日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第三章 月夜の足跡 19

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第三章 月夜の足跡 19


「大変惜しい人材を亡くしました。まだ若かったし、将来も有望でしたが、しかし、最近、岩田君の政策が与党によってすべて握りつぶされてしまっており、そのことを嘆いていた部分はあります。これら有望な若者を見殺しにしてしまう、現在の政治体制はあまりにもおかしいし、またこの日本という国の将来を憂うものです。このような日本国の現状をすぐに直さなければなりません。それには国民の協力がどうしても必要なのです」

 大沢三郎は、テレビカメラを前にこのように演説した。青木優子にとっては自分の同僚。そして子飼いの議員を殺し、その議員の将来の芽を摘んでおきながら、よく白々しくもこんなことを言えると、気分が悪くなっていた。しかし、青木優子は、死体を見たから、または岩田智也の死を悲しんで、気持ちが悪くなったために大沢三郎の横から伊那唸りテレビカメラから切れたと思われた。

 まさか、自分で殺しておきながら、その死を自分の政治的主張に利用するなどは全く考えられない状態であり、大沢三郎が全く信じられなくなっていた。その日の晩、青木優子は、すぐに菊池綾子の店に行きたかったが、しかし、すぐに行けば大沢三郎に気取られる恐れがある。そうなれば、岩田智也の次は自分になってしまう。さすがにそこまで岩田智也の後を追う必要はない。そもそも政治的な同僚という以上は特に感傷はないし、また、岩田智也の行動はあまりにも用地で短絡的すぎるとも思っていた。相手は、政治家として長年寝業師として動いていた大沢三郎であり、その後ろには中国共産党の組織がある。陳文敏は、間違いなくその手先であり、陳文敏自身の考えで動いているのではない。そのように考えれば、もっと慎重に動かなければならなかったに違いない。岩田智也はそのようなことを教えてくれたに違いないのである。

「それにしても不思議なのよね」

 十日後、やっと監視の目を気にしなくてよくなった頃合いで、青木優子は菊池綾子の店に行った。

「岩田議員さん、自殺だってね」

 菊池綾子は、自分お店の奥の個室でそのように聞いた。

「公式には自殺ということなんだけど、不思議なことが多くて」

「不思議な事」

 菊池は、このようなことを聞くのは非常にうまい。酒をうまく進めながら聞き出す姿勢になった。

「そうなの、実は岩田君、大沢先生が天皇陛下を殺害するのはおかしいと、前日に抗議していたのよ」

「まあ、ふつうそう思うでしょうね。」

「でも、陛下の殺害計画を口に出した瞬間に、殺されるなんておかしいじゃない」

「計画?」

 しっかりとした計画があるということなのだろうか。菊池綾子は気になった。

「そうなの。前日にね『次の京都の歳イベントの際に、天皇陛下の参列を願い、その時に開場に爆弾を仕掛ける。しかし、その爆弾に関しては、事前に察知される可能性があるので、その場合は、混乱に乗じて殺傷、またはなんらかの形で銃殺。そのうえ非難する車に松原さんの指揮するトラックに爆弾を積んで追突し、そのまま爆破という話を聞きました。』なんて自信を持って行っていたのよ。その時には誰から聞いたとかそういうことは全く何も言わなかったんだけど、少なくともそのネタ元があるはずなのよね」

「そんなに詳しく・・・・・・。」

 聞き捨てならない話である。岩田智也がそこまで知っていて、そして殺されたとすれば、当然にその内容が本当で、それ以上外で話されては困るということだ。つまり、岩田の殺害は口封じということになる。

「そうなの、そしてその内容を必ず岩田君ならば、メモを取って誰からその内容を聞いたか、そして、誰に裏を取ったかなどをしっかりどこかに書いているはずなんだけど、今回そのメモもまた岩田君の手帳も全くなくなっているのよ」

「手帳も」

「そうなの、そしてスマホは有ったんだけど、完全に壊れていて、そのうえ遺書は岩田君の筆跡じゃないのよね」

「警察は何で動かないの」

 菊池綾子の疑問は当然だ。そもそも遺書が偽造されている時点で他殺を疑わなければならないはずだ。そのうえ、動機につながるものが何もないのであるから、より一層氏は疑わしくなる。しかし、そのことを警察が握りつぶしているというのも不思議な話である。

「それが大沢先生や陳文敏が・・・・・・」

「政治的圧力ね」

「そうね。警察も結局官僚組織だし、また立憲新生党にしても、まさか天皇陛下暗殺なんてことが知れたら困るから、強引に自殺にしてしまったみたい」

「強引にって」

「大沢先生をはじめ、他の議員先生も、岩田君の秘書まで、岩田君が生前情緒不安定であったというような証言を捏造したみたいなの。」

「優子さんは」

「私は、事前にあまり会っていないといって、証言を断ったわ」

 青木は周辺に気を付けながらそのようなことを言った。

 菊池は、自分の店の黒服を呼ぶと、太田寅正に、青木優子を護衛するように依頼してほしいとメモを出した。もちろん青木優子は全く気付いていない。

「ところで、そんなに詳しく計画がわかるって、どうしてなの。そんなに簡単に天皇陛下の殺害計画って誰でも話してくれるのかな」

 確かにそうである。大沢三郎や陳文敏出なくても天皇陛下を殺害する計画などと言えば、当然に、命がけであろう。失敗すれば死刑の可能性もあるしまた、そのようなことがなくても日本の右翼団体から総攻撃を喰らう。そのようなことを簡単に計画できるはずがないのである。

「たぶん、岩田君は大沢先生の伝言を伝えるというような立場をうまく利用したと思うの」

「それならば、岩田先生の情報の入手先はわかるのよね」

「多分、松原隆志や陳文敏本人とか、後は京都に最近言っていたから京都の人々と思うのよね」

「京都」

「そう」

 青木優子は、そこまで言って水割りに口を付けた。

「要するに、手帳とかスマホとかを見れば、今回の計画の全容だけではなく、その主要メンバーもわかるってことよね」

「そうね。でもそのメモはもうないんじゃないかな」

「そうね。岩田先生を殺した人たちが持って行ってしまったということかな」

「そうね」

 しかし、菊池綾子には、既に処分したようには思えなかった。松原隆志がもしも殺したとすれば、天皇陛下を殺害した後に、主導権争いをするにあたり、間違いなく大沢三郎や陳文敏にマウント取るための資料が必要だ。つまり、何か弱みを握っていなければならないはずなのである。その時に、岩田智也のメモは、間違いなく大沢三郎の息の根を止められる資料であることは間違いがない。それが内容によっては陳文敏にも有効な内容なのである。

 そのように考えれば、実行犯かその上司がそのメモを入手しそして保管しているはずである。そして、それが松原のようなトップであれば、しっかりと管理しているけれども、単純に、殺人の実行犯が持っているならば、杜撰な管理の中にあるはずだ。殺人をする人間などは、それほど頭が切れる人ではない。つまり実行犯を突き止め、そして、その後を追えば、そのメモはすぐに見えてくるはずなのだ。

 青木優子は、少しした後に、全てを吐き出してスッキリしたのか、そのまま帰っていった。

「綾子、護衛は俺がするから」

 マサがしっかりとスーツを着て、青木優子の車の後ろをバイクで走っていったのである。

宇田川源流

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