日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 5

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 5

「おい、お前何やってる」

 古代京都環境研究会発起委員会のイベント「古代日本建物博」の会場二は、翌日天皇陛下も阿川首相も、そして中国の要人も数多く集まることから、日本全国から集まった警察官が警備を行っていた。会場は、京都府警と東京から皇宮警察が多く入っていて、その他の沿道や、宿泊ホテルなどを応援警官が警備をしていたのである。

 そのような中、会場の中に人影を見つけた警察官が、その人間を呼び止めた。

「ああ、すみません。博覧会のスタッフです」

 男は、胸にかかっているスタッフ徽章を示して、警察に近寄ってきていた。

「ああ、そうか。一応名前を教えてくれるかな」

「はい、大道具建築の大友佳彦と申します」

「大友さんね」

 京都府警の警察官は、京都弁の方言を隠すこともなく、男の徽章を懐中電灯で照らした。そこには確かに「大友佳彦」と名前が記載されていた。

「遅くまで大変だねえ」

「そりゃ、警察官も大変でしょう。私たちスタッフもちゃんと成功させなければならないので、大変なんですよ」

 天皇陛下などが立つ舞台は、ここから350メートルくらい向こう側だ。もしもここで何かがあったとしても、天皇陛下まで影響が及ぶはずがない。また天皇などは舞台の裏から入ってくるのであるから、こちら側は通らないのである。この辺は一般客が押しかけるようになるとは思うが、しかし、その一般客を狙うような人は少ない。そもそも中国人の観光客なども来るのであるから、日本人だけに対するテロを起こしても仕方がないのである。

 ましてやしっかりとスタッフ徽章を持っているのである。警察官は全く何も疑うことはしなかった。

「ところで何をしているんですか」

「いや、舞台装置などが傾かないようにしないと。倒れたりすると大事故になりますから、最終は、土台をしっかりと固定しないとならないのですよ」

「ほう、我々警察官には専門的なことはよくわかりませんが、頑張ってくださいね」

「はい」

 警察官は、そのままそこを去っていった。

 大友は、警察官を見送ると、人が上ることのできるセットの一番上の階までいった。この場所には、一般の客は入ることができない。また「本物のスタッフ」もこのようなところには来ないのである。大友は、その場に組み立て式のライフルのケースを置き、そしてダミーのために、テレビカメラをセットした。真夜中ではあるが、舞台の上は「点検」と称して大津伊佐治が懐中電灯をもって立っている。要するに天皇をこの場から狙えるかどうかということが大きな問題になる。他の仲間は、もっと近い所からの狙撃になるが、大友は性格に言えば360メートル向こうの舞台の上の人物を狙撃できればよいのである。

 当然に本番では、周辺が爆発し、そのうえでかなり混乱し多くの人が逃げまどっていることが予想される。まさに、その逃げまどっている状態で狙えるかどうかが大きな問題になるのである。大津は一度ライフルを構え、そのうえでスコープをのぞき込んだ。そこには、懐中電灯を持った大津伊佐治の顔がしっかりと見えている。

 それにしても、陳文敏の仕事は大したものだ。ここから舞台までの間に建物を建てて、うまく装飾しているが、それは「横風が吹かない」ということを意味しているのである。逆に言えば、障害物が少なくまた風の抵抗なども最小限で済むようになっているのが現在の位置関係になっているのである。そのうえ周囲を見回せば、赤色の懐中電灯を振っている者がいる。松原隆志である。何人か東京から連れて来ていて爆弾を仕掛けているのである。爆弾が爆発すれば、当然に風も起きるし砂埃などで視界は悪くなる。しかし、今からそのことを想定しておけば、特に大きな問題はない。そのうえ、今立っている建物が全て破壊される。爆発がおきれば、その間にいる人が全て被害を被ることになるということを意味しているのである。その意味でも高い建物が必要であったのであろう。

 一方、狙撃犯にしてみれば、うまく狙撃をしなければならない。それらの障害をすべて無視して狙撃を成功させる必要があるのだ。その意味ではプロでは無ければならない。

「しかし、よくまあ左翼や中国人ばかりでこんなに役割分担ができるものだ」

 狙撃犯は大友佳彦、爆弾犯が松原隆志。そしてそのあとに舞台上に襲い掛かるのが金日浩と大津伊佐治。舞台裏から逃げる車を襲撃するのが松原と陳という感じになる。大津伊佐治は舞台でダミーの標的になっているだけではなく舞台の上をくまなく点検しているのである。もちろんこのほかにも多くの人が来ている。襲撃犯は、日本の反体制や在日を併せた60名程度の「混成軍隊」であろうと思われる。そのような中で、総司令官という位置づけになっているが、実戦経験が全くないのが大沢三郎ということになる。まあ、仕方がないといううよりは、何かして邪魔されるよりはよいということになるのではないか。そして、今、前日の晩になってここにそのすべてが集まっているのである。まさに、日本の反体制暴力集団の博覧会になっている。

「まあ、これだけ集まればうまくいくだろう」

 大友は、狙撃が終わった後の「逃走経路」を確認するために階段を降りた。会談だけではなく、すべり棒のようなモノで一気に降りることと、隣の建物に移る方法の三種類が逃走経路とされた。いや、本来は逃走経路などを考える必要はないのであるが、実際は、天皇に阿川首相、中国の李首相と三人も標的がいるとうち漏らす可能性がある。その為に、この現場から離脱して、第二の場所で再度狙撃が必要になるということになるのだ。大沢は、天皇などの逃げるルートで待ち構えて、案内と称してその第二の襲撃場所に連れてゆく役目もあるのだ。

「本当に、あのねーちゃんはよく考えるよ」

 山崎瞳の事である。

 そう言いながら、大友は、その場で煙草に一本火をつけた。この場に捨ててゆけば、誰が来たかがばれてしまう。その為に、煙草の灰は、わざと高い建物の外側に散らすように捨てた。そして、吸い殻は自分の携帯灰皿の中に入れたのである。

「いました」

 警察官の帽子を脱ぎながら、荒川は電話で連絡した。他の警察官などには、この会話を聞いて今田陽子が伝えることになっている。

「だれがいた」

「大友です」

「どこに」

「舞台を見通せる34番の建物です」

 この番号は、嵯峨朝彦が臨時で付けた番号である。この番号でどこに何が仕掛けられているかをすべて見るようにしていた。樋口は顔が見られているので使えないので、今回は荒川と東御堂正仁、東御堂信仁の息子がこの内容を手伝っていた。

「東御堂はどうだった」

「10番と12番、56番の建物に爆弾です。多分松原の一派かと思います」

「今田、聞こえているか」

 嵯峨朝彦は、今田に連絡した。

「はい、奴らが帰った後、爆発物処理班を向かわせます」

「爆発はさせて良いのだぞ」

「はい、一般人に被害がないように付け替えます」

 今回は、わざと、すべて無効の計画に乗ることにした。青木優子から菊池綾子が聞き出した内容から、天皇陛下の狙撃計画をそのまま行わせ、そして、第二の場所、高の原駅で大沢三郎を逮捕するまで、そのまま向こうの計画に乗せることになっているのだ。そこまでしなければ、巨悪を捕まえることはできない。警察も、自衛隊もすべてがその内容をよくわかっていた。

「それでよい」

 嵯峨hあ、相手に気づかれていないことと、こちらが把握していない計画がないかどうかを見ることを考えていた。

宇田川源流

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