日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第三章 月夜の足跡 20

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第三章 月夜の足跡 20

「当日は、中国の首相、共産党青年団のトップである李首相が参加することになる予定です。」

「要するに、周国家主席は自分と異なる派閥の李首相を、日本に殺させるつもりか」

 今田陽子の報告に、嵯峨は頭を抱えた。

「阿川首相は」

「当然に参加しますが、今回の問題に関しては既にご存じです」

「では、参加しない方向か」

「いや、天皇陛下がいて、なおかつ李首相が参加するのに、日本の首相が参加しないなどと言うことはあり得ないと思います。当然に、私自身も現場に参加することになるのではないかと思います。」

 今田陽子は、最も危険な場所に自分が赴かなければならないにもかかわらず、まるで他人事のように冷静にその話をした。その胆力も、嵯峨が気に入っているところではあるが、しかし今回はそんなに簡単な話ではない。

 何しろ、会場全体に爆弾が仕掛けられ、そのうえ、爆発して混乱の中に、狙撃などがあり、その他中に暗殺段が入ってくるというようなことだ。簡単に言えば、暗殺者との間に戦争を行うような状況なのである。そのような所に入っていくというのは、まさに敵の罠の中に入る「飛んで火にいる夏の虫」ということであろう。それをしなければならない状態で、ここまで冷静に話をできるのは、なかなか難しい。

「そのうえ、野党を代表して青木優子が参加すると通知がありました。」

「青木優子がか」

「はい、青木がこちらについていることを、向こう側にはばれているのかもしれません」

 今田は、やはり同じように冷静に言った。

「どうかなあ、今田さん。ばれているのではなく、岩田智也のメモに中に青木優子の名前があっただけでしょう。要するに、岩田を殺した時に、そのメモやスマホのデータを向こうは見ているということですよ。その中に岩田のネタ元の中に、青木優子が入っていたのか、あるいは大沢に対する何らかの内容が書かれていたに違いないでしょう。大沢や陳にしてみれば、青木優子の事はそれほど疑っていないが、しかし、その中に入っているので、死んでも構わないということであろうと予想されます」

 荒川は、そのような分析を披露した。

「荒川君からは何かないのか」

「はい、地元の会場警備のアルバイトとして、樋口さんが入りました」

 嵯峨は満足そうに頷いた。もちろん暗殺段の中に、樋口一人では話にならない。焼け石に水とはこのことを言うのであろう。しかし、全く何もないよりははるかに良い。これで一般会場に、菊池綾子のグループと、荒川が入ってくれれば、当然にある程度の戦力になるはずだ。

「そんなところか」

 逆に言えば、それくらいしかない。というよりはこの情報のグループには、それしかいないのだ。そのうえ、先頭のグループではない。青田博俊はデータ解析で残しておかなければならないので、他に実働のメンバーはいない。平木が死んだことが悔やまれる。

「日程は」

「二週間後です」

 やはり冷静に今田が答えた。

「敵は」

「中国共産党陳文敏、日本紅旗革命団松原隆志、立憲新生党大沢三郎、それに大津伊佐治、山崎瞳、金日浩」

 青田が、報告した。

「では、また生きて会おう」

「はい」

 四谷の事務所から、全員が出ていった。

「殿下はどうするのですか」

「わしも行くよ」

 皆がいなくなってからなので、青田と嵯峨の二人だ。

「殿下も行かれるのですか」

「わしだけではない。東御堂信仁も行くよ」

「東御堂殿下もですか」

「ああ、陛下が行くのに、行かないわけにもいくまい。老人が行くと足手纏いになるとでも言いたいのか」

「いや、そういうわけでは」

「ならばよい。君は、ここにいて全員に連絡を取ってくれ」

「はい、警察無線などを傍受しておきます」

「それと、場合によっては・・・・・・」

 そういうと嵯峨は、一つの書面を出した。そこには、アルファベットと数字が組み合わさった暗号のような記号が入っている。

「これは」

「宮内庁のSOS信号。これを出せば自衛隊が天皇陛下の居場所に急行する。今回の内容はこれだ。多分福知山駐屯地や千僧駐屯地などから自衛官が急行するはずだ。何かあったらこれを使ってほしい」

「はい」

 青田は、それをカバンの中にしまった。

宇田川源流

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