小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 14
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 14
「葛城さんと藤田さんが来るそうだ」
「どうやって」
ワンの経営する銀行の地下で、地上の爆撃をよけている。荒川はワンの秘書が持ってきたメモを見て安斎や太田に伝えた。ビルの上の方では、ちょうどこの辺で戦争が起きているのか、たまに大きな爆発音とともに、自身のように部屋全体が揺れる。
一帯外で何が起きているのかはよくわからないが、すでに4日もこのような状態が続いているのである。厦門の街中はかなりの被害が出ているのであろう。この地下の部屋でもワンの行為で見ることのできるインターえっとやSNSの画像で、幾人もの死体が、今まsで見ていた厦門の市街地に転がっているのが見える。しかし、不思議なことにテレビやラジオの放送ではまったく厦門の「戦争」のニュースはない。初日「これから厦門では大規模な軍事訓練が行われるので、近くにいる人は注意してほしい」というニュースが流れただけだ。
「中国というのはそういう国です。都合の悪いことはマスコミは流さない。以前、新幹線が事故を起こした時も、事故そのものがなかったようにするために、車両の中に助けを求める人がいるのに、車両をそのまま埋めてしまったのですから」
温州で2011年に発生した高速鉄道の追突・脱線事故で、当局が事故車両の先頭車両を埋め立てたことによって、証拠隠滅であるという批判を招いたことは、中国人の間でも有名であった。ちょうど、胡錦涛政権の最後であり、その政権の入れ替わり時期であったこともあって、新政権が旧政権を攻撃するような形で、中国であるにも関わらず、大きく報じられたのである。
ワンやそこにいる中国人たちは、そのようなことまでよくわかっている。特に共産党政府に反対するわけではないが、しかし、一方で依存もしていない。今回のようことがあれば、嵐が過ぎ去るのを待てばよい。その様に考えているのである。
「それにしても、なかなか終わらないですね」
「謝先生が、その上司の胡英華常務委員に行って第71軍と72軍を動かしているのでしょう。厦門の73軍が終わるまで続きますよ」
「第73軍の様子はどうだ」
ワンが部下に聞いた。
しかし、さすがに上海一流のマフィアのボスの銀行である。上海の本部ではないにしても、ワンがくれば、それなりに情報は手に入るし、長期間ここに立てこもっても大丈夫なように水も食料も、武器も、全て完備している。それどころか、不利になれば、脱出できるように様々な方面に抜け穴までできているのである。そのうえ、外の様子は全てカメラで見ることができるのだから、ある意味で要塞である。
「はい、73軍、厦門の基地には孔洋信常務委員が蔡文苑将軍と一緒に立てこもっているようです。もちろん73軍の研究室には、『死の双子』が備蓄されています。」
「だから地上作戦ではなくあくまでもミサイルや空爆で決着をつけようということなのか。それで外は」
「はい、市街地には戦車や陸上部隊、そして対空砲軍が入ってきています。73軍に味方する様々な基地からの援軍が入ってきているようです。」
「そうか」
ワンは不敵な笑みを浮かべた。
「太田さん。あなたのお仲間が来るのはもう少し後でしたね」
「まあ、直接来るわけではないから、数日時間がかかるだろうし、厦門には簡単に入れないだろう」
「おい」
ワンは、近くにいる人物を呼んだ。
「何するんだ」
「ミサイルを撃ちます。」
「ミサイルなんてあるのか」
「いや、正確に言えば、人が手に持って撃つ携行型のロケット砲の少し大きな感じなものですが、このビルの最上階、屋上の下にありますので、それを73軍の方面や、この辺の73軍の援軍に向けて何発か撃とうと」
「そんなことをしてどうなる」
太田は、珍しくワンの言葉に反論した。
「太田さん、ただ一発ミサイルを撃ったところで、戦車一両壊れるかどうかでしょう。しかし、そのミサイルにペットボトルに詰めた死の双子を着けたらどうなります」
「えっ」
「もちろん上海で略取してきたものをもってきていますよ。そして、相手は我々がここに隠し持っているんなんて思わないです。特に援軍はなおさらそんなことは考えないし、そもそも死の双子の存在したい知っているかどうかはわからないです。その死の双子をここで73軍の援軍に対して使えば、どうなります」
「そりゃ、死ぬだろうな」
太田は呆れて言った。
「それだけではありません。死の双子を持っているのは73軍だけということになっていますから、援軍に対して73軍が無差別にウイルスを使ったということになるのです。」
なるほど、我々が持っているという事さえわからなければ、ここに攻めてくるような人はいない。つまり、援軍がそのまま73軍の駐屯地を攻撃するということになるか、またはそのウイルスが何かわからないというような感じになる。いずれにせよ人民解放軍の中に疑心暗鬼が生まれることになるのである。
「面白い」
太田に先駆けていったのは、荒川であった。
「でしょう」
「夜に実行します。できれば、厦門の基地の方に移動して・・・」
「地下道を使うのか」
「はい
「今夜やってしまおう」
その夜、5名一組で地下道からマンホールを抜けて太田やヤス、荒川は各一組を率いて厦門の基地の近くに出た。以前、この通路を通って基地近くの貧民街に出て、貧民の姿になり、そして基地の門のところで死の双子を放水したことを思い出す。
その貧民街は、すでに多くの人が逃げてしまっており、誰もいないもぬけの殻だ。その誰もいない貧民街の中から標的を探した。
「軍隊っていうのは、夜でも灯りをつけてくれるから、標的がわかりやすいやな」
太田はそういった。自分たちは黒づくめの服装だ。ちょうど昔の忍者か、昭和の漫画の泥棒の描写にあるような格好である。
ちなみに、援軍や73軍から対空砲でミサイルの防空部隊として街に出ている人々は、軍隊だからと言って、何か煌々と灯りを着けているわけではない。しかし、戦車や対空砲をすぐに仕えるようにするためには、常にエンジンをかけている状態になっている。その為に、かすかではあるが灯りはついているし、また、エンジンなどのモーター音がある。こちらは貧民街であり、誰もいないところで黒づくめである。ちょうど、真っ暗な灯りのない場所で夜空を見上げているようなもので、かすかな灯りでも目立つようになっている。
「荒川は東、ヤスは一番近いやつを撃て」
そういうと太田はすぐに南の一帯に向かって撃ったのである。ロケット砲は一組ついて3発。全部で9発素早く打つと、そのまま太田達は貧民街のマンホールに消えた。
「どうだ」
戻った太田は西園寺に聞いた。
「うまくいったみたいだ。連中、いきなり人がバタバタ血を吐いて倒れているからかなり慌てているみたいだ。それも厦門の基地の方からミサイル撃たれているからな。」
「ところでまだ在庫はあるのか」
「あるよ。北京分はちゃんと残してある」
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