日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 6

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 6

「陛下のご到着です」

 古代街博覧会の会場は、阿川首相、そして中国の李首相、その他の閣僚が既に壇上に集まっており、そこに天皇陛下の到着の報せが入った。そこにいる人々に、一瞬緊張が走った。

「いよいよか」

 大友佳彦は、昨日銃をセットした建物の屋上に入った。古代街博覧会のスタッフの制服は、山崎瞳から配布されていたのだ。大友から見れば、そこにいるスタッフが全員山崎瞳の支持で動いている暗殺のスタッフではないかというような感覚を持っていたが、実際はそうではない。山崎瞳の配慮で、スタッフと同じように立ち入り禁止の場所に入れるようにし、なおかつ、事を成し遂げてから他のスタッフに紛れて逃げることができるように考えた配慮である。

 大友は、インカムを耳に差し込むと、ライフルを組み立てた。その横には「記録用」と大きく書かれたテレビカメラがあり、そのテレビカメラでカムフラージュするようになっていたのである。スコープのグラスとカメラレンズでカムフラージュすることで、反射があってもわからないようにしたのである。この辺のやり方は、さすがに全共闘のエリート仕込みである。

「インカムテスト」

 大友はインカムに向かって話し始めた。

「こちら岩村。乾度良好」

 金日浩である。日本名は岩村浩一である。北朝鮮のグループは接近戦でナイフや拳銃で襲撃する役目である。既に客席の整理や舞台周辺の建物、または舞台裏の駐車場の整理員として働いているのだ。

「松原了解」

 松原隆志は爆弾係である。タイミングに合わせて爆破をする。その爆破が全ての合図になるのだ。

「皆準備ができているようだな」

 大津伊佐治の声である。このほかにも、近藤正仁などの若手も参加している。さながら日本の左翼や中国や北朝鮮の過激派が全て集まった感じだ。このほかにも、陳文敏は、李首相を舞台に案内すると、そのまま客席の一番端に座っていた。

「無線傍受できたか」

 嵯峨朝彦は、天皇陛下の御車の護衛の車の中で駐車場にいた。ワゴン型になっている車には、青田博俊が準備したコンピューターや今田陽子が準備した武器が入っていた。その画面の中には、現在通信されているインカムの位置が正確に記されていた。その音声からどこに大友がいて、どこに金がいるのかまですべて見えているのだ。

「はい、見ての通り、個人もだいたい特定できました」

 青田は、東京にいながら全てを傍受していた。

「さすが総務省だね」

「今田さんのスマホにも全て転送してあります。今田さんから京都府警や皇宮警察にも全て回されています。」

「よし」

 一般の観客混ざって、多くの私服警察官がそこに待機していた。既に、陳文敏や山崎瞳の戦いは全て見えているという感じである。そのうえこちらは全く無線機などは使っていない。通常のスマートフォンの通信だけで行っていた。全員が同じアプリを入れることで、その内容をすべて共有できていたのである。何しろ、昨日のうちに全ての相手のインカムも、また銃や爆弾もすべて確認しているのである。

「陛下到着」

 ワゴン車の外では警備の人間が列を作り陛下を迎える準備をしていた。嵯峨朝彦は、旧宮家と言えども、やはり天皇陛下の親戚である。

「陛下、到着でございます」

 外で声がした。東御堂信仁である。今回は、天皇陛下の随行としてここに来ていた。東御堂本人が自分で随行を申し出たのであった。

「東御堂さん、ありがとうございます」

 助手席から降りた東御堂は、そのまま天皇陛下の側の扉を開けた。東御堂も事態はすべて把握している。この昼夜場周辺にも既に北朝鮮の過激派が多く来ていることは承知している。陛下が下りた瞬間に襲撃されないように、東御堂は扉をあけながら自らが盾になるような歩き方をしていた。

「東御堂さん、僕は、何があっても大丈夫ですよ」

「いや、陛下は常に平常で無ければなりません。取り乱すことのないように」

「はい」

 陛下は、そう言うと車から出て周辺に目を配った。東御堂は、京都からの車の中でだいたいのことを伝えた。陛下の横に座る侍従が、途中で引き返そうと何度言ったことかわからない。それほど逼迫した状態であるということを、今まで宮内庁も何もわかっていなかったようだ。しかし、そのような危険を聞いても、陛下は全く動じることはなかった。「私の覚悟はいつもできています」そう言って、後は常に笑顔を崩さなかった。

「陛下、登壇」

 駐車場での襲撃はなかった。計画上もないことはわかっていた。しかし、陛下が到着した時に陛下の方に目を向けたものは全て「敵」であり、警察の人間は全て背中を向けていなければならないのである。そして、この駐車場には、警察関係者以外は入ってはならないことになっていたのである。警察官はすぐにそのものたちをマークしするようにした。

 ワゴン車空はカメラが出て、それらの内容をすべて記録していた。

「陛下のご到着です。ご起立して拍手でお迎えください」

 司会の女性がそのように語り始めた。阿川首相も壇上で起立して頭を下げた。李首相もそれに倣った。

 東御堂信仁は、陛下の左後ろに立った。

「それでは、これより日中協同による古代街博覧会を開会します」

 司会の女性はその様に高らかに宣言した。

 その瞬間、会場の後ろの方で爆発が起きた。

「始まった」

 会場の後ろの方で悲鳴が聞こえた。そして第二第三の爆発が起きた。

「陛下」

 東御堂はすぐに天皇の椅子を倒すと、自分が天皇と大友の間に入った。

「どうぞ私の背後にいてください」

「東御堂さん」

「陛下はご安心を」

 その瞬間、舞台の横の建物が大きく爆発した。

宇田川源流

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