「日曜小説」 マンホールの中で 4 序
「日曜小説」 マンホールの中で 4
序
「なんだ、これっぽっちか」
町はずれの廃工場に男たちは集まっていた。ここは、もともともは農業飼料を作る工場であったらしい。しかし、以前経営者が賭け事に手を出して破産してしまった。その経営者は、夜逃げ同然で逃げだし、当時の設備がそのまま残っていた。それだけではなく、農業飼料の材料もすべてそのまま残っていた。
その工場の経営者をかけごとに誘い、そして、金を貸したのはすべて郷田雅和の手の者であった。郷田は、単に暴力団というだけではなく、合法と非合法の間の所でかなり手広くやっていたのである。この工場は、そのまま郷田の関連企業の所有物件になっていた。本来であれば、郷田と正木が逃げたときに、ここも捜査対象になるはずであったが、郷田の関連企業ではなく、競売で転売されていたために、別な人の名義になっていたからである。しかし、郷田の関係者ので完全な警察のミスである。その工場に男たちは集まっていた。
「まさか、あんなに抵抗されるとは」
「それに、あの洞窟の仕掛けは、想像できるものではなかったからなあ。」
工場の一角、外に向けた窓がある場所ではなく、化学薬品の倉庫を改造したアジトになっていた。しかし、普段使うわけではないので、武器などの倉庫になっている。しかし、しょせんは暴力団団員が掃除したのに過ぎない。部屋の隅には飼料工場の原材料がそのまま残っていた。
「まあ、金塊がこれだけと、あと何だかわからないものが多かったな」
「しかし、今じゃ市役所と警察が朝日岳の上に行って運び出していますよ」
「本当は親分の物になるはずだったのに」
数カ月前の話である。この町に伝わる「東山資金」というものがあった。まだ戦争中の日本の陸軍の幹部であった東山将軍によって、アメリカが上陸してきたとき、当時言われていた「一億層特攻」の時の避難者の資金やアメリカ軍がここまで来た時の武器などが隠されていることが明らかになった。それを指定暴力団の郷田連合の郷田雅和が狙っていたのである。
しかし、その東山資金を探すためには、宝石を集めなければならなかった。その宝石を、老人会の善之助と泥棒の治郎吉が集め、先に見つけてしまったのである。東山資金をめぐって、この二つの勢力の争いになり、そのことから、東山資金のありかである朝日岳の御前平裏の洞窟で争いになった。
しかし、その洞窟で郷田は戦時中の東山の仕掛けにはまり、目の前いある財宝を持つことができずに、そのまま逃げてきたのである。
「ほかに何か持って来たものはないか」
周辺にあ、十数名の男たちがいた。しかし、皆、郷田の声に目を合わせないようにしていたのである。
「これ」
「おお、和人、お前何か持って来たのか」
和人と言われたた、まだ高校生くらいの少年が出したのが、黒いアタッシュケースほどの箱であった。
「なんだそれは」
「はい、わかりません。でも、逃げるときに目の前にあったので、そのまま持ってきました」
「まあ、いい。暴走族の割にはいいできだ。」
郷田は、少し笑うと、横にいる正木に指示を出した。このような箱を開けて、また何かの仕掛けかもしれない。正木は、横の男に明けるように言った。
「なんだこりゃ」
中にはちょうど酸素ボンベの小型のような鉄のボンベが6本入っていた。
「なんかのお宝ではなさそうだな」
「はい、何かの武器かもしれないと思いまして」
暴走族といわれた和人は、少し照れ臭そうに言った。
「ほかにこんなもの持ってるやつはいないか」
数名が、何か武器のようなものを出してきた。手榴弾や銃などだけではなく、何かわからない爆弾のようなものもある。
「お前ら、戦争好きだな」
「でも、警察や自衛隊を相手にしなきゃならないので」
東山資金を取りに行く前、郷田は一度逮捕されていた。その時、郷田は脱出するときに裁判所を爆破し、また正木の家で警官隊を相手に銃撃戦を行っている。東山資金のある洞窟に今自衛隊まで出向いているのは、武器などの処理があるだけではなく、郷田などが攻めてくるのではないかという警戒感もあるのだ。
「お前ら、戦争好きだな」
郷田は笑った。
郷田は、それらを和人に返すと、研究しておけといって、そこから金塊を少しずつ、手下に分け、そして正木や数名の人間を連れて出て行った。
飼料工場のアジトには、和人たち数名と少しの金塊と、そして、訳の分からない武器が残されたのである。
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