小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 18
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 18
「まずはこれがワクチン」
嵯峨朝彦から派遣された葛城博久と藤田伸二は、今田陽子が持たせてくれたワクチンを荒川に渡した。
「ワクチンがあるのか」
「ああ、日本で開発したものだから大丈夫だ」
そのワクチンの一つを、太田が取り上げた。
「ワンさん、これを研究して君たちの分も作ってくれ。全員分はないからな」
「わかりましたよ太田さん。この上海では、設備もありますから」
「それならばこれを」
藤田は、カバンから書類の束を出した。
「ワクチンの資料です。うまく使ってください。」
「おお、これはありがたい。太田さんや西園寺さん、荒川さんのお仲間は、本当に心強い人が多い。」
「そんなことではないですが、すでに、栗紅凛という中国人の学者を自衛隊の科学学校に連れて行って、このワクチンを共同開発しています。」
「栗紅凛とは、彼らの仲間ですね」
「はい、それで信用してもらいたいからと、彼女が自分でワクチンを作り、そして一番初めにそのワクチンを彼女のからだでためしたのですから、問題はないのではないかと思います。もちろん、彼女の身体が我々と違っているのであれば、話は違うのですが」
葛城は、そう言って笑った。
「ほう、彼女が自分で。あのワクチンを作った科学者の一味ですよ」
「ですから、裏切ったら殺されるということで、日本に亡命申請しています。この騒動が終わったらアメリカに亡命させる手はずになっています。」
ワンは、それならば信用できるということを言い、そのワクチンを部下に渡した。中国語で様々な支持をして、なおかつ、その資料はコピーをさせて原本を戻させている。部下であっても信用しないのが、中国である。独であると思うものは自分の身体で最も先に試すということも、そのような信用されない文化を体現しているとしか言いようがない。乾杯の文化も、一つの瓶の中の飲み物に毒が入っていないということを証明する内容であるというように伝わるのである。
「もう、我々は、ワクチンを接種しています」
藤田は、自衛隊流に言った。
「なるほど。ということは上海で『死の双子』が使われても大丈夫」
ワンは確認するように言った。これから大量生産をして、自分の武漢委は無料で接種させるが、しかし、一般の中には高値で売ることを考えている。ある意味で商売のネタを日本が開発して持ってきてくれたという事であろう。
そして本当にこのワクチンが効くのであれば、軍にこの『死の双子』をなるべく使わせて、そのうえで、そのワクチンの効果を高く歌いたいのである。その為にはなるべくワクチンを早く作りなおかつその効果を高く宣伝しなければならない。
「いや、どの程度まで大丈夫かはわかりませんが、普通よりも良いということではないか。その程度と考えておきます。」
葛城はそのように答えた。
そもそもワクチンというのは、罹りにくくしたりまたは悪化させないということでしかなく、股くかからなくするというものではない。その意味では、ワクチン以上の病原体を体内に取り込めば、ワクチンが効かないということもありうるのである。
残念ながらワクチンや薬品に100%はない。
「わかりました。あとはこちらで実験します。しかし、日本はすごいですね。被害者のはずなのに、すぐにこのような物を作ってしまいます。本当に尊敬します。」
「当然に、中国大使館に逃げ込んだ人は別にして、東京の倉庫にいる人や、福岡で病原菌を使った人は皆逮捕しています。中国人も当然に逮捕していますので、問題はありません。日本は、今から何らかの形で新たな病原菌を持ち込まない限り安全です。そして、日本でも病原菌を作っていたり保存したりという設備がありましたので、その設備を全て接収しました。ですから、日本では同じものを作ることができますしまた、中国政府が病原菌を作っていたという証拠もすべてそろっています。そのうえで、元の病原菌を元にワクチンを作っていますから、ほぼ完成品と言えます。」
「それは素晴らしいですね。」
ワンは、笑って言った。その間に、藤田はそこにいる皆に、ワクチンを数本残して注射した。
「さて、我々はワクチンを撃ちました。では、この後のことを考えましょう。」
ワンは話を勧めた。
もちろん、本店の地下の秘密の部屋である。
「厦門は、胡英華などが、何らかの形で決着をつけるでしょう。こちらは香港マフィアと、その香港マフィア王獏会に近い津島組をつぶさなければならない。それと、せっかくだから、北京を攻略しなければならないでしょう。」
荒川は言った。
「北京ね。ようするに周毅頼を・・・」
「しかし、それを我々がやってしまえば、日本と中国の戦争になってしまう。それではダメなんだ」
安斎が久しぶりに声を上げた。その横で葛城もうなづいていた。
「あくまでも中国国内で処理するという事か。それならばもう少し子分を連れて来るんだったな。」
西園寺が腕を組みながら言った。
「安斎。お前ウイグルの戦士がいただろう」
「ハリフならば厦門で死にましたが」
「女の方は」
太田が言った。
「マララですか」
「あれを使ったらどうだ」
太田の言葉に荒川は、確かに、とうなづいた。
「安斎さん、マララに接触できますか」
「できないことはない。まだ北京にいると思うが」
「では、北京に行ってマララに、この死の双子とワクチンを渡して行動を起こすように言ってください。」
荒川は安斎に頼んだ。
安斎はゆっくりうなづいた。
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