日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第三章 月夜の足跡 18

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第三章 月夜の足跡 18


「そうか」

 東京四谷の事務所には、嵯峨朝彦が今田の報告を聞いていた。その話を横で聞いている荒川が、その話を基にメモを取っていた。

 話の内容は、まずは事実がどうであるかということを話した後、今田の主観で物事を推測を交えながら話をするような状況になっていた。今田の主観では、首謀者は中国の陳文敏であり、その向こう側に中国共産党政府が入っていることは間違いがないということになる。要するに中国政府、特に人民解放軍の参謀本部が、日本に何らかの工作をしてきているということになる。

「要するに、日本の保守派の中心的な存在というか、心の支えになる統合の象徴を壊すということで、日本の弱体化をはかろうということのようです。」

 いまだはきっちりといった。

「その細川という女の子は大丈夫なのか」

「はい、特にこちらに情報をくれたことも気取られていませんし、一応一週間は樋口さんと京都府警の警邏課にお願いしてありますが、特段の動きはないようです。」

「それならいいが。まあ、どちらかと言えば共産主義の多い京都府の職員が、天皇陛下暗殺を心配して今田君に告発してくるというのはなかなか興味深い」

「閣下、京都人は概して、東京に反対して共産主義者になっている者が少なくないですが、実際には天皇を慕う国民ですし、もっとも天皇に近いと思っている人も少なくない。特に、江戸時代までは位階を持っている人も少なくなかったですから、東京にいる共産主義者左翼とは異なるのではないかと思います」

 荒川が横から口を開いた。この男は、様々な色々と苦労をしているようで、様々なことを知っているし、また体験もしている。そのことから、このように、あまり見えていないことや表面上の言葉でごまかされそうな内容が全て違った答えが出てくるのである。

「なるほどな。共産主義の天皇主義者か。それもなかなか面白いな。で、今田君、今度の計画はどのようになると思う」

「はい、福岡の件と同じように爆破が中心になろうかと思います。しかし、陳文敏と中国共産党が中心に動いているということは、当然に、そのような一本やりで終わるはずがないのではないでしょうか。」

「終わるはずがないとは」

「はい、多分爆破を陽動作戦的に使うと思います。今回の話で、福岡の爆破を行ったのは、在日北朝鮮のメンバーです。そしてその北朝鮮のメンバーの後に何も後追いはしていません。ん。平木さんは、ナイフで刺されていますし、また、松原の関係は皇居と霞が関を爆弾で襲っています。そのうえ、陳文敏の所は何もしていませんし、大沢三郎も何をするかわからないということになります。警察庁の報告書によれば、テロリストは様々自分の得意分野があるということですから、それが何かということを見極めなければなりません。」

「細川という女の事はそこまでわからなかったということか」

「はい」

 しばらく沈黙が流れた。

「しかし、計画をすべて明らかいするまで待っていては陛下を守ることはできないだろう」

 嵯峨は、沈黙に耐え切れないという風に口を開いた。

「その通りですね。では、私と樋口さんで京都に行きましょう」

「私はネットで、金や道具の動きを見極めます。特に中国から陳文敏に対するメールのやり取りを監視します」

 青田はそう言った。

「それだけじゃ足りない。山崎瞳の周辺もしっかりと洗ってください。石田清教授のメールも。教授のメールを使って、何かを連絡する可能性もあるので」

 今田は、青田にそのように命じた。確かにそのとおりである。それだけではなく、大沢三郎も監視しておかなければならない。とても人数が足りる話ではないのである。しかし、青田はそれをやるといっている。さすがに総務省のベテランである。

「本来ならば、皆で現場に行く必要があるかもしれないが、しかし、今回は荒川君が先行して樋口君と合流して現場をお願いしたい。菊池綾子は、青木優子と連携をとって大沢三郎の監視と全体の計画を。そして今田君は、政府を使って天皇陛下の護衛を。それどれ頼む。なお、京都の小川洋子には、こちらから連絡をしておく。」

 その頃、立憲新生党の政党内の喫茶コーナーには、大沢三郎と岩田智也がいた。

「大沢先生。先生は天皇陛下を暗殺しようとしているとは本当の話ですか」

 大沢は、全く驚く風でもなく、岩田智也の方に向き直った。

「それがどうした」

「それがって、天皇ですよ。それに、我々政治家が、殺人なんて言う法律違反をしてはだめじゃないですか」

 岩田智也は、かなり怒ったふうに、少しヒステリックな声を上げた。

「まあ、君はだれに何を聞いたかわからないが、私がそんな大それたことをすると思っているのかね。まあ、天皇を暗殺するというような人がいたら止めるように説得はすると思うが、しかし、それで止められなくても、それは私の責任ではないだろう。そのような話ではなく、そもそもそのように考えられる存在である、庶民の敵であるということではないか。働くこともなく、国民の血税を吸い上げて、決してえらくもないのに王族ごっこをしているなど、言語道断であろう。れに、彼らは神様であるといっているのだから、もしも殺しても、殺人罪にはならないだろう」

「大沢先生、そんな屁理屈を言っても通らないでしょう」

 そこに青木優子が入ってきた。

「大沢先生、岩田君も。何かの打ち合わせかしら」

「青木先輩、大沢先生が天皇陛下を暗殺する計画があると認めたんです青木先輩も止めてください」

 なるほど、青木優子はそう思った。ただ、岩田は元来それほど頭が良い方ではないので、以前自分からその計画があることを聞いたことを忘れているようで、大沢には何も言っていないようだ。

「大沢先生、本当にそんな計画があるんですか。何しろ岩田君は妄想でそういうことを言う事がありますから」

 青木優子は、にっこりと笑って見せた。このようなときに女性の笑顔というのは、その場を和ませるのに十分だ。

「まさか、そんなものがあるはずがない」

「いや、陳文敏さんと、松原隆志さんと話しているときにそのようなことがありました」

 岩田智也は、このようなときに断言する者の言い方をしてしまう癖がある。そのことが、政治的には頼りがいがあるというっような話になるが、一方で、このような政治的な、そして政治家同士の話になると、急に立場が弱くなってしまうのも、問題なのである。

「そうか、私には記憶がないがな。まあ、何かを聞き間違えたんだろう」

「そんなはずはありません」

 岩田はなおも食い下がった。

「ほう、どうやってやるんだい。そこまで詳しいならば、当然知っているだろう」

「はい、次の京都の歳イベントの際に、天皇陛下の参列を願い、その時に開場に爆弾を仕掛ける。しかし、その爆弾に関しては、事前に察知される可能性があるので、その場合は、混乱に乗じて殺傷、またはなんらかの形で銃殺。そのうえ非難する車に松原さんの指揮するトラックに爆弾を積んで追突し、そのまま爆破という話を聞きました。」

 青木優子は驚いた。まさか、岩田がそのような詳しいことまで知っているとは思わなかったのである。

「三段階で。そんなことしたら、コストもかなりかかりますよね」

「だいたい、岩田君。そんなことやれば、途中でばれるよ」

 大沢三郎も鼻で笑った。

「大沢先生、でも私は聞いたんです。」

「わかった。まあ、十分注意しておくよ」

 その翌日の朝刊には、岩田智也議員が議員宿舎で自殺したという記事が書かれていた。青木優子は、さすがに、大沢や陳の残忍さに驚かされたのであった。

宇田川源流

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