小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 8

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第三章 動乱 8


「ワンさん。ここは安全なのか」

 太田も西園寺もそして荒川と安斎も厦門に来ていた。

 しかし、すでに注目されている荒川や安斎が厦門に来ていることがわかれば、中国人民解放軍や公安はすぐに動くことになる。そこで、身分を隠して移動しなければならない。しかし、外国人はホテルにチェックインするときには、パスポートの登録が義務化されている。

 太田などの日本人は、上海のホテルにそのまま部屋を維持しながら、厦門に移動し、その厦門では、ワンの用意した部屋を使った。ワンの用意したのは、ワンの影響下の企業の「独身寮」である。マンションをそのまま借り上げた内容である部屋は、現在のワンルームのホテルとあまり変わりは無いが、しかし、やはりホテルなどとは異なるものである。

 そして、作戦会議などは、ワンの経営する銀行の支店の改質を使った。しかし、銀行といっても本店ではないし、大手の銀行ではないので、コンクリートの二階建てで、上海の本店の様に地下に大きな会議室や金庫室があるような場所ではなかった。その会議室の窓からは表の道路が見えるが、周囲はこの建物よりも高い建物である。どの窓からもこの会議室の中が丸見えである上に、表の道路以外に逃げ道がない。もちろん横の路地にも通路はあるが、しかし、表の通路から襲撃されて囲まれてしまえば、逃げる場所などはない。

 太田寅正は、窓から外を見ながら、すでに何人かこちらを注目している人がいることを見抜いた。

「もちろん、ここは監視されています。しかし、ここに我々がいれば、逆に我々が何もしなかったことの証明になりますよ。上海でわかっているように、我々の見方はここにいるだけではありません。上海のマフィアは、みんな香港のマフィア嫌いね。そしてその香港のマフィアと組んで、軍と組んで、人民を傷つける政府や軍はもっと嫌い。」

 どうするつもりだ、と言い田かったが、その言葉の前に電話が鳴り始めた。ワンは、にやにや笑いながら、中国語で何やら話をし、そして太田の近くにいる馬紅に何かを言った。

「太田組長、せっかくですから、厦門の市内を観光しませんか」

「これだけ敵の監視がいる中でどこかに出かけるという事か」

「あら、怖いの」

「まさか」

「じゃあ、行きません。日本人の皆さんを皆ご案内します。ああ、安斎様だけ大変申し訳ないけれども残ってくださいますか」

「ええっ」

 馬紅は、そういうと、荒川の耳元で何かをささやいた。

「なるほどね」

 荒川はそう言って、安斎に笑って言った。

「安斎さん、あなたにはここに残ってもらいたいんですよ。いや、他に行ってもらいたいところがあるんです。その間我々は、観光してきますから」

「荒川、お前・・・」

「いや、車にも乗れないしね」

 太田や西園寺、そして荒川とマサは、馬紅とともに階下に降りていった。

「さて、安斎さん、先生にはお客さんが来ています」

「客?」

 ワンの案内で応接間に行くと、そこにはハミティが座っていた。

「安斎さん」

「おお、ハミティか。マララはどうした」

 ハミティ。ウイグル解放の戦士でありながら、実際には日本にいるハリフと

共に中国共産党にも通じていた「裏切り者」「スパイ」である。なぜこのような男がここにいるのであろうか。そもそもハミティが活動しているのは北京やウイグルであるはずであり厦門などに来るはずがない。

 そして、一緒にいたはずのマララである。

 マララは、日本で『死の双子』によって殺されたハリフの紹介で荒川があった、やはりウイグル解放の戦士である。いつもハミティと二人で活動していたはずが、なぜか今回はマララがいない。これも不可解なところであった。

「マララはつかまりました」

「つかまった?共産党に逮捕されたという事か」

「はい」

 ハミティは、少ししょんぼりして落ち込んだ雰囲気である。しかし、この男のこのような表情を素直に信用することはできない。

「ハミティが売ったという事か」

「そんな」

 ハミティは声を荒げた。しかし、安斎はすぐにその言葉を制した。

「ではなぜ、ハリフは死んだ。何故我々の行動がすべて共産党が知っていたのだ」

「えっ」

「ハリフから、お前がスパイとして共産党に売ったという話を聞いた。そしてハリフは、二重スパイとして、中国共産党の日本に来ていた軍人に殺されたんだよ」

 ハミティは驚きの表情を浮かべた。そしてその場で膝から崩れ落ちた。

 ハミティからすれば、ハリフの命令に従って、うまく自分が両方を取り持っていた感じであった。しかし、そのハミティの動きが、ウイグルの動きを全て共産党に知らせ、そして、ハリフやマララを苦しめていたことにつながったのだ。

 いや、ハミティからすれば、そもそもハリフの命令であったはずだ。そのハリフの命令通りに動いたのだ。しかし、それがマララを失うような結果につながった。しかし、なぜ安斎はそのようなことを知っているのか。

「あなたはなぜそのようなことを知ってるのか。本当は日本人がハリフさんを殺して私をスパイに仕立てようとしたのではないですか」

「そう思うならば、こんなところに来なければよい。いや、そもそもハミティがここにきていることで、共産党が我々の居場所を知っているということの証明でもあるのだがな。まあ、それはよい。まあ、ハミティの言う通りであったとして、ではマララの逮捕も我々が仕組んだということなのか。それならば日本の政府と共産党が通じていることになるはずだが、そういうことを言っているのか。」

「・・・・・・」

 ハミティは言葉を失った。要するに、共産党が自分たちを切り捨てたということなのであろう。

「マララを救出することはむずかしい。しかし、今の共産党を倒すことで、マララを、いや他のウイグルの人々を助けることもできるはずだ。それが納得できるならば、もう一度来ればよい。」

 安斎は、そのまま立ち上がった。

 ハミティは崩れて床の一点を見つめたままである。しかし、安斎が立ち上がった瞬間に、安斎の足元に縋りついた。

「助けてくれ」

「一度裏切ったものをどうやって信用する」

「何でもやる」

「そうか。それならば何か考えて置く。」

 安斎はそのまま応接室を出た。外にはワンが待っていた。ワンは笑いながら

「安斎さん、非常によくできました。いや、安斎さんがここまでやるとは思っていませんでした。何しろ太田さんも西園寺さんも安斎さんだけはよくわからないとおっしゃられていたので。あ、いやいや、疑ったわけではないのですよ。でも、我々も、いろいろと見ておかなければならないので」

「要するに俺を試したのか」

「いや、どなたかにやっていただかなければならなかったのですが、太田さんや西園寺さんはハミティのことは知りませんし、また、荒川さんはハミティには沖田さんになっていたはずですから。」

「そうだな。安斎のままで話ができるのは俺だけだったという事か」

「それに、外には共産党だけではなく人民解放軍の人々もいます。当然にハミティをここに連れてきたのは彼らでしょう。そこで、彼らを分散させるために、太田さんたちには観光をしてもらったのです。」

「なるほど、要するに太田や荒川を囮にしたという事か」

「悪い言い方をすればそういうことです」

 ワンはまた笑った。

「そこで、あのハミティという男に、これを厦門の基地に運ばせてください。」

 そこには、ペットボトルに入った水があった。

「基地に。」

「はい、もちろん中に死の双子が入っています。これを数本、彼らの水の中に混ぜれば、彼らは持っているすべての水を信用できなくなるはずです。」

「なるほどな」

 安斎はそういうと応接室の中に戻っていった。

宇田川源流

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