小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第三章 動乱 2
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第三章 動乱 2
荒川や安斎が案内されたのは、有名な銀行であった。すでに夜間であったために、銀行の店舗窓口は完全にしまっており、シャッターだけでなく、複数の警備員が治安と銀行への入り口を守っていた。
「おう」
一番先頭車両に乗っていたワンは、一度車から降りて、警備員の一人に声をかけた。何らかのことを中国語で話している。ワンは、その間にくるまにもどってしまった。そしてしばらくすると、地下へ続く駐車場のシャッターが開き、すべての車は、その地下駐車場に吸い込まれるように入っていったのである。
すでに太田寅正はここに何度か来たことがあるのか、車から降りて、ワンのあとに続いてそのまま進んでゆく。その警戒感がない雰囲気を見れば、完全に信用しているのであろう。どうしてよいかわからないと、車から降りて立っていると、そこにヤスが過ぎに近寄ってきた。
「荒川さん、安斎さん、こちらです」
後ろから来た西園寺が笑顔で近づいてきた。その周辺は小銃を持った男たちが周辺を囲んでいる。とてもリラックスできる雰囲気ではない。太田や西園寺が余裕を持って歩いているからなんとなく大丈夫であろうというような感じであり、逆に全員がここで騙されているのであれば、全員ここで「ハチの巣」になるという感じでしかない。
「ヤス、そんなこと言ったって無理だろう。周辺見てみろ。こんなに銃を持った黒づくめの男たちに囲まれてちゃ。堅気さんには金賞しかないよ。それも、荒川さんや安斎さんは、丸腰でずっと共産党と戦って神経すり減らしてんだ。もっと優しく、丁寧にな」
恥ずかしながら、西園寺の言うとおりである。
「へい、失礼しました」
ヤスは頭を下げた。
「ここは銀行の地下駐車場ですよね」
安斎が、ふざけたような口調で聞いた。いや、安斎は緊張しすぎると、このような口調になってしまうのである。
「へい、ワンさんのところが買収した銀行です。ワンさんは、我々と同じ稼業の輩でもあり・・・・・・」
「おい、ヤス。そんな言い方するんじゃねえ」
西園寺がすぐに突っ込みを入れる。
「へい、申し訳ありません。ようするに、ワンさんは実業家でもあるので、このような銀行や貿易商などもやっておりまして、うちの親分も取引があるんです。」
何の貿易をしているのかと聞こうとした安斎を、荒川は止めた。当然に、その時に麻薬とか銃とかそういった言葉が出てきてしまうことは間違いがない。まさか普通の者を取引などはしているはずがないのである。
安斎は驚いたように荒川を見たが、その荒川の視線の先に、黒づくめの男が小銃を持っているのを見て、察したようである。
「で、銀行の会議室か何かで・・・」
「そんなはずないでしょう。」
ヤスはだらしない笑顔で笑った。何か良いところというか、倫理的にはよからぬことがあるようだ。しかし、それ以上詮索せずに、そのまま西園寺の後に続くことにした。その後ろにヤスが護衛の様についてきていた。
中に入ると銀行であることは明らかであるようなオフィスである。不正がないようになのかわからないが、壁はほとんどがガラス張りで、一目でフロアのほとんどが見渡せるようになっている。その先にエレベーターが扉が開いたまま待っていた。すでに太田とワンは先に行ったのか、すでに姿はない。
「最上階か何かで……」
安斎が自分の緊張をほぐすために言うと、西園寺が後ろから小突いた。
「黙っておけ」
階下に下がると、そのまま真っ直ぐに廊下が続いている。その先には金庫室と思われる重い扉だ。そしてその扉を開くと、貸金庫の様になっている。入口は小さな金庫室。そして置くん医もう一つ扉があり、その先には横に扉ができている。そしてその横の扉に、小さな貸金庫室がつながっている感じだ。その中の一つが空いており、その貸金庫室の壁が開くようになっていた。普通に入ってきたら全くわからない隠し扉である。
「厳重ですね」
「ああ」
その奥には階段があり、多分地下4階に当たる場所に再度金庫室がある。その扉を開けると、そこになぜか日本の和室のような宴会場があった。
「おう、来たか」
太田は、すでにその席に座っていた。その横にはワンが、そして上海のマフィアのボスと思われる人々が勢ぞろいしていた。
「荒川さん。紹介はしないでおくよ。ここにいるのは皆非合法な人々ばかりだからね。知っていても知られていてもあまり良いことはないだろうよ。でも、今回は香港の奴らと戦わなきゃならないからね。こいつらは皆、王獏会の奴らと敵対して、苦い思いをしている奴らばかりだ。それに、共産党政府にもあまり従っていない。もちろん、生活をするには政府のお目こぼしとかは必要だが、基本的には政府に忠誠を誓っているわけじゃねえ。まあ、うまい距離感で付き合っているという感じだ。だいたい、日本の俺たちも、中国のマフィアも、政府に見捨てられた奴が集まってんだ。だから政府に対する忠誠とかそんなもんはまったくない。お互いがうまく利用するそんな感じだ。」
「そうですか」
荒川は、一回見まわした後に、進められた席に座った。席といっても座布団が置かれているだけである。目の前には鍋物であろうか、すでにコンロには火がかけられていた。
「それで荒川さん、あんたの話が終わるまで、固めの杯は始まんねえ。あんたが日本で起きたこと、そして、北京での話、その上でここの人々が質問して、そして、それでも一緒になって仲間になって一緒に戦うということが決まれば、その上で杯を変わるということになっている。もちろん、その中には一緒に戦えねえっている人もいる。そういうのはここで出て行ってもらうことになる。」
「ああ、荒川さん」
ワンが話をした。
「ここは、他のホテルとかと違って、カメラも盗聴器もありません。また、ここにいる人々は皆、口は堅いし、録音機なども持っていません。ここで話したことはここだけで終わります。そのような秘密の話をするために、金庫室の奥にインターネットも通じない部屋を作ったのです。」
確かに、ここで話した情報は絶対に外に漏れないであろう。ついでに言えば、ここで人を殺しても誰にもばれることはない。さすがにマフィアはよく考えたものだ。銀行の金庫室は音も漏れないので、絶対に安心ということなのであろう。
荒川は覚悟を決めて今までの話をした。
死の双子の話、王獏会のアレックス・ヤンが絡んでいる話。中国政府が日本を小激しようとしている話、そしてその話を止めようとしているというか共産党の中で分裂があり、胡英華と王瑞環が接触してきた話をした。
「日本と中国の話は分かんねえ。でも、そうやって娑婆を荒らされれば、困るのは俺たちだ」
太田は、荒川が話した後にそういった。
「ここにあるのはしゃぶしゃぶだ、食べた奴は仲間だ。しっかりと王獏会と戦ってもらう。仲間じゃない奴は出て行け」
ワンがその様に中国語で行った。その後、中国のマフィアが中国語で盛り上がったがすでになんだかわからなかった。この中国マフィアのいう「しゃぶしゃぶ」とは「麻薬を溶かし込んだ鍋」つまり「しゃぶの鍋」という意味である。話しているうちにだんだんと中毒が始まり、良い気分になっていったのである。
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