大友さん、我々だけでもやりましょう」

 大統領が出てきたときに自衛隊は二手に分かれて対応することになった。自分と志を一つにする隊と樋口の部隊を分け、自分たちはそのままオランダ人とテロリストと合流した。

 オランダ人の部隊が襲撃を開始し、大友がそれに従い、最後はテロ体が制圧するというような作戦であった。それに最後まで抵抗したのが樋口の隊であったのだ。

「あの時に似ている」

 政府の役人などが美術館の前で倒れ、日本人にも犠牲が出た。隊の救急隊がそれらの人を混乱の中のでも救急していた。

「樋口だ」

 大友は、あの時を思い出したながら、アフリカの時と今の共通点を探った。当然に国も違うのだから、共通点は少ない。しかし、そこに共通点があるとすれば樋口ナノである。

「樋口を殺さなければ」

 大友は、一つの事を思い込むとその事しか頭の中で考えることができなかった。

 すぐ横には阿川首相がまだ無事そうであったが、しかし、そのようなことは関係なかった大友にとっては、樋口を殺さなければ、うまくゆくものもうまくゆかない。

「裏の駐車場だ。樋口ならば天皇を護衛してそのまま後ろに向くはずだ。」

 テロリストに与した時は、日本のために、と思っていたはずだ。アメリカから真の日本の独立を勝ち取るために頑張っていたはずだった。しかし、今や天皇陛下を狙撃する役目を買って出ることになっている。今や単なるテロリストになった。大友にはそのような自覚は少しあった。その自覚を振り払うように、そしてそのようなテロリストの道に落とした樋口に、過去の清算を迫るように、大友は、部隊を越えて裏の駐車場に向かった。

宇田川源流

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