小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 24
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第二章 深淵 24
「ひどいことするなあ」
藤田はそういうと、動き始めた。これ以上ここにいる必要はない。知りたいことは大体ここで見えた。同時に、防護服を着た警備員が皆いなくなったということは、当然に今が最も警備が薄い時間である。特に、あのように盛大に倉庫内で病原性ウイルスである「死の双子」をバラまいたのであれば、当然にあの場を掃除しなければならない。どの様な消毒剤を使って掃除するのか、どのようにすれば掃除できるのかということは非常に気になるところであるが、隣の倉庫の屋上から見ていても、どの様な薬品を使っているかはわかりはしない。間違いなく、防護服を着て掃除するし、薬品名が書いてあるわけではないだろう。其れよりは、病原菌に塗れたハリフの死体の方が問題である。あのようなものを人通りに多いところに放置されて、誰かが振れればまた事件になる。
逆んい、今の状態を見ていれば、「死の双子」というのは「空気感染」を起こすものではない。多分飛沫やウイルス本体を、粘膜などで吸収させないと感染はしない。空気感染をするならば、間違いなくあの女性、多分林青が防護服を着るなり、マスクをするなりしていたはずだ。全く普通の服装で、試験管をもって液体をハリフにたらしたということは、その病原菌そのものに触れなければ何とかなるということだ。
一方、顔に書けただけで血を吹いてハリフは死んだ。いやまだ息があったかもしれないが、かなり良くない状態であった。長崎の女性の例を見ても、即死はしないという事であろうが、しかし、対処方法がない。ある意味で、肌や粘膜から吸収され、はやい速度で体内を回るか、あるいは、かかったところから順に浸食されてゆくということになるのであろう。そういえばハリフは、顔にかけられて、顔の周辺、目や耳、口などから血を吐いていた。しかし、その時に服などは血がにじむようなことはなかった。つまりウイルス「死の双子」がかかったところから順に、そのウイルスが血管を侵食し穴をあけてしまうということなのであろう。もちろん、血管だけではなく筋肉組織などもボロボロにされてしまうということになる。そして、その場所を手当てしようとして他の人が触れれば、その触れた先にウイルスが付着してまた浸食が始まるということになる。
いずれにせよ、ハリフはもう助からないであろう。
藤田は、慎重に倉庫の周辺を見た。中国の借りている倉庫の反対側に人がいないが、先ほどマイクをハリフから出した時に、中国人の警備員が倉庫周辺を見回っていた。その様に考えれば、油断して簡単に姿を見せるわけにはいかない。藤田はもう一度戻ると、中国の借りている倉庫側に動いた。そのうえで、スマホを動かして車のエンジンをかけた。
「誰かがいるぞ」
「点検せよ」
一度戻りかけた警備員たちが、皆車のエンジンがかかったほうに向かった。車は倉庫の外に止めてあるが、金網でしか区切られていないので、簡単に電波が届く。藤田はそれを利用したのである。そのうえで、車とは反対の方に走ると、そのまま倉庫の横に停泊している船の中に身を隠した。そして船伝いに倉庫の敷地を抜け出した。
「見つかったか」
「いえ」
林青は、焦った。完全な民間人であれば、車の音がしてもその車の中に入っているはずだ。もちろん今のキーレスであれば、少し遠くからエンジンをかけて車の中のエアコンなどを着けておくことができる。しかし、その車に人が来ないとなれば、当然に、そちらに注意を向けて反対側抜け出したのに違いないのである。
「やられたか」
林青は舌打ちをした。誰かにハリフを殺すところを見られた。それどころか今の会話を聞かれたのである。
「博士」
「はい」
毛永漢は、やはり最近を扱う学者特有のあまり口を開かない話し方で、返事をした。
「すぐに設備を、いやウイルスをすべて移動できるように用意してください」
「作りかけは」
「時間がかかるものは破棄しなさい。多分、近いうちにここは襲撃されます」
毛永漢は、ほとんど感情を表情に表さないのであるが、しかし、それでも驚いたように目を見開くと、そのまま頭を下げた。
「林少尉。よろしいでしょうか」
毛永漢の助手である栗紅凜が話した。
「何」
「廃棄はどのようにしたら」
「海に流しなさい」
「そのようなことをすると、海から感染が広がる可能性がありますが」
「かまいません、我々が魚を食べなければよいだけです」
林青は、そういうと、警備の責任者を呼んだ。
「この倉庫に爆弾を仕掛けなさい。特に研究施設などはすべて破棄します。良いですね。プランZです」
「はい」
警備責任者は頭を下げるとそのままその方向で動き始めた。
林は、このようになることは想定していたものの、その時にどのように動くのか、首都で大々的に「死の双子」をバラまくのか、そうではなく、一度撤退するのか、そのようなことは全くし維持を受けていなかった。その為に、このあとの展開が見えていない。
「移動先は」
「飯倉の奉天苑」
実験施設の移転先までは、何かあった時は奉天苑にするということを決めていた。中華料理店であれば、実験道具なども手に入りやすい。また不特定多数の人物が出入りしてもあまり怪しまれることはない。その様に考えれば、陳文敏を説得すればよいということになるのだ。
「今田さん」
「それでハリフに遺体はどこに」
「羽田の野鳥公園の端の方に」
「わかりました。すぐに人を急行させましょう。」
藤田は船を移動しながら、今田陽子に電話をした。今田陽子は、かなりショックを受けたような感じであった。
藤田の話によれば、そもそものスパイはハリフ本人であった。要するに今田はハリフが共産党の敵対集団であるという前提で話をしていたので、ある程度の協力をすることをすでに伝えている。それらの内容がすべて中国に伝わっているということになる。つまり、阿川内閣そのもの、または、日本を敵対視するということになるのである。完全に日本全体を敵対視するということになれば、「死の双子」だけではなく様々な病原菌を日本でばらまきかねないのである。
「今田さん、聞いてる」
「はい」
「それに、多分倉庫ごと爆破するでしょう。あの倉庫の中に多分実験プラントや培養プラントがあるはずだ。そのプラントがばれると困るから、多分あそこから移転するはず。その移転の最中を狙うしかない。その手配をお願いします。」
「手配って」
「当然、その時に全員を捕まえるか、場合によっては殺すか。いずれにせよ、あの倉庫周辺をうまく使うしかない」
「いつ頃になりそう」
「意外に近いのではないかな」
「わかった。ハリフの件が終わったらそのまま葛城さんにお願いしましょう。」
「こっちも忘れてもらったら困るよ」
藤田は笑って電話を切った。
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