「宇田川源流」【今週は米中関係特集】 米中両国の領事館の閉鎖から始まる「米中戦争」はもう制止不能なのか?

「宇田川源流」【今週は米中関係特集】 米中両国の領事館の閉鎖から始まる「米中戦争」はもう制止不能なのか?


 先週我々が最も驚いたニュースは「米中の領事館閉鎖」である。そもそも、戦争前というのは、「国交の断絶」ということが始まる。国交の断絶というのは、単純に直通航空路線の廃止と、大使館の閉鎖引き上げによって行われる。今回「大使館」ではないにせよ、領事館が閉鎖されたのである。これは、大使館の一歩手前であると同時に、「政治的に治外法権的な内容を剥奪することができる」ということを意味しており、相手国の治外法権を否定するということが出来るということになる。

かつて治外法権は、外交上の慣例として、派遣国の認証があり、接受国による信任状の受理(接受)があった場合において、派遣された外交官に対して相互に認められる特権として確立されてきた。もっとも、現在では、外交官であっても接受国の法制が及び、刑事裁判権などの一定の管轄権を免除されるに過ぎないとされている。このような免除を受ける特権は、ウィーン条約においては、外国の公使館および外交特権を所持している外交官に認められる。

さてそのウィーン条約(沢山あるので通常が外交に関するウィーン条約というが、ここでは単にウィーン条約とする)では、第4条にこのように書かれている。

第四条(領事機関の設置)

1 領事機関は、接受国の同意がある場合にのみ、接受国の領域内に設置することができる。

2 領事機関の所在地及び種類並びに領事管轄区域は、派遣国が決定するものとし、接受国の承認を受けなければならない。

3 領事機関の所在地及び種類並びに領事管轄区域の派遣国によるその後の変更は、接受国の同意がある場合にのみ行うことができる。

4 総領事館又は領事館がその所在地以外の場所に副領事館又は代理領事事務所を開設することを希望する場合にも、接受国の同意を必要とする。

5 既に存在する領事機関の所在地以外の場所に当該領事機関の一部を構成する事務所を開設する場合にも、接受国の事前の明示の同意を必要とする。

 つまり、領事機関の設置及び管轄区域の設置は、「接受国」(信用状接受国つまり、設置を受ける側の国)がの同意がある場合にのみ行うことができるということになる。

今回、アメリカはこの「同意」を排除したということになる。

中国領事館は知財窃盗の震源地か 米政府が閉鎖要求、ヒューストン

 【ワシントン共同】米政府が閉鎖を要求した南部テキサス州ヒューストンの中国総領事館について、スティルウェル国務次官補は中国軍による知的財産窃盗の「震源地」となっていたとの認識を明らかにした。ニューヨーク・タイムズ紙が22日伝えた。訪欧中のポンペオ国務長官も中国の知財窃盗を「これ以上許さない」と語った。

 スティルウェル氏は、中国の窃盗行為がここ半年間で増えていると述べ、新型コロナのワクチン開発競争とも関係している可能性があるとの見方を示した。

 中国のヒューストン総領事らが最近、空港で中国人の訪問者を迎える際に偽の身分証を使ったことが確認されたとも明かした。

2020年7月23日 16時36分 共同通信

https://news.livedoor.com/article/detail/18620622/


中国が米に報復"正当な対応"

 【北京時事】中国外務省は24日、米国政府に対して四川省成都にある総領事館の設立許可を取り消し、活動を停止するよう求める通知を行ったと明らかにした。米国が「知的財産の保護」を理由にテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を求めたことへの報復措置。香港問題などで対立する米中関係は制裁の応酬で悪化の一途をたどっている。

 中国外務省は声明で「24日午前、米国の在中国大使館に在成都総領事館の設立と運営許可の取り消しを決定したと通知した」と表明した。声明は、米側が21日に行った在ヒューストン総領事館の閉鎖通告について「米側の一方的な挑発で、国際法の重大な違反だ」と重ねて強調。在成都総領事館の許可取り消しは「米側の不当な行為に対する正当で必要な対応だ」と主張した。 【時事通信社】

2020年07月25日 00時33分 時事通信

https://news.nifty.com/article/world/worldall/12145-738634/


 法的条約的に問題がないということは、当然にアメリカ側は物事をしっかりとわきまえ、そのうえで、しっかりと物事を見ているということになる。事前にしっかり調べて、その内容を行っているので、問題はないということになる。

アメリカという国は、まさに、このような「条約のスキを突く」のがうまい。それだけに周到に準備して物事を行っていることがうかがわれる。

アメリカは「なぜヒューストンの領事館を閉鎖したか」の理由をしっかりと明示し、そのうえで、そのヒューストンに関連するスパイの拘束をしている。そしてその前に昨年の間に米中貿易戦争があり、アメリカの知的財産権の保護を習近平に約束させており、その内容を含めた米中合意が、今年の1月17日に劉鶴副首相によって調印されているのだ。つまり、中華人民共和国が、習近平及び劉鶴の署名した合意にかかわらず、その内容を違反し、その違反した内容に対して、領事館設置の同意を取り消したということになるのである。

これに対して、中国側はまた「後手」に回った。

今回は、成都の領事館を閉鎖したが、これは全て「米側の一方的な挑発で、国際法の重大な違反だ」<上記より抜粋>としている。アメリカ側がスパイ事件を上げ、なおかつそれが米中合意に違反するということをしっかりと明示しているのに対して、中国側は、スパイ行為はなかったという証明もなく、単なる報復行為として物事を行っているということになる。

さて、今回の問題から見えることは非常に面白い。

一つは、アメリカの閉鎖に対して第三国が全く声を上げていないということである。つまり、中国だけが大騒ぎしているものの、実際、中国のスパイ行為に関してはどの国もいい加減にあきれているし、また、コロナウイルス禍において様々な問題があるにも関わらず、全くそのことに関して保証も何もせず、開き直って覇権主義的な行動を起こしていることに関して、どの国も中国を見放しているということに他ならない。

イギリスなどはアメリカ寄りの政策に切り替わっていて、中国を完全に否定しつつある。唯一香港の問題などでも声明を上げていないドイツが態度がはっきりしないという感じだ。そのドイツは、第一次第二次世界大戦で敗北をしている国である。その国と組んで中国はどうなるのであろうか。中国はこの件で孤立化していることを世界に示してしまったことになる。

もう一つは、「なぜ中国は成都のアメリカ領事館を閉鎖したのか」ということである。

上海でも、香港でもなく、成都なのである。つまり、これは、習近平が最も地盤の弱いところが成都であるということに他ならない。このような時に、なんとなく政権の意思ということが見えてきてしまうが、やはり南西部の習近平基盤が最も問題になっているのと同時に対ブータン、対インドなどの問題でアメリカに活動されては困るということになる。つまり、領事館レベルでは成都のアメリカ領事館が最も煙たい存在であるということになる。

そういえば、薄熙来の事件の時も、その腹心である王立軍は、成都のアメリカ領事館に逃げ込んだのである。そのように考えれば、反習近平派の最も強い場所が成都ということがわかる

このように見ていると、アメリカのように理由なく、突発的に行動した中国は、そのまま何かおかしな話になっていいている。そして「単に報復ということだけによる(正当な犯罪などの理由がない)領事館の閉鎖が許される」環境においては、簡単に戦争になるということを意味することになるのではないか。

宇田川源流

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