日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 11

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 11


 何か大きな見落としがある。今田陽子は、そのように感じた。確かに何かがおかしい。「天皇陛下を暗殺する」そしてその首謀者が、菊池綾子が大沢三郎の愛人といわれていた青山優子にうまく話させて、陳・大沢・松原が組んでいるということまで聞き出している。その上、その実行場所の候補地のひとつは、ここ京都であるということも言われている。つまり、すでにここにいる「あっちがわ」の人々は、何らかの連携があってしかるべきであろう。

 しかし、ここで話していることを見ていると、どうも連携できているようには見えない。特に徐虎光と吉川学の二人は、それぞれ、陳文敏や松原隆志とそれぞれつながっていることはなんとなく見えてきている。しかし、会議を見ていても、その徐と吉川がうまくかみ合っていないように見える。もちろん、二人がそのように演じているだけかもしれない。

 しかし、層ではなく、その二人の議論を山崎瞳、そう、石田教授の助手としか思っていなかった若い女性が、その二人の会話に入って粋な路場を仕切り始めたのである。

 何か面白いことになってきた。

 今田陽子は、そう思いながら、あまり自分に話が振られないように、事の成り行きを見た。今、すぐにスマートフォンで仲間に山崎瞳を調べさせるように、メールを出し、そしてすぐにそのメールを削除した。そのままスマートフォンを見られてもよいように、メールを出してすぐに消し、そして全く関係のないメールをあえてもう一度出した。その件名にはあえて「再送」とつけて送る念の入れようである。

 確かに考えてみればおかしい。東京のメンバーは陳文敏、つまり中国からの工作員、そして松原隆志、極左暴力集団のマークされている人物、そして、大沢三郎。これは政治家であり、政権転覆で自分の天下を狙っている野心的な政治家である。つまり、東京のメンバーは中国人と極左と政治家、其の三人が組になっているはずだ。しかし、こちらにはその大沢の代わりになる者がいない。

 もちろん、京都に政治の力がないということはない。東京のように与野党が伯仲しているような話は存在しないモノの、選挙はあるのだから政治関係者は少なくない。それどころか、東京以外の田舎の方が、「地元の名士」というようあ顔役があり、二つ倉の派閥に分かれて様々な話になっているのではないか。それならば当然に大沢三郎や、立憲新生党に気脈を通じた人がいてもおかしくはない。

 ここが学術の会議であるにしても、町田直樹など京都市の役人も来ている。政治家や府議会議員、市議会議員がくるというのもおかしな話かもしれないが、しかし、その辺につながっている人が来ていてもおかしくはない。

 ではなぜ来ていないのか。

 今田は気付いた。来ていないのではなく、来ていても見過ごしていただけなのである。それが山崎瞳なのではないか。

「ということで、この建物の文化を日中共同で行うということと同時に、条里制に基づいた街づくりということが、日本と中国の、当時の唐の都であるところの長安や洛陽を模して作られた日本の都であるということから考えても、日本の文化性と中国の文化性を一つの建物文化圏として考えることには非常に意義がありまして・・・・・・。」

 石田清教授はいまだに、話をしている。「先生」という職業の人は、とかく話が長い。またこの会の主催者だけあって、話す内容もしっかりはしているのだるが、それ以上に吉川も徐も黙ってまま動けないでいる。

 今田は山崎瞳に注目していた。石田が話している間、ずっと何か書類を見ているようであるが、実際にあれは何の書類なのであろうか。

「さて、ということで、この文化性は、当時の都を制定した桓武天皇、そしてその子孫である今上天皇陛下および皇后陛下にご臨席を賜り、世界に向けて条里制の都市作りのすばらしさと、その条里制にある町の現在までの発展を発信するということを目的とし、同時に日本文化を発信し、陛下にその旨の宣言をお願いしたいと思うのです。」

「まあ、立派なことであると思いますね。平安時代の日本の文化ということに関し絵言えば、当然に、京都の文化や環境、そして自然との共生までがあり、そのことがしっかりと世界に発信されるのは良いこと。それも、中国の制度をそのまま採り入れ、日本として独自に発展させたのは素晴らしいことと思います。」

 徐虎光が、すぐに追随することを言い始めた。

「そうかなあ。日本の文化は素晴らしいよ。でもね、それは天皇がそうしろといったわけじゃないだろう」

 吉川は、再度反論を始める。やはり今田の見立てでは、吉川と徐はあまり連携がそれていないように見える。

「いや、吉川先生、天皇が個別の建物について何かをしたということはありませんが、しかし、当時の桓武天皇が条里制の都市をここ京都の地に作ることを行い、なおかつ、そのコンセプト、まあ、現代流の言い方ですが、そのコンセプトに従って街づくりがされていった、ということは、少なくとも歴史上は間違いがないことなのです。それとも吉川先生は、建物を立てたのも街を作ったのも大工さんであって、天皇ではないというようなことをおっしゃられるのでしょうか」

 この石田清の、少しボケた物言いは、町田や細川といった京都の役人たちには笑いが採れた。まさか「大工さん」というような、子供のクイズのような話をするとは思わなかったのであろう。この屈託のない笑いを見ると、細川満里奈はあまり関係がない。もちろん、京都市役所というのは、昔から共産主義というか東京の考え方に反発する人が少なくないのであるが、しかし、そのことは、ある程度の幹部の事であり、また政治的な動きをする人々の事であって、細川のような若い女性にはあまり関係がない。

 一方、その話をしていても、山崎瞳は、ずっと何かメモを取っている。もちろん、メモを取り議事録を作るのが彼女の役目であるから、それはおかしな話ではない。しかし、議事録は一字一句取るわけではなくだいたいの要点をまとめるような内容の議事録になる。つまり、石田のこのような冗句にまで据えてメモを取る必要はないのである。

「まあ、石田先生がそのようにおっしゃるのであれば、天皇を呼ぶのは別に良いのですが」

「町田さんはいかがでしょうか」

「役所としては、そもそも、このイベントが例えばパビリオンや万博的な期間展示型のイベントになるのか、あるいは、一回限りの式典で、学会の発表のような形で終わるのかということが重要になろうかと思います。学会ならば、国際会議場に世界の人々を呼んで、そこで天皇陛下にご挨拶いただくということになろうかと思います。まあ、今までで言う鮎の稚魚の放流とか、国体とか、そういった感じ位なろうかと思います、一方パビリオン型ということになれば、万博のような感じになり、その会場のイベント広場出の御挨拶になり、その後、パビリオンの主だったところを天皇陛下をご案内するということになります。各国の代表者も来場されますから、当然に、その警備などに関してはかなり難しいかと思いますし、入場制限なども十分に行わなければならないのではないかと思います。」

「今田さんは」

「そうですね、パビリオン型ならば、パビリオン全体を入場停止にしてしまえば警備はかえって楽になるかもしれませんね。会場型ですと、その会場までの出入りもかなりおおきな警備上の課題になります。いずれにせよ可なり大掛かりになりますね」

「皆さんはどうでしょう」

「中国人は、日本に観光に来たがっています。せっかくですからパビリオン型の大型のものを行う方がよいでしょう」

 徐虎光はそういった。吉川はどうでもよいというように、横を向いていた。

 会議はそのまま、もう少し続いた。

宇田川源流

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