「日曜小説」 マンホールの中で 3 第四章 2

「日曜小説」 マンホールの中で 3

第四章 2



 そのころ次郎吉は宝石の謎を解くために、八幡山山頂の八幡神社に来ていた。その時に、山から見える裁判所の方で大きな爆発音が聞こえ、そして、白い煙が上るのを見ていた。

「始まったな」

 次郎吉は、独り言のようにつぶやいた。

実際に、鼠の国の時田から、10日に裁判所で事件が起きることは聞いていた。そして絶対に近づいてはいけないということを聞いていたのである。次郎吉は、本来ならば宝石を盗まれた被害者であり、当然に裁判に参加することができる小林のばあさんにも、「高齢である」ということを理由に、判決の被害はいかないということを表明させ、そのうえで、次郎吉自身は、時田の指示に従って山の上にいたのである。

この辺で最も見晴らしがよく、町全体が見えるのがこの八幡山であった。戦争中、東山将軍がこの場を「観測点」とし、他のところから砲撃を行うという計画を立てたのは、この町のことをよく知っているからい他ならない。改めて、次郎吉が八幡山から見てみるとそう思う。

もしもアメリカ軍が攻めて来たら、間違いなく川下の方から攻めてくるか、あるいは西側の隣町から攻めてくるに違いない。そうであれば、子供を来たか東に逃がしてここで食い止めるというような形になるのではないか。そう思ったときに、まさにアメリカが攻めてくると思った川下の方の裁判所から火の手が上がったのである。

「東山将軍が見ていたら、戦争が始まったと思うだろうな。まあ、戦争であることは変わりがない。敵がアメリカではなく郷田ということだけが違うだけか」

 次郎吉はそういうと、全く関係がないというように周辺を見回した。消防車や救急車と思われるサイレンの音が、街のあちこちで聞かれ、そして赤い光が、裁判所の方に向かってゆくところまで見える。空にはさっそくヘリコプターの音が聞こえる。

「そうか、東山将軍ならば、当然に、ここに観測所があることをアメリカ軍の飛行機が見るということを予想しているはずだよな」

 つまり、飛行機から見えるところには少なくとも観測所は置かないはずだ。そのようなことをしてしまえば、当然に爆弾を落とされて全滅してしまう。何しろ東京を完全に焼き尽くしたほどの爆弾の量である。ここに軍の施設があると思えば爆弾を落としてくるはずだ。当然に、砲台なども空からの爆弾すぐに攻撃できないようになってしまってはいけないから、当然に、やまをくりぬいたり、上に防御壁を作ったりして、空襲を避けたに違いない。

ということは、アメリカ軍は当然に、地上戦で山を登ってきて砲台をつぶしに来るということである。それは、アメリカ軍が何日も山の下にいるということを意味しており、そして、その山の下に対して何日も砲撃を加える計画であったに違いない。

当時避難所として設置されていた八幡山・城山・平岳山・眉山・石切山だ。そして猫のうろに書かれていたのが、「ハチ」が八幡山で「△」、「シロ」が城山で「マル」、「ムラ」がどこだかわからずに「ヨン」とあった。そして、東山将軍が本営と考えていたとことには『五か所の子供に宝石を持たせ、その後か所の子供が力を合わせれば、国を興す新たな力が沸く』と書いてあるということになる。

「なるほど、つまり、もともとの日本軍が隠れられるような穴やトーチカを探せということか。そこに何かあるということになるな。」

 そうであれば、石切山など、この辺の山は江戸時代に石を切り出すので洞窟が多いと聞いていた。その洞窟に合わせて様々な要塞を作ったのに違いないのである。しかし、それでは莫大な量になると思われる。

「いや、何かがおかしい」

「気づいたか」

 時田であった。

「ああ、気づいた。」

「猫は、三つ。△・マル・ヨンだ。でも、本営に書いてあったのは「五か所の子供に宝石を持たせとある。つまり、東山資金のカギとなる宝石は五つあることになる。つまり、その宝石をどこかから取り出さなければならないということになるんだ」

 時田は言った。確かにその通りだ。つまり、猫の置物に書いてあった宝石、つまり、時田・小林・郷田の先祖が持たされた宝石は、直接的なカギではなく、その五つの宝石を出すためのカギでしかないのである。そしてその五つの宝石を八幡山・城山・平岳山・眉山・石切山の避難所に持ってゆけば、そこに何らかのヒントまたは資金があるということになるのである。

「そういうことだったのか」

 次郎吉はうなった。当時の東山将軍は、本当に英知の限りを尽くし、アメリカ軍が来ても大事な宝を絶対にとられないような仕掛けをしていたのである。それは人間的に部下に持たせ、その部下が校長と任侠者と商人という別々な職業の物にもたせ、その三人が合意して選んだ五人しか、資金を得ることができないという仕組みになっているのである。

「ああ、それとこの資金を使うときは、ある意味で戦争中ではないということも挙げられる。国を興す時の力であるから、当然に、戦争で戦っている時ではなく、戦いが終わって新たな展開になった時である。このように考えれば、次郎吉が言った空襲ということはあまり考えなくてよいのではないか。」

 時田の推理通りであれば、確かにそうだ。

「でも、ここに空襲がくるということは考えられる」

「そうだ」

「なるほど、そういうことか」

 次郎吉は、急に八幡神社を降りはじめた。

「どうした。」

 時田は慌てて追いかけてきた。

「時田さん、ここは戦場になるんだよ。今の裁判所みたいに」

「ああ、ここに観測所があるということはここはアメリカ軍が登ってきて攻めるということになる」

「ということは、当然にここは建物もなければ、当時なんだから爆弾も飛んでくることになり、下手をすれば、山の形が残らない可能性がある。もちろん、歴史はそうなる前に日本が降伏したから、山も八幡神社もそのまま残っている。しかし、東山将軍の頭の中では、この山は戦場になって山の形がなくなるほど砲撃を食らうはずだ」

 次郎吉の言うとおりである。では、そのようなところに手がかりを残すであろうか。そんなことはない。

「時田さん、この奥の山にある八幡神社の奥の院、そこだよ」

「なるほど」

 時田は笑った。

「ところで時田さん。あまり言いたくなければよいが、あの裁判所の爆破。あれは、郷田や川上がやったのであれば、あまりにも派手すぎるんじゃないですか」

 時田はにやりと笑って、次郎吉と石段に並んだ。

「次郎吉さん、今は二人だから関係ないが、まあ、人が多いところでは知っていても言ってはいけないことがあるんじゃないのかな」

 次郎吉が周囲に目を凝らすと、茂みの中に人影がある。そういえば、さっきまで一人であったのに、いつの間にか時田がいる。そのことに関して、次郎吉はあまり疑問に思わなかったが、個々の調査は一人でやっていたはずなのである。いつの間にか影のように横にいて、そして、違和感を感じさせない。時田とはそういう男なのだ。

「まあ、次郎吉さん。今回は次郎吉さんは身内に近いから。あの爆破は私が仕掛けたんだよ」

「やはり」

「ああ、そうじゃないと奴らが逃げないからね」

「なぜ郷田を逃がしたんですか」

「そりゃ、宝石が偽物であることを気付かれてもよいように、裁判所の管理下にない時間を作らないといけない。これで、宝石がなくなっても郷田がどこかに本物を隠したということになる。そうじゃないかな」

「はい」

「それだけじゃない。郷田が逃げれば、郷田が持っている資料もこちらに手に入る。何しろ郷田は自分がすべての宝石を手に入れたと思っているんだから、行動を起こすからね。もちろん、郷田の自宅なんかには戻らないだろう。川上がどこかに隠れ家を用意しているはずだ。そして郷田の家から何かを持ち出すに違いない。そこを狙うんだよ。そうすればすべての資料が手に入るだろ」

 時田が考えることはすごい。そう思った。

「次郎吉さん、このことは、あの目の見えないおじいさんには全部終わってから教えるようにね。今教えてしまっては、何か別な動きがあると困るから。じゃあ、奥の院で待ってる」

 時田はそういうと、すっと茂みの中に消えてしまった。

宇田川源流

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