日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 12

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 12


「今日もお邪魔していいかしら」

「あら今田さん、どうぞ、一緒にお茶入れますね」

 前回と同様、今田陽子は会議が終わった後、石田教授のところに挨拶に行った後、その隣にある山崎瞳の所によった。京都府観光産業局の細川満里奈も一緒である。ある意味で、会議に出ている「女子会」といったところであろうか。

 会議の流れから言えば、得意個の山崎という女性は怪しいところはない。ある意味で石田清という教授の助手として、うまく会議を切り盛りしているように見える。また、なかなか尻尾をだs名愛ということもその通りであろう。しかし、会議中に青田博俊とやり取りしたところを見れば、やはり、この女性がどうも関西の「天皇襲撃チーム」に一役買っていることは確かなようである。

「今田さんは、内閣官房なんて言う難しそうなところにいらっしゃいますが、時間は大丈夫なんですか」

 細川満里奈は、ごく普通の会話の一つとして、当たり障りのない事を聞いてきた。確かに京都府の官僚というようなところにいれば、国のそれも内閣官房などというもっとも中心に近いところの仕事はかなり大きなものと思うのであろう。少なくとも「国家公務員上級職」と「地方公務員」とは、少なくとも公務員試験のレベルではかなりの差がある。

「いや、何もそんなに難しいことなんてないのよ。やっぱり女性というとあまり仕事はないし。結局お茶出しとコピーと、会議資料の整理、そんなところかしら」

 本当は全く異なる。ある意味で内閣官房長官の片腕ともいえるような仕事であり、実質的には国の仕事の官房の文章部分はほとんど受け持っていて、その内容はすべて把握しているといって過言ではない。この京都に来ているのも、皇室関係からの依頼でなければ断っていたかもしれない。それも、天皇暗殺などという大それた疑いがあるのでなければ、皇室関係の依頼であっても断っていたかもしれないのである。しかし、ここでそのような本音を言うようなこともない。まあ、何しろ自分の目の前にその「首謀者」かもしれない人がいるのである。

「そんなことないでしょう。今回の内容も、大学から首相官邸に案内を出したら、すぐに今田さんが選ばれたというように通知が来ましたよ」

 食いついた!今田は思った。山崎瞳が、自分が暇だということに対して反論を投げかけてきたのである。それも、自分が選ばれた内容を知っているというのだ。

「へえ、遭難ですか。何しろ私なんかは官房副長官から突然呼び出されて、案内状をもらって『行ってくるように』って命令されただけだから、よくわからないんです」

「今田さんが派遣されることも、官房副長官が決めるんですか」

 細川は驚いて目を丸くした。官房副長官といえば、確かに官房長官が何かあった時や選挙期間で政治家が官邸にいない時など、記者会見を行うこともある。しかし、そもそも官房副長官は一人しかいないわけではない。官房副長官には、議員出身の官房副長官と、官僚出身の官房副長官がある。その官僚出身の方は、基本的には確約書の審議官クラスであり、それ程えらいわけではない。もちろん、地方官僚の細川よりは偉いのだが。

「そりゃそうよ。だって、内閣の官房って、人が少なくて官房長官に副長官が少し、あとは首相秘書官と、それぞれにかがあって、少し人がいるくらい。京都府庁より人なんか少ないんですよ」

「そうなんですか」

 山崎は、この日のために買ってきたのか、冷蔵庫の中から箱を取り出しケーキを皿の上に取り出した。一応目で追って、変な薬などを入れていないかなど今田葉確かめた。そういえば、入れてくれた紅茶にも、何か入っていないか確認するために、「自前のダイエット甘味料」として、カバンの中から液体を3~4滴落とした。特に反応はない。もちろん甘味料ではなく、毒薬などの検査薬である。

「そうよ。ところで、山崎さん、他の人もそんな風にすぐに決まるの」

「そうね、町田さんと細川さんは、同じ京都ですし、大学と京都府の観光産業局は、いつも共同で様々なことをやっているので、だいたいいつも町田局長が来てくれるんです。その時に、細川さんから連絡をもらっていますし。まあ、ここはあまり関係ないという感じかな。あと、吉川先生は石田先生の学会の中で推薦があったので、こちらから大阪国際亜細亜大学に吉川先生をお願いしますとご案内したんです。あと徐先生は今回が中国の都市文化と日本の都市開発の事なので、どうしても石田教授が中国史の先生が必要ということで、私の方で関西中華大学にお願いしました。」

「へえ、山崎さんがそういうことやるんだ」

 純粋に、今田は山崎の能力を尊敬した。いや、ある意味で石田教授の支持ではなく、山崎瞳がこのメンバーを決めているといっても過言ではない。

 このような学会などのメンバーを決めるということは、当然に、学会の方向性を一つの方向で短時間に決めなければならないという事から、基本的には学会を立ち上げる前に、ある程度事前に参加者の考え方などを知っておく必要がある。本来であれば、石田清が個人的に交流し、その交流の中でメンバーを選ぶということになるはずである。つまり、このメンバーを決めるのは、本来石田清教授ということになるはずだ。当然に、その助手である山崎は、例えば手紙や案内を出すとか、あるいは会議資料をまとめるなどの、事を行う基本的には「小間使い」であろう。

 しかし、この学会はそうではなく、山崎瞳が実質的にすべてを動かしているということになる。つまり、事前の調整も誰がどのような考え方を持っているかも、すべてわかっているのは、山崎であり、石田ではない。いや、石田自身も山崎瞳に操られているということになるのではないか。

 それだけではない。今回の学会のメンバーは、今田陽子以外、全て山崎瞳が事前に把握しているということになる。逆に言えば、今田陽子一人が外様なのである。もちろん京都府の役人である町田や細川が、天皇暗殺に加わっているとは思えないが、しかし、山崎や吉川、徐といったところにコントロールされて、例えば警備を甘くするとか、警備に穴をあけるなどのことがあったり、宿泊のホテルなどに何らかの仕掛けをするということも十分に考えられる。それどころか、京都府が絡んでいるということは、実質的に管理を委託している京都御所周辺も危ないということになるのである。

 しかし、そのようなことは微塵も出さずに、笑顔で今田は対応をした。

「でも吉川先生と徐先生って、いつもあんなに対立していらっしゃるの」

「本当に、何だか今日は大変でしたね」

 細川も今田に同調した。

「徐先生は中国の歴史の大家でいらっしゃいますし、また、吉川先生は建築学の方の先生ですから、専門が全く違うので、普段はあまりお互いのことに口を出さないのですが、しかし、何か日本での式典とか儀式ということになると、皆さんお考えが違うようで」

 山崎も困ったように言った。

「本当にそうね。徐先生は、中国からも要人をお連れになるとか。それもパビリオン型の万博のような展示になったら大変ですね」

「本当にそうですね。京都府としてはそう決まったらそれに従うということになると思うのですがそうなると京都市内では全く土地がありませんので、木津川の方にするかあるいは亀岡の方に持ってゆくかということになろうかと思います。場所よりも要人が天皇陛下に中国の要人、その上、各国の首脳なんかも来るようになったら警備も宿泊地も、それにその人々の会談場所なんかも考えなきゃなんないから大変」

「そうね、それにお金の心配もしなきゃならないから、まずは企業を集め、学会ももう少し大きくしないとなりませんね」

「そうね、実行委員会とかを学会の下につける感じになるのかしら」

 今田は、なんとなく組織提案をした。

「さすが今田さんですね。実行委員会を別に作る感じになるような感じですね」

「まあ、少し大掛かりになりますね」

 女子会はまだまだ続くようである。

宇田川源流

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