「日曜小説」 マンホールの中で 4 第三章 12
「日曜小説」 マンホールの中で 4
第三章 12
「どうしてこんなところに」
過去、時田や善之助などと共に、次郎吉はこの場所に来たことがあった。もちろん、半ば都市伝説となっていた「東山将軍の埋蔵金」を探しに、謎解きをしてここに来た時である。
その時に、主に次郎吉と全盲の老人である善之助が、ほとんどのなぞ解きをしていた。そして、やっとここに現れたとき、多分善之助や小林という老人の足取りの後を追って、郷田や正木がやってきたのである。そして、「埋蔵金」の奪い合いになったのである。奪い合いというよりは、完全に武装した暴力団と、目の見えない善之助などを含めた次郎吉。これでは、勝負にならないので、何とか逃げてきたという方が正しい。
「まあ、昔色々あってな」
「時田さんから少しは聞いていますが」
「なら、それだよ」
この武器庫のどこかに、今回の寄生虫の入ったピンクのガスを発生させる装置があったはずだ。なぜかそのようなことを思い出しながら、司令官室にはいった。
「ここに、郷田が持っていたあの書類があったはずなんだ」
「そうか」
次郎吉たちが、ここから抜け出た後、市役所や警察、自衛隊まで入って、郷田や正木たちを排除した。しかし、その時に、郷田たちは、その中から持てるだけのものをもって撤退したのである。その持てるだけのものの中に、書類と、あのピンクのガスが入っていたのであろう。
「ここに書類があった。でもそれはどこにあったかが見たいんだ」
「なぜ」
「マニュアルがあるということは、それが手に届くところに座っているはずだ。当然に、普段からここに通ったり使ったりしていないから、ここにきてもすぐにすべてを思い出せない。つまり、そのマニュアルを手に取りながら見渡せ、なおかつ手の届く範囲に、ほとんどのスイッチがあるはずなんだ」
次郎吉は、力を込めてそういった。スネークには、なぜかそれが滑稽に映ったが、笑ってはいけない雰囲気であったので、その笑いを思いきり飲み込んだ。
「ここだ」
机の上に並んでいる書類の中に、一部だけ埃が無くなっている場所があった。
「ということは」
机の下にもぐって見てみると、そこに鉄のふたがあり、そして、その鉄のふたの下に、レバーがあった。それとは別に、机の横に「非常事態」とかいたレバーがある。もちろん、「非常事態」の漢字は旧字体であった。
「わかったのか」
「ああ」
次郎吉は、やはり本業が泥棒だけあって、そのようなものを探すのはなかなかうまかった。
「スネーク、時田さんたちに連絡とってくれるか」
「わかった」
時田たちは、さすがによくわかっていた。ランボーと五右衛門が、東山家の下の地下壕に行き、緑のガスを発生させていたのである。そのことによって、一度街の中のゾンビ、というか、人間に巣くっている寄生虫をほとんど殺したということになったのである。
「次郎吉、今からそっちに行くから」
「何もないならば、来なくても大丈夫でしょう」
「何を言う、緑のガスで、ゾンビがいなくなったということは、当然に郷田や正木がそちらに向かっているということだろう。もう一度街全体を混乱させるためには、そこにあるピンクのガスをもう一度出させなければならないということだろう」
時田は警戒するように言った。
「でもなぜ郷田がここに向かっていると」
「そりゃ、そこの書類を持っているのは郷田だけだからな。あいつが暗号を解読してれば、当然に、そこに向かうはずだ」
その時、時田の横で、受話器を奪いような音がした。
「おい、次郎吉」
「おお、善之助爺さん」
「お前らの援助に警察や自衛隊も向かわせるからな」
「ありがとう」
「当然に、ワクチンや治療の注射、いや、虫下しかな、それも持たせるから」
「ガスマスクも」
「そうだな」
善之助は、何か楽しそうであった。
「次郎吉さん。ここに郷田がくるのですか」
「ああ、あいつの持っている部下を全員連れてくるだろう」
スネークは慌てて武器の準備を始めた。
「スネーク。それでは間に合わないと思うが」
「ないよりはましでしょう」
「そうかな」
次郎吉も先ほどのレバーがあるところを様々に動き回っていた。
「おい」
郷田は、そのころちょうど山のふもとに来ていた。
「へい」
「上まで登れる奴と、ここで待つ奴はどうする」
「女たちはここで待たせてはどうかと思いますが」
「いや、女は上まで登らせろ」
郷田は、個の麓のあたりが、最後の砦となっているこの山の上で、ピンクのガスが出てくることをよくわかっていた。それだけに、自分のお気に入りの女は、ここに残したくはなかったのである。
「女を登らせるんですかい」
「ああ」
「ならば、全員、上まで上がるぞ」
正木は、仕方なくそのように支持した。全員が上がるのであれば、なるべくバスで上まで上がった方がよい。一度下がって、階段しかない登山道を、バスが登れるところまで登っていた。中はかなり揺れたので、中腹までくると、中のほとんどの人間は、少なくとも車酔いのような感じになっていた。女性の中には、もう歩けないほど足をくじいてしまった人もいたのである。
「おい、何人かはここに残ってよい。残りはみな上がれ」
「バスの中の武器はすべて持って行け」
若い衆たちは、しぶしぶ従った。いや、ここで従わなければ、またゾンビが出てくる可能性があるのだ。
その時に、後ろで大きな音がした。街の方向である。
「なんだあれば」
正木は思わず声を上げた。しかし、横を見ると、郷田が苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。目の前には、一面、雲海が広がるかのように、緑のガスが、街を覆っていたのである。
「さっきの緑のガスだ。要するに、街の中のすべての寄生虫が死ぬ」
郷田は、冷静に言った。
「ということは、ゾンビがいなくなったということですか」
正木は、やっと自他が呑み込めたかのような声を上げた。
「敵にも知恵者がいるということだ。知恵者というか、歴史を真摯に学ぶ人間がいたという方が正しいかもしれないな」
郷田は、そういうと、自分のカバンの中の銃を確認した。
「おい、お前ら、武器の点検をしろ。上には誰かいるかもしれないからな」
「へい」
郷田はそのまま山頂、いや、次郎吉がこもる戦時中の司令部のほうに登っていった。
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