日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 2

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 2


 嵯峨朝彦は、以前に比べて少し広めになった四谷の事務所に入っていった。雑居ビルの部屋も隣の部屋まで、借りることができ、荒川や樋口が常にそこにいるような環境になっていた。

「絶対に、松原とテロの関係を探れとのことだ」

「東御堂殿下はそんなことを言っておられましたか」

 いつも暇そうな荒川は、缶酎ハイを飲みながら、チーズ鱈を咥えて近付いてきた。

「そのつながりはわかる。しかし、松原だけであれだけのトラックや爆弾を準備できるわけではない。それに、あれだけ見事にカメラを避けて、警察官がいる中で見事に爆破をできるとも思えない。信仁は、その背後の大きな組織を見つけ出せとのことだ」

 嵯峨朝彦も、再度チェストからウイスキーを出すと、グラスにそれを注いだ。

「それは難しいですね」

 そこにいた今田陽子は、少し分厚いファイルを開きながら、そういった。

「なぜだ」

「まずは警察の捜査ですが、完全に、合同庁舎を狙ったテロというようになっています。財務相と外務省ですから、そのように誤解してもおかしくはありませんし、実際に、財務相と外務省はそこで10日間業務が一部停滞してしまいました」

「10日もか」

 嵯峨は驚いたように言った。

「はい、まったく公表していないので見えていないかもしれませんが、青の爆弾がもう少し大きく地下の通信ケーブルまで説案されていたら、もっと大変なことになっていたと思います。実際に、サーバーなどは地下四階のサーバーに、予備サーバーが他にありますので、何とかなりますが、通信ケーブルに関しては一本しかなかったので、かなり危なかったと思います。」

 今田陽子は、てきぱきした物言いで資料を開いて示した。

「爆弾の灰から見えたのは、アメリカの正規軍が使っているC4爆弾であるということくらいでしょうか」

「アメリカ軍の正規か」

 樋口はため息交じりに言った。

「はい、アメリカの正規軍です。つまり、日本の警察官は想像力がないので、アメリカの軍やCIAなどが日本の官庁を狙ったというように考えているようです」

 誰も何も言わずに、ため息が漏れた。

「そして、この件に関して国会の予算委員会では、立憲新生党の大沢三郎と青山優子が揃って質問に立ち、日本の安全保障体制や、テロ対策に関して政府を非難しています。しかし、その質問内容は、全て新聞名のマスコミ情報から出てきているモノばかりで、大沢や青山がなんらかの秘密を持っているとされるような疑いは、少なくとも国会審議からは見えなかったということになります」

 今田陽子は、事務的に多少冷たいような言い方で報告をしている。

「次に、この間西早稲田の松原のアジト日本紅旗革命団本部は特に大きな動きはありません。その近くの焼き鳥屋赤鳥居も、とくに大きな動きはありません。もちろん、日常の人の出入りはあるようですが、大きなものの搬入や爆弾の搬入などは全くありませんでした」

 この事は、青田博俊からも同じことは言われていた。青田は、この件に関して、日本紅旗革命団は、間違いなく他にもアジトがあり、そこに武器などはおいてある尾であり西早稲田はヘッドオフィスのような形になっているということになるというものであった。当然に、嵯峨朝彦はそのことを見ている。

「今田君、松原の団体の他のアジトや倉庫はないのか」

「殿下、実はそれがありすぎて、逆にどこにそれらの倉庫があるのか全く見えないということになります。警察も様々にマークしていますが全く見えないということになります」

「しかし、そもそも極左の松原とアメリカが結びつくという考えがおかしいのではないか」

「はい、警察もそのように考えているようで、警察は、西早稲田のデータから見て、松原は今回の件には関係ないと踏んでいるようです。」

 嵯峨も、荒川も顔をしかめるしかなかった。

「いや、それは松原を注目しているからで、大友、そう、大友佳彦をみれば、アメリカの軍の横流しを得ることはそれほど難しくはないだろう」

「はい、そのように考えて、内閣調査室を使って調べましたところ、2年前に、アフガニスタンでタリバンにアメリカ軍の基地が襲撃されたときに、C4爆弾などの武器が多く取られているようです。

しかし、そのアメリカ軍の武器が日本に来ているということも見えませんし、また、それが使われたという証拠もありません。」

「なるほどな」

 荒川は、なんとなく納得した。

「アフガニスタン、そこから大友が仲介して中国政府が動き、そして外交官特権などを使って陳が武器を保管。必要に応じて松原に渡しているということだな」

「そうなります。しかし、その証拠は全くどこにもありません」

 今田は、そのように言った。

「大沢や松原に聞いても口などは割るはずがない。大友をうまく見つけ出さなければならないな」

「そろそろ私の出番かな」

 ずっと酒を作っていた菊池綾子が、普段はキャバクラなどでナンバーワンになる女性とは全く思えない、スエット姿で、いった。

「おまえは、ここで酒を造って殿下のお相手をするだけだと思っていたが」

「何言ってんのよ。私もこう見えても、情報を取ってくるのはうまいんだからね」

 菊池は、笑いながら言った。

「それにしても綾子はすっぴんは見られないなあ」

 荒川は、口を悪くそういった。

「何を言ってんのよ。化粧を落としたら、誰も私だとは気が付かないから、簡単に逃げてこれるのよ」

「すっぴんブスも、そんな使い道があったか」

「すっぴんブスってなによ」

 菊池が話し始めると、なぜか場が明るくなる。夜の商売をしているとはいえ、やはりなかなか筋が通っているようである。

「ここか菊池に任せよう」

「あたしの仲間もいるから、他の人はついてこなくても大丈夫よ」

 なんとなく話が決まりそうなところで、今田がまた口を開いた。

「それに、もう一つ。関西のチームが動き始めました」

「関西のチーム」

「はい、石田教授を含む建築の学会です。そこで、吉川学や徐虎光などが、学会の二回目を行って、京都の建築学に関して話をしています。もちろん文化財を何とかするということですが、その中に、天皇陛下を招いて式典ということが出てきています。天皇陛下を京都に招くということは、最終的には政府が決めることになりますが、しかし、天皇陛下の意向が強ければ、その内容を大きく考慮することになります。経鼻なども皇宮警察と政府との内容になりますが、皇宮警察の人々は、京都の警備には慣れていないということになりますので、かなり危険が迫ることになります。」

「うむ」

 嵯峨朝彦は、深く頷いた。

「関西は私と今田で行く。その間、菊池君は、大友から背後関係を調べ、荒川君と樋口君は菊池君のサポート。京都は平木君をつかうことにする」

「はい」

 それぞれが、席を立って準備にかかった。

宇田川源流

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