日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第一章 朝焼け 12

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第一章 朝焼け 12


「これを見てください」

 総務省サイバーセキュリティ部署の青田博俊が、事前の通知してきたように、嵯峨朝彦のコンピューターの中で話し始めた。嵯峨朝彦は、しばらく京都にいたが、京都にいても進展がないことから、バー右府の平木正夫に様々な事を頼んで、荒川義弘とともに、東京に戻ってきていた。東京でもバー「右府」のような出先機関を作ることを考え、東御堂信仁に相談し、とりあえず東京四谷に事務所を借りたところであった。 まだセキュリティなどは全くできていないものの、それでも、普通のマンションに住んでいる嵯峨朝彦の自宅よりははるかに良い。

 実際に「旧宮家」といえども、昭和22年より現在は一般人である。元々の血筋がよいということでしかない。政府から何らかの援助があるわけではなく、東御堂も嵯峨も、そのほかの旧宮家の人々も、一般の人と同じように学校に通い、同じように就職をするというような状態である。一般の人と違うのは、皇室主催のプライベートな会食会などに呼ばれることであり、その時の会費などはかなり安く設定されているということであろう。一般人からは天皇や皇后と親しく食事ができるのであるから、うらやましく感じるような人もいるが、しかし、参加が原則断ることは許されず、なおかつ、一定の品位を持った服装をしなければならないということになると、一般のサラリーマンの給与では生活が厳しくなる。当然に、普通の一般のマンション住まいということになり、また東御堂や嵯峨のように、その職業を退職してしまうと、その後は、会社員時代の年金暮らしということにしかならない。何度も言うが旧宮家であるからといって、一般人であるから政府から何らかの絵所などはないのである。

 そのような中で、情報機関のようなことをやらなければならないのであるから、これはこれでかなりの経費になる。日本という国は、「必要である」といって誰かがやってくれるような国ではないのだ。しかし、それでも東御堂や嵯峨は事務所を作ったのである。

「何が出てきた」

 設備などは荒川や青田、今田が様々な手を尽くしてそろえた。もちろん、どうやってそろえたかはあまり良くわかっていない。

「はい、まずはこれです」

 青田は、画面の無効で何か操作をすると、画面が代わり、そこにメールの画面と思われるものが出てきた。

「これは」

「はい、立憲新生党の衆議院議員岩田智也が、その妻に送ったメールです」

「老眼で、文字が細かくて読めないが」

「はい、そう思って拡大の画面も用意しました」

 青田は、もう一度操作すると、そこにはメールの文面が拡大され、重要と思われるところには、黄色い蛍光ペンのような形になっている印がついていた。

「読み上げます。『最近のボスは狂ってきたようだ。民自党を倒すということ、自分の天下をとるということは理解するが、そのことで天皇を殺すなどというのは信じられない』とあります。」

「その下も読んでくれるか」

「はい、『殺すというのも、比喩ではなく本当に殺すといいだしている。中国人を国に引き入れて、極左の松原隆志と組むなんて、もうこれは誠意ではないではないか。まあ、しばらくは様子を見るけど、次は議員には立候補しないかもしれない』とあります。」

 青田は、さすがに事務官僚だけあって、淡々とそのような内容を読み上げた。元々はハッキングに対抗する部署であり、何かネット上の事件があった時に、警察とは別に、情報を収集してその対処方法を考え、提案するという部署である。そのために、普段から中国や北朝鮮、ロシア、またはハッカー集団などの情報は最も得意とするところである。また、それらと日本の極左暴力集団や、左翼系政治家、その政治家の講演会などとのつながりを探ることをしている。ある意味で、ネットに介在する犯罪集団の組織を特定するということが彼らの秘められた使命なのである。

 その「極左集団」と「中国」と「左翼系政治家」の繋がりが出てきたのであるから、青田とすれば、自分の政情業務の中で、今回の調査委範囲が動いているというような感じにしかならない。

「しかし、奥さんにそんな大事なメールを送るなんて」

 横にいる荒川が言った。

「荒川さん、これは衆議院のサーバーから送ったメールらしくて、岩田議員は完全に問題がないというか、まさかハッキングされてこのようにみられているとは思っていないようです。まあ、総務省が同じ国の期間である国会のサーバーを除くなんてことは普通はないですが、逆に、あそこのサーバーを設置したのは我々ですから、サーバーの中から、重要単語で検索すればすぐにこれくらいはできます」

 青田は、画面の無効でにっこり笑うと、満足そうな表情を湛えた。

「ということは、青田君の調べで、向こうの中心人物が見えてきたということになるな」

「はい、中華料理奉天苑の陳文敏、立憲新生党の大沢三郎、このメールの岩田智也、そして日本紅旗革命団の松原隆志です」

 なるほど、メールや防犯カメラの分析では、当然いそのように出てくることになる。もちろん、奉天苑の中に一緒に入っていった青田優子も同じであろう。しかし、そのようなメンバーで物事がうまく動くはずがない。組織のトップばかりでは歯車がうまくかみ合わないはずだ。大物ばかりがいるということは、そこの間に小物が動いて、一つの組織になる。もちろんその小物は何か別な動きをしたり、このような動きで利益を得ようとする。その連中をうまく特定できれば、誰がどのように考えているかがわかるはずだ。

「青田君、その周辺の人脈を当たり、彼らを繋いでいる人やその人脈の広がりを探ってくれるか」

「はい」

「それと」

 荒川は横から口をはさんだ。

「青田さん、その人々と、京都、そう今回の徐虎光や吉川学との繋がり、当然に誰かが命令していると思うんで、そちらの方もお願いします」

「わかりました。」

 そういうと青田はにっこり笑って通信を切った。

 嵯峨朝彦は、四谷の事務所、といっても急場ごしらえで作ったために、7畳半のワンルームでしかないのであるが、その中を見回した。自分の机には、コンピューターと先ほど作ったウイスキーグラスが置いてあり、少し通信の間に氷が解けたのか、上の方が透明に透き通っている。グラスの外側には、結露した水滴がいくつもあるが、ここにはホステスがいないため、そのような結露を拭きとってくれる女性はいない。

「樋口君」

 応接セットの端の方で座っている自衛隊出身の樋口に声をかけた。

「はい」

「松原をマークできるか」

「はい、たぶんできると思います」

「多分、か」

 元々自衛隊であるだけに、不確定ない場合は不確定であるということをしっかりと告げる。当然にそのことは評価できるのであるが、しかし、このような場合は希望を持たせてくれるような言葉が欲しいものである。

「いえ、なんとか」

「いや、いい。荒川君などが手助けするから、何とかやってみてくれ。というのも、今のままではどこで誰が作戦会議をしているのかはよくわからない。大沢の動きはこちらで見ていればだいたいわかる。陳はどうやって追っても無理であろうが、逆に中国人ということで会うrから動けば大きくなって見えるはずだ。そこで、もっとも何をしているのかが見えないのは松原ということになるのだが、この松原が、すなおに陳や大沢の言うことを聞くとは思えない。そこで、松原の行動をマークして、大沢や陳との接点をうまく見つけて欲しい。」

「わかりました」

「当然荒川君は、それをうまく手助けしてやってくれ。それだけではなく、荒川君は、我々の中では遊軍なんだから、青田君や今田、菊池綾子何かと、うまく連絡を取って、分析をしてほしい」

「わかりました」

 その言葉を聞くと、樋口は部屋を出ていった。

宇田川源流

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