「日曜小説」 マンホールの中で 3 第三章 9

「日曜小説」 マンホールの中で 3

第三章 9


 いくら次郎吉でも知らないことも少なくなかった。まさか8人の幹部の上に王様がいるなんて言うことは全く見えなかったのである。自分たちが8人の幹部といっていたのは幹部ではあったが、ボスではなかったのである。

そしてその威厳というのはなかなか見えないものである。ちょっと名前を聞けたり、質問できる雰囲気ではない。いつも何か人を食ったような次郎吉でもその雰囲気はよくわかった。

「名前くらいは教えよう。時田という」

「時田・・・・・・校長の」

「そうだ」

 次郎吉はさすがに驚いた。まさか自分たちが探していた校長先生の時田の子孫が鼠の国の王様とは。それにしても教育者の曾孫が、今度は泥棒や暴力団、殺し屋などの楽園を作った人物になっているなどというのは誰も想像がつかない。そもそも、時田という校長はずいぶん前に子供もいなかったので家計ごと無くなっているのではないか。

「時田さんって、先祖が校長先生の」

「そうだ。次郎吉さん、あんたが探していた時田校長の曾孫だよ。」

「時田って家は家計が滅びたんじゃなかったか」

 時田はもう一度笑い始めた。

「次郎吉さん、これだけの施設を街の奥深く、近に作ることのできる組織だよ。地上の世界から足を洗って戸籍なんかを見えなくすることなんかは、そんなに難しいことではない。幸い、校長先生をやっていた先祖は、その教え子の多くが優秀な将軍や軍の幹部、政治家、企業家を持っていたので、彼らに言って、家ごと消してもらったのだ。自分の家の資産は川上に任せ、そして当時の軍隊や時田、小林、郷田が考えた誰でもが平等に暮らすことのできる平和な世の中を作る。その理想をうまくここに作った。そのためには情報と手足のように動く組織、そして資金があればできるからね」

 そういうと、時田は机の上にあるボタンを一つ押した。次郎吉の横の壁が上がりその奥には最新式のモニターが写されている。そして街の中のすべての防犯カメラの映像がここに出ているのである。まさか独立した情報組織がここに存在するようなものである。ここにいるだけで街のすべてがわかるような仕組みになっているのだ。

「その資金はまさか東山資金」

「まさか、まだ東山資金は使っていない。いや、見つかっていないから使いようがないというのが本当ところだ。これは、東山将軍が軍資金として残してきた資産を時田が預かっていた。その預かった資金の一部を使ってこのようにしたんだ。まあ、単純に警察や市役所が設置したカメラをすべてハッキングしているだけだから、そんなに資金が必要なわけではない。ついでにいえば、電話やネットの傍受も簡単にできる。ただあまり情報を持っていても意味がないから、必要なことしかしないだけなんだ。」

「東山資金というのは、軍資金ではないのか」

 次郎吉は今までアメリカ軍と戦うための資金であると思っていた。

「違う。東山の軍資金は、当時の陸軍中野学校から届いていた。東山の家の奥にある知れ既知の金庫の中に入っていた。実際に札などは何の意味もなかったから、金の延べ棒で来ていたんだが、それはすべて東山・郷田・小林・時田で分配した。そして今次郎吉さんが探している東山資金とは、軍資金ではない」

「軍資金ではない。では何なのですか」

 時田はそんなことも知らないのかというような雰囲気で、なんとなく笑いながら話をつづけた。

「当時、アメリカ軍と戦ってもアメリカ軍に勝てるなどということは全く思っていなかった。そこで、東山将軍は軍資金や軍事物資を二つに分け、戦う人の者と、戦わない日本御未来を託す人の者とで分けたんだ。そして女性と子供を非難させ、そこで、ここ鼠の国のような地下の要塞を作りその中で、子供たちが暮らしてゆけるように、数十年分の貯えと、生活費を捻出したんだ。」

「しかし、そんなことをしても地上がすべてアメリカ軍であれば意味がないのではないですか」

「いや、東山はアメリカがそのようになってもアメリカとソ連が敵対するということをわかっていたし、また東南アジアやインドなど日本に親近感を持つ国が少なくないことも知っていた。そのために、そのようなところにいる中野学校の仲間と連絡を取れるようにしながら、そのような国々に散らばった人々とレジスタンス的に戦い、同時に、うまく抜け出して子供たちを救う手立てを作った。そしてその子供たちが大きくなった時に、再度日本を興そうと思ったんだ。東山資金は、その日本の第二の建国の資金なんだよ」

 時田がした話はあまりにも壮大な話である。確かに当時、天皇陛下が中心になり、天皇万歳といって死んでいったと異様な話はたくさんある。しかし、天皇を「国体」といっていても国民が一人もいない国などは存在しないし意味がないのである。そのように考えたときに、新たな天皇が日本で国を興すというようなことを考えたときに、その国民となる若者を保護し、そして国を興すための資金を少しでも多く残すということを考えたのであろう。東山というのはすごい人物なのであったと思う。また当時の軍人というのはそのようにして考えていたのであろ。だから、戦争をする人々、つまり当時の大人たちは適当にあるものを分配し、残すものはないから最小限にしておいて、子供たちに、つまり未来に多くを残したのである。

ただし、時代はそのようにならなかったので、その東山の予想をした資金は全く使う必要がなかった。つまり、今は誰かに盗まれることを待っているということになる。

「そんな資金なんですか」

「しかし、君が小林の家からあんなものを持ち込むから、厄介なことになったではないか」

「はい、申し訳ありません」

 時田という鼠の国の王様はぐるっと椅子を回して振り返った。まさか、先日までマーケットで宝石を撃っていたあの小汚いオヤジが時田なのである。

「君と善之助という爺さんがやっていることはだいたい知っている。まあ、東山資金を探したいというのは我々の悲願でもあるから、応援するつもりである。それは良いのだが、郷田と川上は完全に裏切ってしまった。この鼠の国の話が公になるのも時間の問題であろう。そこで、郷田と川上はこちらの鼠の国が対処するので、次郎吉さん、あんたは善之助とともに東山資金を探ってくれるか」

 願ってもない申し出であるが、では郷田と川上は何をしたのであろうか。それも聞きにくい雰囲気である。次郎吉は聞こうか聞くまいか迷っていると、時田が一言だけこういったのである。

「実は、郷田は小林の宝石を盗んだんだ。いや、正確に言えば自分の手下をよこして、脅して持っていった。」

「脅して、鼠の国のマーケットで脅しをやったのですか」

「ああ。あいつ何か勘違いしているようで、表の世界で多少部下を持ち、そのうえ宝石屋か何かをやって企業家を気取っていれば偉くなったとでも思っているようだ。しかし、日陰で生きる人間はあくまで日陰なんだ。鼠は表に出れば猫に食われるか、人間に排除される。あいつはそれがわかっていない」

 まさか、買ったのではなく強盗して持ってきたとは思わなかった。いや、もしかしたらこの時田という人間のすることであるから、そのように仕向けたのかもしれない。

「川上はどうして」

「川上の妹が時田の愛人だ」

「なるほど」

 兄貴といっていたのはそういう意味であったのか。

「それで、ちょっと邪魔になったので警察に被害届を出して、ここで出した宝石の資料と防犯カメラの映像をつけて出したんだ。そうしたら警察がすぐに対処してくれたんだよ」

 要するに小林の婆さんではなく、この目の前の時田という男が、小林の名前を語って郷田をはめたのである。

「とりあえず小林の婆さんとあの一家を守らないと」

「言われんでもやっておる。ということで、裁判所から来月の10日の裁判の終わった後、宝石を盗み出すように。もう出て行っていいぞ」

 時田はそういうと、扉が自動で開いた。それ以上ここにいることは許されない雰囲気であった。

宇田川源流

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