「宇田川源流」【日本報道検証】 習主席、軍幹部の粛清について異例の言
「宇田川源流」【日本報道検証】 習主席、軍幹部の粛清について異例の言
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。
さて今回は、中国の春節における習近平国家主席のオンライン演説についてです。
近年、中華人民共和国の最高指導者である習近平国家主席は、中国人民解放軍(PLA)の上層部に対して前例のない規模の粛清を進めています。これは単に汚職取り締まりという枠を超え、軍の指揮系統や意思決定機関の構造自体を大きく変えつつある出来事とされています。
たとえば2026年1月、最高幹部の一人である張又侠(中央軍事委員会副主席)および劉振立(中央軍事委員会の参謀長)が、党・軍の規律違反(「重大な規律違反と法律違反の疑い」)を理由に調査対象となりました。これは、中国の軍最高位の指揮機関である中央軍事委員会の内側でも、大がかりな人事の再編が進行していることを示しています。
報道では、これらの幹部は“汚職”や“規律違反”とされているものの、その実態や具体的な事実関係については公開されておらず、中国当局は詳細な理由を明らかにしていません。現地メディアには「規律違反」「法令違反」といった表現が使われる一方、背景には政治的・軍事的要素が絡む可能性が指摘されています。
<参考記事>
習主席、軍幹部の粛清について異例の言及 春節のオンライン演説で
2/13(金) 13:14配信 BBC News
https://news.yahoo.co.jp/articles/1f82270a78e3f41f8c3a198934df2ef5be015208
<以上参考記事>
この動きについて、中国国内外の専門家や分析では、いくつかの背景や理由が推測されています。
まず、習近平政権は「党の絶対的な軍の支配」を強化することを最重要視していると見られます。中国の軍隊は形式上国家の軍隊ですが、共産党の軍隊としての性格が強く、党の最高指導者(習近平)が主席を兼ねる中央軍事委員会(CMC)が全軍の最終決定権を持っています。習近平が言及する「中央軍事委主席責任制」とは、その最高意思決定権を主席本人に集中させる仕組みです。
そのため、単に汚職を理由とするだけではなく、党・習近平に対する忠誠心や意思統一、指導体制への服従を徹底するために、高位幹部の追放が実施されているという見方があります。特に、軍の現場経験が豊富で影響力を持つ幹部が「政治的な命令に従わなかった」または「軍事政策や戦略について異なる考えを持っていた」とみなされた場合、排除の対象となる可能性も指摘されています。
一部の分析では、こうした粛清は党と軍の統制を強化するための「政治的清掃(政治的コントロール)」であるとする見方もあります。つまり、内部の異論や独自の権力基盤を持つ可能性のある人物を排除し、習近平の指導体制を盤石にするための動きだ、という理解です。
現在の中国における軍上層部の粛清は、台湾有事のタイミングや中国の対外姿勢に対して相反する二つの見方を同時に生んでいます。一つは、最高指導者である 習近平 が軍の統制をこれまで以上に強めたことで、政治的な決断がより迅速に軍事行動へと転化しやすくなり、結果として台湾への軍事的圧力や実力行使が早まるのではないかという見方です。もう一つは、逆に大規模な人事刷新や内部調査が続くことにより、指揮系統の連続性や現場の信頼関係が一時的に損なわれ、作戦立案や実行の精度が落ちるため、むしろ軍事行動は慎重になり、結果として侵攻の時期は遠のく、あるいは現実的な選択肢から外れるのではないかという見方です。この二つの見方は一見正反対ですが、いずれも一定の合理性を持っており、中国の政治体制と軍の関係を考えると同時に成立し得るというのが現実に近い評価と言えます。
現在の中国では、軍は国家の軍隊であると同時に党の軍隊であり、最終的な統帥権は 中国共産党 の最高指導部に集中しています。特に中央軍事委員会の人事が長く確定しない状態は、外部から見ると不透明で不安定に映りますが、別の角度から見れば「誰が最終的に決定権を持つのかが明確である」状態でもあります。つまり、制度的な副主席の空席や人事未発表は、組織の弱体化というよりも、権限の一極集中の過程である可能性があるということです。その結果、軍の上層部における反対派や独自の影響力を持つ将官が減少すれば、短期的には意思決定のスピードは上がりやすくなります。しかし同時に、現場レベルでの萎縮や「失敗を恐れて積極的な判断を避ける空気」が広がると、実際の軍事行動はかえって慎重になるという逆の効果も起こり得ます。したがって「指導者の権力集中=即軍事行動」という単純な図式にはなりにくいのが実情です。
対外姿勢という観点では、国内での権力基盤が安定するほど外交的に強硬になる傾向は歴史的にも一定程度見られます。特に 台湾 をめぐる問題は、中国国内では主権や統一の象徴として扱われるため、指導部が国内の結束を示す材料として言及する頻度は高まる可能性があります。ただし、強硬な言葉遣いと実際の軍事侵攻は別物であり、経済的損失、国際制裁、金融市場への影響、技術供給網の分断などの現実的コストが極めて大きいため、実際の行動は常に計算の上で決められます。ここで重要になるのが対米関係であり、春に予定される米中首脳会談のような場は、表面上は協調姿勢を見せつつ裏では駆け引きを続ける典型的な舞台になります。軍事的緊張が高まる局面であっても、首脳会談の存在そのものが即時の軍事行動に対する一種の「ブレーキ」として機能する場合もあれば、逆に会談前後に強いメッセージを発することで交渉力を高めようとする場合もあり、どちらに振れるかは国内経済状況や国際環境に大きく左右されます。
このような状況を踏まえたとき、日本が備えるべき「最悪の事態への備え」は、単純に軍事面だけを強化すれば足りるという話ではありません。もちろん自衛力や同盟調整、周辺海空域の監視能力の強化は基盤として不可欠ですが、それ以上に重要なのは、危機が軍事衝突に至る前の段階、すなわち情報戦、経済的圧力、サイバー攻撃、世論操作、物流遮断といった「戦争未満の圧力」に対する耐性を高めることです。中国が仮に強硬姿勢を強めたとしても、最初に現れるのは必ずしも武力ではなく、貿易、観光、投資、技術供給、エネルギー、通信インフラといった分野での揺さぶりである可能性が高いからです。したがって、日本にとっての備えとは、防衛装備や部隊配置だけでなく、エネルギー調達の多角化、半導体や通信網の供給網の分散、重要インフラのサイバー防御、そして国内世論が外部情報操作によって過度に分断されないための情報リテラシーの底上げなど、社会全体の「持久力」を高めることに近い意味を持ちます。
結局のところ、中国が今後どの方向に動くかは、軍内部の安定度、経済成長率、対米関係、周辺国の対応、国内世論という複数の要因が絡み合って決まります。軍の粛清は確かに大きな変化ですが、それだけで戦争の時期が決まるわけではありません。日本にとって現実的な戦略は、「すぐに戦争が起こる」とも「絶対に起こらない」とも決めつけず、どちらに転んでも国家機能と国民生活が急激に損なわれないよう、軍事・経済・情報・外交を一体で備えていくことにあります。これは悲観論ではなく、不確実性が高い時代における最も合理的な安全保障の姿勢と言えるでしょう。
0コメント